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零Ⅸ:何も知らなかった私がなんか主人公アシストをやるハメになったんだけど……

「まず、何から訊きたい?」


 アヤは最初に訊いてきた。

 何から訊きたいか……質問はいくらでもある。しかしそのどれもが声には出なくて、私が唯一訊けたのはこの一言のみだった。


「貴方は……何者、ですか?」


 何回も言うけど敬語はやめてよ。

 アヤは笑いながら答えた。


「だから天使だよ。『自称』天使にして主人公アシスト補佐」


 主人公アシストって……私のことです……だよね?

 私が問いかけると、彼女は続ける。


「貴方は彼が……ご主人様が王国の能力判定装置で無能力判定を受けたことは知ってる?」


 それは知ってる。

 私が答えると、彼女はそれならと次の問いに入った。


「それじゃあ、彼が欠陥品だということも……知ってるのかな?」


 ――え?

 一瞬、耳を疑った。


「彼がって、ご主人様が?」

「うん、そうだよ」


 ご主人様が欠陥品……? 言われてみて今までのことを回想してしまう。

 が、どう考えても……。


「どこが欠陥品なんですか?」


 そんな怖く言わなくても……説明するから……。

 アヤはそう言った。

 確かに強い口調かもしれないけど仕方が無い。

 どこを思い出してみても……どう考えても……。


「ご主人様が欠陥品であるはずがないです!」


 えっと……取り敢えず敬語やめよ? あと落ち着こう。

 アヤはそう言っているけど、私がそれに聞くはずが無い。

 親愛なるご主人様のことを欠陥品と言った――その怒りのような感情で、私は認めるつもりはなかったのである。

 というか現に、私は今までご主人様の凄さを間近で見てきた。あれほど出来る方なのに、欠陥品と言うのか……。


「ちょっと待ってよ!」


 ここでやっと、落ち着いた。

 彼女の一喝には怒りも何も無く、ただ少し悲しそうな声が入っている。それに気付いたから。


「御免……ちょっと熱くなっちゃって」

「まあ仕方ないよね。そうなっちゃうのも全て、私達の所為だし」


 え……?

 今ボソっと変なこと言ったような……。


「えっと、単刀直入に言おうか」


 そんな違和感をすぐに終わらせいてアヤは一言、衝撃な言葉を発す。

 そう、それは私が信じられない言葉だった。


「ご主人様は、能力を持ってない。つまり本当に無能力者なんだよ。今まで私が影ながら彼に能力があるように見せてきた、彼は主人公だからね。でももう私じゃ手一杯だからね。君、主人公アシストの力を借りたいんだよ」


 ――――――!

 …………。


「え?」


 予期せず全ての単語が出た。

 主人公、主人公アシスト、無能力者、そしてアヤの役目――。

 そしてその時、不意に全てが腑に落ちた気がした。


「貴方が? 今までご主人様に能力があるように見せたの??」

「うん、様々な目的があるからね」


「目的は何? 何にも得るものはないでしょ」

「基本は神様の命令。主人公は完璧でなければいけない。だけど神様は主人公に、能力を、致命的なものを与え忘れたんだ」


「主人公って何?」

「簡単に言うと、全てがよくできた存在だよ。彼に関する全ては彼の都合の良いように、美しい物語のように運ばなきゃいけない」


「…………」


 しかし、実際の私は質問の繰り返してしまう。

 認めたくない、その事実は今まで私が信じていたものとは違う……。

 心境はそんな感じだったのかもしれない。


「でも……その……私とご主人様が二人きりの時くらい、別にいいでしょ……その役目」

「彼には悟らせたくないからね。知らぬが仏、その方が幸せだよ」


 それに……。

 アヤは一つ間を置いて、私を見た。

 じっと、じっくりと。


「貴方は恋に落ちなかったでしょう? そんなお飾り」


 ……?

 その瞬間、これ以上の最悪が見え始めた。

 まさか……。

 それを言う前に、アヤは言った。

 あっさりと。


「そうそう。貴方が彼に恋に落とすことも目的だったからね。だから落ちた今の段階で、事実を喋ってる」


 …………。

 その言葉は彼の地位、私の信用、彼の全てに留まらず。

 私の感情すら、否定した。


「大丈夫。今なら心変わりもしない。腐れ縁、って言うのかな?」


 ちょっと違うかも知れないけど……。

 無言の私を置いといて、どんどん彼女は話を進める。


「いくら彼が嫌いだと言っても、そして嫌いになれたとしても、執着がなくなったとしても、どうせ三日くらいで好きになってしまうんだ。一度味わった本物の恋愛という気持ちは、そう簡単に抜け出せないものだから」


 ショックの連続だった。全てが仕組まれていたんだ。

 どうして……そんなこと……するんですか。

 また言葉が敬語になる。

 私の言葉を聞いて、彼女は答えた。


「二つ、かな? 二つ目的がある」


 ……。


「一つは貴方の協力が欲しいから。貴方が彼を好きになっちゃえば、ちょっと抵抗を感じるでしょ? 彼が苦しむ。そう思えば」


 そしてもう一つは……。


「もう一つは、こっちの方が重要かな? キスして貰うためだよ」


 …………!?


「彼とキス。したくない?」


 急におちょくるような目で私を見る。

 え……。

 私は後退りしながら戸惑ってしまう。


「キスって……何で? どうして??」


 ふぁーすときす。

 そういえば私は彼女に奪われた。

 その時、それを思い出した。


「それは彼に能力を渡すためだね、大体。貴方がキスをすると、彼は能力を得る。それからはお役御免。貴方は自由だよ」


 でも、流石に段階が必要だから何ヶ月かは無理だけどね。彼女は言う。

 意味が分からない。何で、何でキスが必要なのだろう。

 だけど……何か……


 面白い気がする。


「ふふふふ」


 微笑に続いて、私は大笑いをしてしまう。

 もう、どうでもよくなった。

 そう。いっそのこと従ってやろう。

 なんて、愚かに思ったのだ。


「いいよ、分かった。ならその『主人公アシスト』。改めて受けてあげる。元々選ばれたんだし、仕方ないよね」

「何か吹っ切れたっていう感じだね。本当に良いの?」


 アヤは訊いてくるが問題はない。後悔もない。

 どうせ私は奴隷だ。私の感情など、どうでもいいのだ。

 だから、だからさ。


「せめてご主人様の感情は……守りたい」


 小さく、決心したのだった。

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