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11 謝罪に行きました!

 翌朝は昨日とはうって変わって良い天気でした。

 私はその雲一つない空を窓から見上げながら、はぁ……昨日晴れてくれたらよかったのに……、と思わずにはいられません。


 エンジェル夫人は私と顔を合わすと、


「メアリー、今日は良いお天気ね。今日のお約束は無いんでしょう?一緒に温泉施設に行くわよ」


 と、いつも通りのノンビリとした口調で声を掛けてきます。

 しかし、私には昨夜から考えていた計画があるのです、一緒にはいけません。


「いいえ、おばさま。今日はスピードマンご兄妹の所へ昨日のお詫びに行きたいのです。行っても構わないですよね?」


「あら?そうね、それが良いと思いますよ。でもスピードマンご兄妹はどこにお泊りなのかしら?」


「……おじさまはご存知でないですか?」


「あの人?そうね、知っているかも知れないわね、ねぇ、貴方!」


 といって新聞を読んでいたエンジェル氏に声を掛けてくれます。


「なんだね?」


「メアリーがぜひ貴方にご相談があるんですって、相談にのってやってくださいな」


「……おじさま、スピードマンご兄妹が泊まっているホテルをご存知ではありませんか?昨日のお詫びに行きたいのです」


「ん?あぁ、知っているよ」


 と言って、簡単に地図まで書いてくれるではありませんか!

 さすがはエンジェル氏です、素敵です。

 もし、エンジェル氏がもう三十ぐらい若ければ、恋心を抱いてしまったかもしれませんね。


「失礼の無い様にな」


「はい、おじさま。ありがとうございます。早速行ってきたいと思います」


 そうして私はエンジェル氏から場所を書いたメモを受け取ると、早速スピードマンご兄妹が泊まっているホテルへと向かうのでした。






§ § §






 ここがスピードマンご兄妹泊まっているホテルね。

 そこは、私が泊まっているホテルより立派なホテルでした。

 さすが伯爵家だけはあります!

 私はエンジェル氏から聞いた部屋番号を何度も確かめると、「コンコン」とドアをノックし、出て来た使用人に対して、


「レディ・スピードマン、若しくはスピードマンさんはいらっしゃいませんか?」


 と尋ねます。


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


「申し遅れました、私はこういった者です」


 私は名刺を取り出すと、使用人に手渡しました。

 受け取った使用人は、


「ミス・シドニー様でいらっしゃいますか、しばらくお待ちください」


 そう言い残して奥へと引っ込みます。

 そしてしばらくして戻ってくると、


「申し訳ありません。両名ともご不在でございます」


 と淀みなくおっしゃったのです。

 しかし、私は分かっています、この方は嘘をついてますね。

 不在ならわざわざ奥に引っ込む必要などはなく、その場でそう言えば良いのですから。

 でもそれが分かっていても私にはどうする事も出来ないのです……。


「……分かりました、失礼いたします」


 私は失意のうちにホテルを出ました。

 そして、スピードマンご兄妹が泊まっている部屋の窓をチラリと見上げます。

 するとなんという事でしょう。

 そこにはレディ・スピードマンと思しき女性が、垣間見えたのです。

 お隣にいるのは男性でしょうか?

 きっとスピードマンさんかもしれません。

 やっぱり居留守をつかわれたんだ、そうよね、昨日の事怒っていて当然だもんね。

 でも、本当に悪いのは私ではなくグレーヴスさんなのに、言い訳もできないなんて……。

 私はそんなこんなを思いながら、やっとの事で自分のホテルに帰り着くと、挨拶もそこそこに自身の部屋に閉じこもってしまいました。

 ベッドにゴロンと寝転がり目を閉じると、悲しみと怒りが交互に湧き上がってきます。

 そして、私はそのまま眠りに落ちてしまいました。






§ § §






 そして今、私は馬車で劇場に向かっています。

 本音を言えば、行く気力は有りませんでした。

 でも、エンジェル夫妻と一緒に行くお約束してましたし、それにエンジェル夫人が、


「メアリー、そういう時は気晴らしも必要よ、貴女も楽しみにしていたじゃない。さ、元気出して。一緒に行きましょう?」


 と相変わらずノンビリとですが言ってくれたので、何とか行く気になったのです。

 こういう時、エンジェル夫人のノンビリさにはなんか救われますね。

 そしてその『ダグラス』というお芝居は大変面白く来てよかったと思いました。

 そして休憩の時間の幕間が終わり再び幕が上がり始めた時、ふと辺りを見回した私は見てしまったのです。

 な、なんと!スピードマンさんがボックス席にいるではありませんか!

 これは神様が私に与えてくださったチャンスです。

 私は、お芝居が終わるのを今か今かと待ちわびました。

 あんなに面白いと思ったお芝居なのに、もう全然頭にはいってきません。

 そしてお芝居が終わり、幕が下り始めると、私は急いで席を立ちます。

 急げばスピードマンさんに会えるかもしれませんからね。

 そして通路で、スピードマンさんがやってくるのを待ちます。

 あのボックス席の位置なら、この通路を必ず通るはずですからね。

 そして、しばらく待つこと数分、私の予想通りスピードマンさんが姿を現したのでした。

 スピードマンさんは私の姿を見かけると、


「おや、ミス・シドニーではありませんか。貴女も『ダクラス』を見に来たのですか?」


 と声を掛けてきましたが、私はそれには答えずに、


「貴方にお会いできて本当に良かったです。直接お詫びをしたいと思っていました。貴方もそしてレディ・スピードマンも私の事を怒っていると思います。それは当然でしょう、私が約束を破った形になったんですから。でも聞いてください、違うのです。私に約束を破る気などなかったのです。あれはグレーヴスさんがウソをついて私をだましたのです。貴方達が馬車で出かけるのを見たと言って私を連れだしたのです」


 私は一息でここまで喋ります。

 すると、私の余りの剣幕にスピードマンさんは驚いた様子で、


「お、落ち着いてくださいミス・シドニー。私は何処にもいきませんよ?もっとゆっくりお話しになってください。昨日のお話ですか?」


「はい、そうです。昨日、貴方達ご兄妹と一緒にお散歩に行くはずだったお話です」


「そうですね、昨日はそのお約束になっていましたが果たされませんでしたね」


「そうです、私は途中で貴方達ご兄妹が私のホテルに向かうのを見ました。それで私はグレーヴスさんに言ったのです。私に嘘を吐きましたね、スグに馬車を止めてくださいって。でも彼は馬車を止めずに貴方が出かけるのを見たと言い続けてました。出来る事なら馬車を飛び降りて貴方達のもとに駆け寄りたかったのです」


「……そんな事があったのですか」


「そうです。これで私が悪くない事は分かってくれたと思いますが、怒っているのも当然だと思います。結果的に私が約束を破ってしまったことに変わりないのですから。今日も午前中に貴方達のホテルへ謝罪にいったときも怒っていらっしゃったからお会いになってくれなかったのでしょう?」


「おや?そうでしたか。その時は私は本当に外出していたんですよ」


「そうですか。でも私は使用人に不在だと言われた後、窓辺にレディ・スピードマンと男の人がいるのを見てしまったのです」


「それは私の父ですね。父とサラーは出かける約束をしてましたので、貴女との会わない様に父が言ったんですよ。父は予定が狂うのを嫌いますからね。私はそうサラーから聞いてます」


「で、では私に怒っていたから会ってくださらなかったわけではないのですね?」


「えぇ。私は本当に不在でしたし、サラー父と先約があり、父が会わないように言ったから会わなかっただけです。これで双方の誤解は無事融けましたね」


 そう言ってニコリとスピードマンさんは優しく私に微笑んでくれたのでした。

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