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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

追放聖女は祈りを止めない

作者: 立草岩央
掲載日:2020/07/18

「あの偽聖女を追放しろッ!!」


村人達が一斉に武器を向けてくる。

何が起きているのか全く分からない。

神官の少女、シェオルは向けられた武器に抵抗できず、戸惑うだけだった。


「どうして、こんな事に……」

「どうしてじゃとッ!? お前がこの子を襲い、結界を破壊した魔女だからじゃ! まさか、このバルラック村を全滅させようとは……!」


村人達の中心にいる村長は怒り狂いながら、シェオルを責め立てる。

だが肝心の彼女には全く心当たりがない。

そして村長が指を差す方向には、頭から血を流したもう一人の女神官。

この村、バルラック村出身のキーラがいた。


「村長さん、その女から離れて……! ソイツは聖女なんかじゃないわ……ううっ……!」

「キーラ、もう大丈夫だからね! あたし達は、アンタの味方だよ!」


キーラは村人達に守られながら、仲間である筈の彼女を悪と断じて扇動する。

この場にそれを止める者はいない。

村人達の怒声はより一層大きくなるばかりだ。

直後、不意を突くように村人の男がシェオルの腕を掴み上げた。


「っ!?」


振り解くことは出来なかった。

腕を掴んだ男は、これ見よがしに他の村人達にその有様を見せつける。


「捕まえたぞ! どうする!?」

「どうもこうもない! 殺してしまおう!」

「ただ殺すだけじゃ駄目だ! こんな魔女は火炙りが相応しい!」

「いや、待て! もっと良い方法があるぞ……!」


村人達は口々に囁いた後、妙案だと言わんばかりにニヤリと笑う。

そうしてシェオルは両腕を掴まれたまま、無理矢理移動させられた。

抵抗する間もなく連れられたのは、村の外。

村を覆っている結界の外部だった。

結界の向こう側は紫色の空気が漂い、禍々しい瘴気と化している。

今しようとしている事が何を意味するのか、事態を理解していないシェオルもそれだけはハッキリと分かった。

直後、彼女は結界の僅かに開いた穴から、向こう側へと突き飛ばされる。


「これでお前も終わりだ! 自分が壊した結界の向こうで、瘴気に蝕まれて死んでいけ!」


村人達は邪悪な笑みを浮かべ、背を向けて去っていく。

開いていた結界の穴も、ゆっくりと塞がれていった。

結界に阻まれ戻る事の叶わなくなったシェオルは、両手で結界に触れ、去っていく人々の姿を捉える。

するとその中で、こちらをジッと見つめるキーラの姿があった。


「キーラさん……貴方は……」

「ざまあみろ。このクソ女」


神官とは思えない下劣な言葉に、呆気に取られる。

キーラは始めから、自分の事をそんな風に思っていたのか。

皆と共に去っていく彼女の姿を見て、シェオルはその場に項垂れる事しか出来ない。

そして何故、という疑問ばかりが頭の中を支配していった。







時を遡る事、一ヶ月前。

シェオルは教会からこのバルラック村へと派遣された。


「教会より派遣されてきました。シェオルと申します」

「うむ。儂がこのバルラック村の村長じゃ」

「よろしくお願いします」

「君の力は聞き及んでおる。類い稀なるその才能は、まさしく聖女であるとか。まぁ、その力は必要ないかもしれんが、期待しておるぞ」


始めの内は村人達から歓迎されていた。

シェオルの役目はこの村の防衛、村を守る結界を維持する事だったからだ。

今現在、世界には瘴気なるものが蔓延っている。

それは触れるだけで正気を失わせ、最期には狂い殺す呪いのようなものだ。

その呪いから人々を守る役目を持つのが、神に仕える神官。

神から授かった力で結界を作り、人々を瘴気から守るのだ。


シェオルは教会内でも随一の実力があった。

その力はかの聖女に匹敵する程だとも言われている。

そんな彼女が何故、バルラック村にやって来たか。

理由は単純で、村の結界を張っている神官の補佐だった。

補佐する相手は村出身の女神官、キーラ。

彼女の力が不安定であるが故、村の結界の補強が目的の派遣だったのだ。


「貴方がキーラさん、ですね?」

「……アンタが、今回来た神官?」

「はい、シェオルと申します。よろしくお願いします」

「ふーん、あっそ」

「……?」


対するキーラの態度は酷く素っ気なかった。

始めはそういう気風の人なのだろうとシェオルも納得していた。

しかし、それは違った。

彼女は村の人々にはとても優しく親切だった。


「キーラ、いつも世話を掛けるねぇ」

「いえいえ! これ位、神官として当然の事! いつでも私を頼ってね!」


二面性を感じさせる変わりように、シェオルは納得し切れなかった。

そんな事をする意味が何処にあるのだろう。

キーラの意図が分からず、何度か問い掛けてみるも反応は変わならい。


「何、ぼさっとしてんの。早く結界を強化してよ」

「はぁ……」


兎に角、自分の役目を果たしていれば良いのだろう。

どうにか折り合いをつけたシェオルは、バルラック村の結界維持に尽力した。

確かに結界は不安定に過ぎた。

キーラ一人で維持することは出来ているが、ちょっとした弾みで崩壊する可能性もある。

そうして彼女のバックアップに回って数週間が経った頃だ。

シェオルに対する村人達の反応が、露骨に変わり始めていたのだ。

会話を求めても反応が薄く、ぞんざいな扱いばかり。

それはまるでキーラと同じ言動だった。

その内に村人の女性からボソリと告げられる。


「アンタ、キーラにもしもの事があったら承知しないよ」

「え? どういう事ですか?」

「自分の胸に聞いてみたらどうだい?」


残念ながら何を聞いても覚えがない。

キーラにもしもの時と言われたが、そのもしもを無くすためにシェオルは派遣されてきたのだ。

何かの間違いではないか、と思い反論したが、やはり真っ当な反応は帰って来ない。

自分が既に悪者にされているような感覚。

彼女の中で、このバルラック村への疑問が積もりつつあった。

そうして更に数日が経ったある日の事。

一人で結界の状態を見て回っていた時の事だった。


「シェオル!」

「どうしたんですか、キーラさん。そんなに慌てて」

「村の子供が、結界の向こうに出ちゃったのよ!」


キーラが大声でそう呼び止める。

結界の向こうとは、瘴気の向こう側だ。

安易に行く場所でもなく、無事でいられるかも分からない危険地帯だ。

流石のシェオルも立ち止まり、魔力を通じて結界の状況を探知することにした。


「きっと結界に綻びがあったんだわ! 近くで遊んでいた子が、一人でそこを飛び越えたの! 早く連れ戻さないと……!」

「綻びですか? そんなもの、何処にも感じませんが」

「私がこの目で見たから間違いないの! アンタなら結界を解いて、子供を連れ戻すことだって出来るでしょ!? 早くして!」

「結界を解く? そんな事をしたら、瘴気が漏れ出て村一帯を覆ってしまいます」

「だったら何? 村の子を見殺しにするって言うの!? アンタ、聖女じゃないの!?」


何故か非難される。

子供が結界の向こうに行ったという形跡は、やはり感じられない。

結界の綻びはシェオルが携わってから過去を通して一度もなく、二つ返事で解除するのは躊躇われた。

本当に子供が結界を抜けていったのか。

そもそもキーラの言っている事は正しいのか。

嫌な予感がしたが、万一の可能性を考えて彼女は一つの案を導き出す。


「でしたら結界に穴を開けて、一時的に人が通れるようにします。その間に私が出入りして、子供を助ける。これで、どうでしょう」

「……分かったわ。じゃあ、綻びがあった所まで案内するから」


そうしてシェオルは穴が開いているらしい結界付近に案内される。

元々あった家が取り壊されて荒地になった場所だ。

見渡しても周囲には誰もいない。

彼女は青白く光る結界を直に目視し、解れがないか確認した。


「やっぱり……」


綻びなんて何処にもない。

キーラが言うには一瞬の間だけ穴が開いたと言っていたが、それならば再修復した際の痕跡が残る筈である。

無論、そんなモノは見当たらない。

シェオルは一度だけキーラの方へと振り返る。


「貴方は、もしかして」

「何?」

「いえ。その言葉、信じます」


その場から一切動かないキーラを置いて、シェオルは結界に穴を開け、向こう側へと侵入した。

直ぐに穴を閉じると、自身に小型の結界を纏いながら、瘴気の中を進んでいく。

瘴気は触れるだけで身体を蝕む。

大の大人でも数分触れているだけで、瘴気が失われていくという。

仮に子供が残されているなら、取り返しのつかない事態になる。


「誰も、いない」


だが、暫く探っても子供の気配は感じられない。

そもそも生命体がいる様子もない。

嫌な予感がして、シェオルは村に舞い戻る。

慎重に瘴気を払い、小走りで結界の所まで足を運んだ時だった。

視界の先、結界を挟んだ向こう側にキーラが見える。

彼女は手に大きな石を持っていた。

ぶつけるとかなりの怪我をしてしまいそうなゴツゴツとした石だ。

そしてシェオルと視線が合った瞬間、突然彼女はそれで自分の頭を殴りつけたのだ。

そんな事をすれば当然、頭から血が流れ出る。

何をしているのか分からず、シェオルは思わず駆け寄った。


「キーラさん? 一体、何を?」

「だ、誰かっ! 誰か助けてえええっっ!」


直後、キーラはまるで自分が襲われているかのような叫び声を上げ、村の中心へと駆け出していった。







後は、転がり落ちるようだった。

シェオルはキーラを襲い、結界を破壊したとして吊るし上げられた。

そうして私刑同然の形で結界の外へと追い出されたのだ。

最早、誰も見向きもしない。

彼女は塞がれた結界に手を触れたまま、俯くことしか出来ない。


「こんな事になるなんて……」


こうなった事情も、何があってキーラがあんな真似をしたのかも、理解は出来なかった。

瘴気の海に投げ出された今、シェオルを守っているのは、探索の際に自分に施した結界だけだ。

これを解けば、直ぐにでも瘴気は彼女を襲うだろう。

茫然自失となり、これからどうすれば良いのかも分からない。

そんな時だった。

触れていた村の結界に異変が起きる。


「あっ! け、結界が!」


揺らぎ始めている。

村人達に吊るし上げられた際、動揺が祟って魔力が十全に行き渡っていなかったのだ。

本物の綻びが生じ、結界の力が弱まっていく。

シェオルを追放した今、キーラ一人の力ではこの結界を維持することは出来ない。


「このままだと、村に瘴気が……!」


事実に気付いたシェオルは、再び魔力を巡らせた。

自身を追放した村を守るため、綻びを自ら修復していく。

相手は理不尽を押し通した人々だ。

それでも聖女と呼ばれた神官として見捨てるなど言語道断だった。

彼女は両手を合わせ、ひたすらに祈りを捧げる。


「今の私に出来る事は、祈り続ける事だけ……ジャック様、ごめんなさい……」


手を差し伸べる者はいない。

絶望的な状況で彼女が思い浮かべたのは、かつての恩人、ジャック・カタストロだった。







王国の中心部。

カタストロ家の名を持つ子息、ジャックにも一連の騒動は耳に入ってきた。

従者からの伝達を聞き、思わず椅子から立ち上がる。


「何だって、シェオルが!?」

「はい! 情報が不確かなので、直ちに兵を送るそうですが……!」

「俺も行く! 父上にはそう伝えておいてくれ!」


これは教会と一村の出来事だ。

派遣元である協会がすぐにでも調査に当たるだろう。

貴族が関わる問題ではないのだが、それでもジャックは自らの意志でバルラック村へ向かう事を決意する。

それは他でもない彼女、女神官のシェオルが犯人として断罪されつつあるためだ。

急ぎ出発の支度をしながら、彼は呟く。


「彼女が結界を破壊した裏切りの聖女だって? そんな筈がない……!」


ジャックが彼女と出会ったのは3年前。

カタストロ家の敷地、自然保護扱いにもなっている希少な森林の中、生態の調査に当たっていた彼は一人の金髪少女を見つけた。

それがシェオルである。

彼女は一人こんこんと眠り続けており、ジャックに起こされてようやく目を覚ました。


『君、名前は?』

『……シェオル』


どうやって此処まで来たのか。

何故こんな場所で眠っていたのか。

自分の名前以外は覚えていないようだった。

当然、ジャックは放置する訳にもいかず屋敷に彼女を引き入れた。

拒む者も少なくない中、無理を言って自身の監視下に置いた。

それは彼女が部外者だからという理由だけではない。


『カタストロの領地に入ってきた者は、これまでにいない。国内随一の結界が敷かれているからだ。それを君は、どういう訳か潜り抜けて来た』

『……?』

『中には得体の知れない君の放逐を望む声もあるが……君はどうしたい?』


シェオルが森に侵入することは有り得なかった。

それが出来るとすれば、最上級の結界相手に気付かれずに素通りするという出鱈目さを認めなければならない。

加えて彼女は痛みを知らず、疲れを知らない。

食欲や睡眠欲、人が本来持つべき感覚も存在していない。

つまりは異質な得体知れなさ、というのが最も大きな理由だったのだ。

あくまで意志を尊重すると、突然彼女は空を見上げた。


『結び目……』

『え?』

『この結界は、結び目が不安定。今から8時間35分16秒後に、ここから北西57度で小石を投げ入れる。そうしたら98%の確率で、壊れる』


無感情にそう言うだけだった。

ジャックの目からは、結界が不安定には見えない。

その言葉が本当かどうかを調べるため、彼は宣告された時刻に言われた通りの角度で結界に石を投げ入れた。

すると結界は硝子が砕けるように呆気なく壊れた。

何人たりとも侵入を許さなかった結界が、小石一つで崩壊したのだ。


『た、大変です! 結界が壊れました! 敵襲の可能性があります! 急ぎ、王宮へお戻りくださいッ!』


衛兵達がジャックの安否を確かめにやって来る。

しかしそれ以上に彼は、宣告通りの結果をもたらしたシェオルに尋ねる。


『君は一体、何者なんだ?』

『分からない。私が、誰なのか』

『……本当に何も知らないなら、一つ考えがある』

『?』

『君にはどうやら結界に関して類稀な才能がある。それだけの才があるなら、きっと神官……いや、聖女として大成する筈だ』

『聖女……』

『人々を瘴気から守る重要な役目だ。君が俺に処断を許してくれるなら、その力を少しだけ教えよう』


彼女が何者なのかは分からない。

一瞬で結界の弱点を見抜く辺り、神官としての適性は最高峰だった。

ただ世界の事情もよく分かっていないようで、瘴気の存在すら知らない。

ならばその力を人々の役に立ててもらう。

彼女が悪の道に染まれば、きっと大変なことになる。

貴族のルールに従って処断されるよりも前に、ジャックは彼女を神官にさせる事を望んだ。

少々乱暴なやり方だったが、教会に口利きして神官見習いとして転入させる。

元々彼女は見た目は普通の少女なのだが、その体質は人とかけ離れていた。

監視は怠らないままだったが、その中でシェオルは、人として生きていこうとする気概を持ち始めた。

自分の体質に違和感を持ちながらも、無感情だった心が徐々に一人の少女として形成されていったのだ。

それはジャックが常に彼女を援助し、孤独にさせなかったためかもしれない。

そして3年ほどの年月が流れる。


『お久しぶりです。ジャック様』

『元気そうで何よりだよ。その喋り方も、板に付いてきたみたいだな』

『そうですか? 違和感がないようでしたら、学んだ甲斐があったというものです』

『代わりに、こうして君と会う時間は減ってしまった。教会での生活は楽な事ばかりではないだろう?』

『やはり、寝たフリは堪えるものがありますね。睡魔という感覚が良く分からないので、ジッとしている事がむず痒くて』

『そ、それは教会とは関係ない気もするが……』

『でも、新調して頂いた神官服はとても気に入っています。似合っていますか?』


既にシェオルは普通の人と変わらない感性を持っていた。

人であろうとした彼女自身の成果だろう。

無表情だった頃と違い、彼に向けて微笑むようにもなる。


『あぁ。とても良く、似合っているよ』


彼女が実力を示して聖女として呼ばれ始めた事も含め、ジャックは嬉しく思っていた。

始めは監視対象としてしか見ていなかったが、いつしか馴染みのような関係に変わっていく。

だからこそ、バルラック村での騒動は看過できなかった。


三日と経たずに村に辿り着いたジャックは、結界の向こうへ追い出されたシェオルを探した。

例え彼女が特異な体質を持っていても、瘴気に当てられたらどうなるか分からない。

村人達の訴えは動員していた兵に任せ、結界の境界線を巡回する。

そして村外れにある荒地で、自らに結界を施しながら、祈りを捧げている彼女を見つけた。


「無事か、シェオル!」

「ジャック様? どうして此処に……」

「バルラック村の騒ぎは、ここまで届いてきたからな。一体、何があった?」


シェオルは驚きながらも、ジャックが来たことに安堵したようだった。

結界越しに今までの経緯を伝える。

露骨に毛嫌いするキーラという神官。

村人達が一斉に手のひらを返し、シェオルを非難したこと。

それ聞いていく内に、ジャックの右手が強く握りしめられる。


「私には、分かりません。どうして彼女が、あんな事をしたのか……」

「何故、嘘をついていると分かっていて、結界を解いたんだ?」

「キーラさんにも、嘘をつかなければならない理由があると思ったからです。それに、例え嘘だったとしても、子供が本当に抜け出した可能性が万が一にでもあるなら、無視することなんて出来ません」


シェオルは人の悪意を見抜く力にも長けている。

村人の嘘など、簡単に看破できただろう。

それでも彼女はキーラの言葉を信じ、最悪の可能性を追った。

その結果がコレだと言うのか。

兵の一人がやって来て、険しい表情のジャックに報告する。


「失礼します、ジャック様。村人達が貴方に話があると……」


何の話かは大体想像がつく。

行ってくる、とジャックは一言だけ残す。

シェオルは小さく頷くだけで祈りを止める事はなかった。

徐々に小さくなる彼女の姿を見ていると、居た堪れない気持ちが湧き上がる。

故にこんな状況は打開しなくてはならない。

ジャックは村人達と対面で話し合い、シェオルを救い出す決意を固める。

彼が中央の広場にやって来ると、村人たちは近寄って口々に彼女の非難を始めた。


「あの女の言葉に耳を貸してはなりませぬ! あの魔女は村の神官であるキーラを襲い、結界を破壊しようとしたのですじゃ!」

「……その現場を実際に見た者はいるのか?」

「襲われたキーラが証人ですじゃ!」


村長らしき老人が一人の女性、キーラを指差す。

彼女は頭部を包帯で覆っており、そこから少量の血も滲んでいる。

傷自体は嘘ではなく、石で殴った事は間違いないようだ。


「あの子が突然、私に石で殴りかかってきたんです。今まで張っていた結界も壊して、私達の村を襲おうとしたんです……う、うぅ……!」

「そうか。だが、襲われた本人なら当然そう言うだろう。誰か、他にシェオルが彼女を襲っている所を見た者はいるのか?」


シェオルとキーラの言い分は正反対だった。

第三者からして、どちらの証言が正しいかは分からない。

ならば何故、村人達はキーラの言葉を信じたのか。

確かな目撃情報があるからだろうとジャックは推測して、目撃者に出てくるよう促した。

だが、その直後とんでもない返答が返ってくる。


「他には誰もいませんが、それが何か?」


間の抜けた言葉に沈黙が流れる。

流石のジャックもそんな答えが出てくるとは思っていなかった。

誰も二人の現場を見ていない。

なのに村人達は、キーラの言葉だけを信じたというのか。

痛くなりそうな頭を片手で抑え、俯きがちに声を振り絞る。


「……実際に争う所を見た第三者はいない。なのに、どうしてシェオルが犯人だと決めつけたんだ?」

「キーラの言う事に間違いなんてありませんよぉ。あの子はこの村でずっと暮らしてきたんですから。キーラの事は、アタシ達が一番よく知ってます」

「そうさ! キーラが嘘をつくなんて有り得ない!」

「嘘をついているのは、あの魔女の方だ! 子供が結界から外に出たなんて出鱈目を!」

「ジャック様! 騙されてはいけませんよ! 私達は真実を知っている!」


彼らは一斉に口を揃えてキーラを擁護した。

キーラはこの村出身の神官だ。

馴染みある彼女を庇いたくなる気持ちはあるのだろう。

だが、それは道理が通っていない。

ジャックは罵声に近づきつつあった言葉の矢を切り分け、声を張った。


「だから結界の外に追い出したと? 貴方達はそれが何を意味しているのか、分かっているのか? 結界の外は瘴気渦巻く世界、それは即ち死を意味する」

「彼女はキーラだけでなく、この村を滅ぼそうとしたんだ! この位は当然! 当然ですよ!」

「それは所謂、私刑だ。ロクな捜査もせずに犯人を決めつけるなど、蛮行にも等しい。一体この中の誰が、シェオルの犯行を見ていたんだ?」

「だからそれは、キーラが……」

「キーラが見てたから正しい。嘘をつく筈がない。いやはや、凄いな。誰一人、嘘をついている可能性を追おうとしない。彼女はこの村の女王か何かなのか? もしくは全員が何かしらの弱みを握られているのか?」

「い、幾ら何でもその発言は見過ごせませぬ! 撤回するのじゃ!」

「撤回するのは貴方達の方だ。そして今までの事をよく思い返してみてほしい。何処にも、シェオルが犯人だという確たる証拠はない筈だ」


身を乗り出してきそうな村人達に、ジャックは気圧されない。

無論、彼らも周りに王国直下の兵がいる事は分かっていた。

だからこそ、獣のように襲い掛かる蛮行には及ばない。

するとキーラが再び傷を見せつけて来た。


「私が嘘をついている? そんな筈がありません! ほら、傷ッ!」

「実際に傷を負わされた現場を見た者はいるのかと言っているんだ。そうでなければ、君が何処で付けた傷なのか、明確な判断は出来ない」


子供に言って聞かせるように、同じことを何度も繰り返す。

彼女もそれを前に何も言えなくなったようだ。

口を噤み、悔しそうな表情を浮かべる。

ようやく理解できたか。

ジャックがそう思った瞬間、不貞腐れる様な声が聞こえてきた。


「そんなモノ無くても、絶対キーラが正しいって。だってあの女はキーラをイジメていたし」

「……何だって? 今の声は誰だ?」


聞き捨てならない話が入ってくる。

シェオルがキーラをイジメていた。

それは人を尊重し、人としてあろうとした彼女への侮辱にも等しい言葉だった。

そんな言葉に同調するように、村長がにこやかな声を上げる。


「そうじゃ。儂らはあの女からキーラを守っていたのじゃ。村の者を傷つけようとするなど、聖女以前の問題。じゃから儂らは、あの女が犯人じゃと信じておる。そうじゃろう? 皆の者よ」


パチパチパチパチパチパチパチ。

村人達が笑みを浮かべながら、一斉に拍手をし始めた。

こんな状況であるにも関わらず、陽気な彼らの姿はあまりに異常だった。


「おいおい……何なんだ、この村は?」

「き、気味が悪いぞ。コイツら、おかしいんじゃないか?」


周囲の兵士達も村の異様さに気付いたようだ。

ジャックに危害が及ばないように、次々と武器を構え始める。

耳障りな拍手の音を一身に受けながら、彼はもう一度問う。


「それで? 現場を見ていた者は?」

「は?」

「彼女がキーラをイジメていた、その現場を見ていた者はいるのか?」


拍手が止み、一瞬時が止まる。


「いえ、いませんけど……」

「だ、大体イジメってのは、隠れてするモノでしょう? だから俺達も気付けなかった!」

「そんな中、キーラは勇気を出して発言した! だから、俺達はキーラを信じる!」


やはりと言うべきか。

誰もシェオルがキーラをイジメていた現場を見ていない。

そしてキーラは自分がイジメられていると村人達に告発したのだろう。

だからこそ、シェオルに対して冷たい態度と冷遇が生まれた訳だ。

どうかしている。

ジャックは思わず声を震わせた。


「そうか、そういう事か」

「やっと分かってくれましたか。そう、犯人はあの魔女……」

「この村が、どれだけ洗脳されているのか。よく分かった」


村長が虚を突かれたような顔をする。

そこに彼はこれまでにない厳しい声を響かせた。


「明確な目撃情報もない。あったのは人づてに聞いた噂や言葉だけ。それだけで貴方達は一人の人間を信用し、一人の人間を瘴気の向こうへ追いやった。それが正しい事だと思い込んだからだ。キーラがそう言っているから正しい。皆がそう言っているから正しい。自分は間違った事なんてしていない。だから、どんなことをしても許されると? 例えそれが殺人に等しい行為だったとしても?」

「……!?」

「実際に見ていないけど殺してしまおう。何か弁明しているけど、どうせ嘘だから殺してしまおう。追放した少女は今も尚、結界を維持し続けているけど知った事じゃない、殺してしまおう。それが今の貴方達だ。おかしいだろう? これでもおかしいと思わないのなら、貴方達は自分の意志すら失っている!」


この場に、正しいことなど何一つ存在しない。

糸に繋がれた操り人形と何も変わらない。

気付いていない者達に諭すように、ジャックは語り掛ける。


「これが、この村で起きた事件の正体だ。他人の意見に追随し、それが正しい事だと信じて疑わず、大多数の人間が一つの感情となって容赦なく弱者を叩き潰す。そうして生まれた集団心理が、この事件の犯人だ。隔絶されがちな村では時折見られるケースだが、ここまで酷いモノは文献ですら見た事がない」

「そ、そんな……儂らはそんなつもりなど……」

「つもりがあろうがなかろうが、関係ない。貴方達は既に被害者ではなく加害者になっていた。安全圏から石を投げるだけで済むなんてモノは、道理が通らないんだよ」


そう、これは一種の洗脳だった。

魔法のような手段ではなく、人の意識から生まれる心の移り変わり。

村人達はその術中に嵌っていたのだ。

そしてそれを疑う事すらしない。

渦中にあるキーラが抵抗するように大声で反論する。


「でも、だからって、シェオルが犯人じゃない証拠もないでしょう!? 私はあの女に襲われた! これだって、私が嘘をついている証拠もない! 彼女が無実になる証拠なんて、何処にもないわ!」

「そ、そうだ! 本当に無実なら証拠を出してくれ! 証拠を!」

「そうよ、そうよ! 幾ら貴族様だからって、こんな道理は通らないよ!」


未だにキーラを庇う声が上がる。

今更後に引けないのか、躍起になっているだけか。

そんな最後の抵抗に、止めの言葉を投げつける。


「そう、確かな証拠はない。だからこそ、私刑という不当な処分は取り消さなくてはならない」

「な……!?」

「シェオルが故意に結界を破壊したのか。貴方達を殺そうとしていたのか。白なのか、黒なのか。今の状況では誰も判断できない。故にシェオルの処断、追放は取り下げてもらう! この事件の真相が掴めるその時までは、俺が身柄を拘束する! さぁ、道を開けてくれ!」


真相は誰にも分からない。

ならばシェオルは正確な判断ができるまで、処断されるべきではない。

至極道理な話である。

流石の村人達もそれ以上は何も言えなくなる。

彼らにとっても魔女と呼ばれる脅威はジャックの手に渡り、村に及ぶことが無くなる。

そうして沈黙を肯定と受け取った彼は、兵士を連れてシェオルの元へと舞い戻った。

幾つもの怒声がそこまで聞こえていたのだろう。

彼女は結界の向こうで不安そうな表情をしていたが、ジャックの姿を見て本当に安心したようだった。

目の前にある村に結界に手で触れ、彼の元に近づく。


「すまない、シェオル。遅くなった」

「私は、許されたのですか……?」

「いや、事態は平行線だ。だが取りあえず君の身柄は、カタストロ家で預かることになった。全く……ここまでが精一杯だなんて、自分の限界を思い知らされたよ」


貴族としての名目を以てしても、シェオルの罪を晴らすことは出来なかった。

今はまだ、事態を先延ばしにしたに過ぎない。

村人たちの主張は既に教会に伝わっているので、そちらとも議論をしなくてはならないだろう。

兵士達も納得がいかないのか、ジャックに問う。


「本当に、宜しかったので? あんな気味が悪くて無礼な村、ジャック様のご命令であれば我らの武力で……」

「それは俺の本意じゃない。だから、君達には何もさせなかったんだ。貴族とは、ただ闇雲に武力を振るって圧制するものじゃない。そんな事をすれば、ここの村人達と何も変わらない」


そうしてジャックは結界からシェオルを救い出した。

瘴気が漏れ出る前に彼女の手を引き、よろけた身体を抱き止める。

数日間、飲まず食わずで魔力を結界のために使い続けていたのだ。

体質上何ともなかったとしても、心まで無傷である筈がない。

彼女は申し訳なさそうに俯く。


「私は、前々から思っていました。傷一つ付かず、涙一つ流せないこの身体も、聖女としての力も、やはり人として異常だと」

「……」

「村の人達は気付いたのかもしれません。私が……人では……」

「そうやって自分を追い込むのは、君のよくないクセだ」


シェオルの言葉を遮って、ジャックは続ける。


「君は間違いなく人だ。神官として、何より人として正しくあろうとしている。例えどれだけの人々が君を非難しようと、俺は君を信じる。これも大きな流れに逆らう、一つの小さな流れだ」

「ジャック様……」

「さぁ、そのままジッとしていてくれよ。君が疲れを感じない身体でも構わない。今はこうしたい気分なんだ」


もしかしたら、人ではないかもしれない。

しかし彼女には心がある。

涙を流そうにも流すことも出来ない身体で、そして裏切られても尚、人々を守り続けたその姿が人でない筈がないのだ。

もしそれを非難する者がいるのなら、徹底的に戦ってみせる。

新たな決意を持った彼はシェオルを抱きかかえながら、馬車へと向かうのだった。







ジャックによって救われたシェオルは、カタストロ領で拘束されることになった。

拘束と言っても、同行していた兵たちもバルラック村の異常さには気付いていたので、閉じ込められるような事はなかった。

事後処理に当たっていた教会と話し合い、実際に何が起きたのかを嘘偽りなく答えていく。

教会はバルラック村にシェオルの代わりとなる新たな神官を呼び、結界の補強をすると共に現場の検証に当たった。

結局、判断するのは第三者の知見なのだ。

彼女もジャックも、教会の朗報を信じて待つしかなかった。

しかしそれは、予想以上に早くやって来た。


「ほ、報告しますッ! バルラック村が……!」


バルラック村の全滅。

それは想像を絶する、あまりにも悲惨な報告だった。

シェオルも意味が分からず、驚くしかなかった。

一体何が起きたというのか。


当初、教会は予定通りシェオルの代わりとなる神官を配属させようとした。

しかし、村の人々がそれを拒んだのだ。

教会の神官は信用できない。

自分達の村は自分達で守ると言い、介入することを拒絶したのだ。

シェオルを断罪できなかったことが、それ程までに屈辱だったのか。

それとも彼女を輩出した教会自体を信用していなかったのかもしれない。

そんな事をされれば、結界の維持はおろか現場の検証すらできない。

根気強く幾ら危険だと言っても、彼らは聞く耳を持たなかったのだ。


元々、バルラック村の結界はキーラ一人では維持が難しかった。

そんな状態で日が経てば、結界が壊れるリスクは高くなる。

そんな事はキーラ自身分かっていた筈だ。

だが村の者が拒んだがゆえに、自然の摂理であるかのように、ある日の深夜に村の結界は崩壊した。

加えて深夜という誰もが寝ている状態での崩壊だ。

漏れ出した瘴気に気付かず、そのまま殆どの者が呑まれていったという。


「新たな神官を拒むだなんて、何てことを!」

「生き延びた人達は、いないのですか!?」


二人に対して、教会の使者は言い難そうに答える。


「生存者は数人いました。その中には村の神官と思われる女も……しかし……」


事態に気付いた教会の人々は、何とか数人の生存者を救い出した。

しかしその全員が大量の瘴気に当てられ、手の施しようがなかったらしい。

その中には例の神官、キーラもいた。

彼女は瘴気に蝕まれながら、こう言ったという。







始めはただの嫉妬だった。

私より年下のクセに聖女と呼ばれているのが気に入らなかった。

だから冷たい態度で接したし、村人とは露骨に仲良くしている所を見せつけた。

一人でポツンと立っているあの女を見て、勝った気分になれたのだ。

それでもシェオルは効いている素振りを見せなかった。

初めて来た時と同じ雰囲気で、私にも村人にも対応を変えようとしない。

聖女だから平気だと、見せつけているに違いない。

腹の立った私は村人たちに言った。

シェオルに虐めを受けている、と。


元々この村は私の地元だ。

馴染みのない新参者のシェオルが村八分にされるのは目に見えていた。

徐々に村人達は彼女を差別するようになった。

ロクな食にはあり付けなかったろうし、寝床も真っ当ではなかった。

野宿することもあっただろう。

いい気味だった。

なのに、全くあの女は動じなかった。

いつもの通り接し、いつもの通り結界を補強し続ける。

普通なら衰弱していても良い筈なのに、そんな様子が全くない。

舐められている。

腹が立った私は遂に思い付いた。

あの女を追放するために自作自演をすることを。

嘘をついてシェオルを誘い出し、結界に穴を開けさせる。

後は自分で怪我をして、襲われたと言えば完璧だ。

誰も私を疑ったりはしない。

そしてあの女は死刑同然の追放処分になった。

アイツを見ていると反吐が出そうだったし、死んでくれても構わない。

別の神官を教会から派遣してもらえば良いだけだ。

なのに。

それなのに。


今まで結界の維持は、自分一人で出来ていたと嘘をつき続けていた。

だから村の皆が、教会の神官など役立たずだと思い込んで、助成を徹底的に拒んだ。

今更嘘だったなんて言える筈もない。

だから一人で結界を維持しようとした。

でも、駄目だった。

私一人では、どうすることも出来なかった。

気付けば結界は崩壊し、いつの間にか瘴気は皆を呑み込んでいった。

けど、悪いのは私じゃない。

シェオルが逃げなければこんな事にならなかった。

村の人達が神官を拒まなければこんな事にならなかった。

どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけない。

私は悪くない。

だから早く私を治して、と。







それから数日後。

次第に正気を失い、酷い有様の中で他の者と共に狂うよう死んでいったという。


「こんな形でシェオルの無実が証明されるのか……」


やり切れない表情でジャックは目を伏せる。

キーラが全てを自白した以上、シェオルの追放は出鱈目だという裏付けが取れた。

しかし今となっては、彼女に抗議する者もいない。

才能に嫉妬した挙句、村の人々を巻き込み、そしてその村人達も自分の間違いに気付くことなく滅びの道を辿った。

引き返す場面は何度もあったというのに、確立された集団心理がそうさせることを拒んでいたのだ。

これが人の恐ろしさ、なのだろうか。

シェオルは悪意の極致とも言えるべきものを感じながらも、命を落とした彼女達に追悼の祈りを捧げる。


「村の人達は最後まで自分達を信じ続けた。それ自体が悪い事だとは思いません。もしかすると、彼女達も『大きな流れ』の被害者だったのかもしれません」

「……瘴気以上に、人の心の移り変わりは恐ろしいモノかもしれないな」


そう結論付けながらも、ジャックは彼女を案ずるように問い掛ける。


「人が、怖くなったか?」

「いえ……だとしたら、その流れを正しい方向に導くのが、私達の役目だと改めて思ったのです。瘴気渦巻くこの世界で、神官の聖なる力は必要不可欠。だったら……私はまだ神官を、聖女を続けなくてはいけません」


きっと神官の役目は結界を張るだけではないのだと、彼女は理解した。

人々の命だけでなく、その心も守る。

心とは思い、感情の集合体。

人々が安心して暮らしているのも、神官が扱う結界のお陰だ。

シェオルはかつてジャックによって助けられ、人の心を教わった。

今の自分があるのは彼のお蔭である。

心がどういうものなのか全てが分かった訳ではないが、あの時の気持ちを忘れなければ、悪意に晒されたとしても、道を踏み外すことはないだろう。


「だったら、俺に出来る事は君を支えることだ。君がようやく見せるようになった笑顔を、失わせないためにも」


勇気づけるようにジャックが力強い言葉で鼓舞する。

同時に、一つの疑問を抱く。

いつからだろう。

今更なのかもしれないが、彼の言葉を聞くと温かく、そして自然と力が湧いて来る。

バルサック村で助けに来た時もそうだった。

これは一体、どんな感情なのだろう。

痛みなど感じない筈なのだが、胸の内が違和感を発する。

今まで様々な人に出会ってが、この思いだけは未だに理解できない。

彼と共にいれば、いつか分かる時が来るのだろうか。

そうして追悼の祈りを終えると、新たな使者がジャックの元にやって来る。


「ジャック殿、ストール伯爵から要請が。どうやら伯爵領土の結界に綻びが見られるようで、原因を解明したい、と」

「結界の不調……分かった。多忙な父上に代わり、俺が現地へ向かおう」


こういった事態は今に始まった事ではない。

教会には、結界に関する異変が定期的に舞い込んでくる。

貴族であるカタストロ家にも、貴族同士で似た話が来ることは多々あるのだ。

悲観してばかりではいられないジャックは、二つ返事で引き受ける。

そして祈りを終えたシェオルの方に振り返り、手を差し伸べた。


「一緒に、来るか?」

「はい……!」


悪意とは即ち、心の脆さ。

人の悪意を知っても尚、聖女は祈りを止めない。

共に歩む者がいる限り、手を伸ばしてくれる人がいる限り、決して歩みを止めたりはしない。

人の心の複雑さを学んだシェオラは、固く決意をしながら彼の手を取るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに自業自得。 この村が滅びたのは村人達が選んだ結果だったのでしょう。 だから出来ることは、この村で起こったことを教訓として周りの村々に伝えていくことぐらいじゃないでしょうか。
[良い点] 描写されていないはずの、キーラの嘘が判明したあと生きていた村人が、あるいは死んでいった村人がしたかもしれない弁明の声が簡単に想像できますね。 「キーラに、あの女に騙されたんだ。私たちだって…
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