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09 ステキなダンス!

 そして次の日、私はエンジェル夫妻と一緒に温泉施設へと向かいました。

 今日こそはスピードマン兄妹に会えますように……。

 と、それだけを心に秘めています。

 が、様々な部屋を見回しても見かける事はありませんでした……。

 今日も会えないのかな……。

 そう思うととてもとても悲しくなりました。

 私はすっかりあきらめて俯き加減で椅子に腰かけました。

 するとそこへ、


「あら、メアリー。今日も会えてうれしいわ。今日のドレスや髪型もとっても素敵よ」


 と、私たちより遅れてやってきたらしいエステラに声を掛けられました。

 傍には勿論、お兄様も一緒です。

 この二人の恋路は順調に進んでいるようですね。


「私も会えてうれしいです。エステラのドレスも素敵ですよ」


 と、いつものように挨拶を交わします。

 ん?エステラがいるという事は!?

 私は慌てて辺りをキョロキョロと見回しました。


「まぁメアリー、そんなに辺りを見回してどうしたのかしら?……あっ、まって言わなくていいわ。若しかしなくても私のお兄様を探しているんでしょう?」


「あっ、ち、ちがいます!」


「ふふふふ、隠さなくても大丈夫よ。でも残念ね、お兄様は朝が苦手なの。今日はいらしてないわ」


「そうですか……」


 それを聞いて私はきずかれないように、ほっと溜息を吐きました。

 ……。

 確かに私はグレーヴスさんを探していましたが、それはエステラが想像しているのとはきっと違う理由です。

 私はグレーヴスさんに会いたくないので、もし見かけたら場所を移そうと思っていたのです。

 でもそんな事はエステラには言えません。

 誰しも、自分の家族を悪いように言われたら、気分が悪くなってしまいますからね。

 なので不本意ですが、ここはエステラの勘違いを甘んじて受け入れます。

 挨拶を済ませた私達は、三人で歩き始めます。

 ……なんだろう、この感じは。

 私がすっごいお邪魔感があります。

 お兄様とエステラが頻繁に二人でヒソヒソ話をするので、疎外感がすごいですね。

 私はこの二人から離れた方が良いのではなかろうか、と思い始めた所で、ある人物を見つけました。

 あら!あれは!

 そう、レディ・スピードマンを見つけたのです。

 これ幸いと、私はコッソリと二人から離れました。

 二人はおしゃべりに夢中で気が付いた様子がありません。

 ……それはそれでちょっと悲しいですね。

 ま、まぁ、そのおかげでレディ・スピードマンの所に行けるのでよしとしましょう。


「またお会いしましたね、レディ・スピードマン」


「あら、貴女は……たしか、この間お会いしたミス・シドニー、ですね。お兄様がダンスを申し込まれた」


「はい、そうです。あの……今日はスピードマンさんはいらしているのでしょうか?」


「お兄様ですか?お兄様はあいにくと今日は来ておりません」


「そうなんですか……」


「はい。お兄様にご用事があったのですか?良かったら私から伝えておきますけれど」


「えっ!?あ、いや。よ、用事なんて特にありません」


 私のその言葉にレディ・スピードマンは、何かをさっしたような顔でニコリとほほ笑みます。


「そういえばお兄様は貴女とダンスが踊れなくて大変残念がっていましたわよ」


「そ、そうなんですか?」


「はい、そうなんです。自分なら貴女を決して待たせる事はないのに、とも仰ってました」


 その言葉に、私は自身の顔が赤く染まるのを感じました。

 単なるリップサービスかもしれませんが、それでも良いのです。

 自身の事ですが、私も随分とちょろい女ですね、お兄様を笑えません。


「わ、私も、貴女のお兄様とダンスを踊れなくてとてもとても残念でした」


「そうですか、ではお兄様にそう伝えてきます。それを聞けばお兄様の気持ちも多少和らぐと思いますから」


 それを聞いた私は思わず「はい!」と大きな声を出してしまい、慌てて口をふさぎます。

 レディ・スピードマンは私の大きな声に多少びっくりした様子でしたが、スグに満面の笑みを浮かべると、


「そういえばミス・シドニーは以前、お兄様と踊った事があるとか。楽しかったですか?」


「はい、とっても!それに貴女のお兄様はダンスがとても上手かったです」


「そう貴女に言われて、お兄様も光栄だと思います」


「もう一度、ぜひお会いしたいと思っていたのですが、この間まで会えず、もうすっかりお会いするのをあきらめ掛けていました」


「……お兄様は一度ここ(チェルトナム)を離れていましたから」


「はい、お忙しかったみたいですね。……所で今夜は社交会館にはいらっしゃいますか?」


「今夜ですか?はい、私も、そしてお兄様も行くと思います」


「そ、そうですか!私も絶対行きます!その時にぜひお会いしたいですね」


「はい、私もぜひお会いしたいと思います」


 そう、言った後、レディ・スピードマンは何かをちょっと考えた素振りをみせ、まるで悪戯をする少女のような笑みを見せると、


「お兄様もきっとそう思っているはずですよ」


 そう言ってくれたのでした。

 それを聞いた私は天にも昇る気分になって、ホテルに帰るまでその事で頭がいっぱいになったのでした。

 そして、ホテルに帰ってからはアレコレ衣装やアクセサリーを選ぶのに没頭するのでした。






§ § §






 そして夜がやってきます!

 そう、まちにまった舞踏会の時間です。

 私は万全の準備を整え、エンジェル夫人を急かしつけました。


「おばさま!はやく!早く!ハヤク!このままだと遅れてしまいます!」


「もぅ、メアリーったら。今日はいつも以上に急いでいるのね。何かあったのかしら?」


「ふふふふ、それは秘密です」


「もぅ、そんなに急ぐと折角のドレスが乱れてしまうわよ、落ち着きなさいな」


 などどエンジェル夫人は相も変わらず、ノンビリと仰いますが、それどころではないのですよ。

 一分、一秒だって遅れたくないのです。

 それに、私はスピードマンさん以外の事でも、遅れたくない理由があったのでした。

 私は社交会館につくと、辺りをきょろきょろします。

 探していたのはスピードマンさんと、そしてもう一人。

 そう、あの空気の読めないお邪魔虫のグレーヴスさんです。

 あの方にスピードマンさんより先に出会うと、ダンスを申し込まれてしまう可能性がありますからね。

 先にダンスを申し込まれてしまうと、状況的に受けざるを得ない可能性が高くなってしまうのですよ。

 正当な理由がない限り、ダンスの申し込みをお断りするのはとてもとても大変なのです。

 よし……今日はエステラたちより早く社交会館についたようですね。

 私はほっと一息つきます。

 あとはこの位置から、入り口を見張っていて、スピードマンさんが来たらスグにご挨拶して、エステラたちがきたらコッソリと隠れるだけです。

 そして予想した通りにエステラの姿を見つけた私は、コッソリと人込みに紛れます。

 勿論、あのお邪魔虫であるグレーヴスさんもいたので、決して見つからない様にしないといけません。

 ……早くスピードマンさん達来てくれないかな。






§ § §






 結論から言うと、スピードマンさん達はなかなか来てくれません。

 ですが、神様は私を見捨ててはいませんでした。

 ダンスの最初の曲が終わり、私が予定が変わって今夜は来ないのかな、と悲しい気分になり始めた時、それを見つけたのです。

 そう、スピードマン兄妹の姿です。

 私はその姿を目にした瞬間、エステラ達に見付かる危険もいとわず、急いで駆け寄ります。


「こ、こんばんわです。スピードマンさん」


「おや、ミス・シドニー。こんばんわ、またお会いしましたね」


「はい、今夜は貴方も訪れるとレディ・スピードマンに聞きましたので、お、お会いできるのを楽しみにしておりました」


「……そうですか、私も貴女にお会いできて光栄です」


 そして、隣のレディ・スピードマンがスピードマンさんに何やらアイコンタクトをすると、スピードマンさんは苦笑しつつ、


「もし、ご予定が入っていなかったらですが、この後、私とダンスを踊ってくれませんか?」


 きました!待ち焦がれたスピードマンさんからのダンスのお誘いです!


「ぜ、ぜひ!予定など入っておりません!」


 と、つい大きな声で言ってしまいました。

 すると、スピードマンさんがその声にややびっくりとした様子でしたが、優し気な笑みを浮かべてくれます。


「そうですか、よかった。ではホンの少しだけお待ちいただけませんか?先に挨拶をしなければならない人がいるのです。ではサラー、行こう」


 そう言って私に丁寧な挨拶をしてスピードマン兄妹は人込みに紛れてしまいました。

 私は天にも昇る気持ちでその後ろ姿をぼーっと眺めます。

 とっても幸せな気分です。

 スピードマン兄妹は何やら厳つい顔をした年配の紳士とお話してますね。

 どのようなお知り合いなんでしょう、早く終わって戻ってきてくれないかな。

 と思っていた所で、不意に声がかかります。


「ミス・シドニー、こんな所にいたのですか。随分と探したんですよ」


 そう、空気の読めないグレーヴスさんです。


「……そうでしたか?私はずっとここにおりましたよ。グレーヴスさん」


「先ほど貴女の声が聞こえたような気がして、声の方を向いたら貴女がいたのです。所で先ほど話していた男性は誰ですか?まさか、ダンスの約束をしてしまったのでは無いでしょうね?」


「先ほどの男性はスピードマンさんです。……彼からダンスを申し込まれたのでお受けしました」


 それを聞いたグレーヴスさんは信じられない、という顔をしました。


「そ、そんな!貴女は一番最初に僕と踊ってくれると思っていましたのに!」


「……あら?そんなお約束はしていないはずです」


「そうですか?一緒にドライブした時お約束しませんでしたか?したような気がするのですが」


「いーえ、お約束はしていません。グレーヴスさんの勘違いです」


 そうです、これは嘘などではなく絶対にそんな約束などしてません。


「……貴女がそう言われるのなら、そうかもしれませんが……」


 そう言ってシブシブとグレーヴスさんは引き下がりますが、これは絶対に納得してない顔ですね。

 私はもうこれ以上グレーヴスさんに付き合ってられませんので、適当にお話を切り上げるとスピードマンさんに向かって歩き出しました。

 ちょうど、あの紳士とのお話も終わったようですね。


「ミス・シドニー、あの男性とのお話は終わりましたか?あと少し長く話しているようなら、僕の方から話し掛けようと思っていたんです。僕のダンスパートナーを返してくれってね」


「あの方はグレーヴスさんと言います。……お兄様の親友なので無下にするわけにはいかなかったのです」


「そうでしたか、親し気に話す貴女達を見て、危うく嫉妬の念に駆られるところでしたよ」


 そう言ってスピードマンさんは不敵に笑います。


「まぁ!ほ、本当ですか!?」


「でも、その前に貴女が帰ってきてくれましたので、幸い嫉妬の念に駆られずに済みましたけどね」


 そんな会話をしながら私達はダンスの列に並びます。

 そしてダンスの曲が始まりました。

 その時なのです、私がある違和感に気が付いたのは。

 踊っている間中、ずっと誰かの視線を感じていたのです。

 最初はグレーヴスさんがみつめているのだと思っていました。

 しかし、視界の端っこで、グレーヴスさんが違う女性とダンスを踊っているのに気が付きます。

 あれ?じゃこの視線は一体……?

 私はダンスを踊りながらも、辺りを少しづつ見回します。

 そして発見したのです。

 年配の紳士が、私の事をじっとみつめてる姿を。

 あれは……。そう、スピードマンさんが先ほどご挨拶に行った方じゃないかしら?

 そうです、間違いありません。

 その方がなぜ私を……?

 その疑問はほどなくして解決します。

 スピードマンさんと二回ダンスをし、一緒にレディ・スピードマンが座る席へ戻ってきた時、スピードマンさんの口から明らかにされたのでした。


「貴女も気が付いていたでしょう?一人の紳士が貴女の事をじっとみつめていたのを」


「はい……。あれは一体何方だったのでしょうか?」


「あれはエルズミア伯爵です」


「えっ!?それって…」


「そう、僕とサラーの父ですよ。父に挨拶した時、貴女と踊る事を伝えたんです。それで貴女に興味を持ったのでしょう」


「あら、お父様が?」


「そうだよサラー。僕だけでなく君が踊った相手もチェックしているかもしれないね」


「まぁ」


 そう言ってレディ・スピードマンが一瞬顔を顰めたように見えました。


「父はそういう人なんです。まぁ、気になさらないでください」


 そして話題は移り変わり、そうこうしてるうちに楽しい舞踏会も終わりを告げる時がやってきました。


「また、お二人にお会いできると嬉しいです」


 私は口だけでなく心の底からそう思いました。


「そうですね。……あ、お兄様、もし宜しければ明日の散歩にミス・シドニーをお誘いしてもよろしいですか?私、もっとお話ししたいんです」


「そうだね。いいんじゃないか?」


「ではミス・シドニー。明日、晴れていたら散歩をご一緒しませんか?お兄様も一緒でよければですが」


 そう言ってレディ・スピードマンは優し気に微笑んでくれました。

 勿論私は二つ返事でお受けします。


「ぜ、ぜひお願いします!わ、私ももっとお話ししたいです」


 思ってみない約束を取り付けられた私は、エンジェル夫妻と一緒にルンルン気分でホテルに帰り着きました。

 明日、楽しみ~。

 そして、楽しみのあまり、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかったのはナイショなのである。

 私は子供か!

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