零Ⅷ:少女の寝顔を見てた私がなんか神様の狙いを知るハメになったんだけど……
ふぁーすときす。
言葉にするのも大変なそのことを、私はされてしまった。
そんなことを寝床で眠っている少女を見ながら私は顔を赤くしていた。
少女を――といっても私より二つ三つ下くらい、つまりそこまで差が感じられない娘だった。
そう。あのキスした彼女は、それからすぐに眠ってしまったのだ。
とても大きな疲労感だったのであろう、一瞬で死んだように倒れていた。
ただ妙に体重が軽かったので私が支えるのが容易だった。が、あくまで支えるという話である。それから私達は二人でその後借りた旅館の部屋に運ぶことになったのだ。
随分大変だったけど、ご主人様の御蔭で何とかなった。色んな意味で。
まあとにかくそれからどうするか……悩みどころではある。
しかし取り敢えず目を覚ますまで待とうということで、今に至るのだ。
「ところでお前……そんな趣味があったとはな」
ご主人様が何か面白そうな目つきで私を見ている。
そんなようなテロップが付きそうな感じでご主人様は質問してきた。
えっと、何のことだろう?
と戸惑ったが、あのことしかないだろう。
「あの……、いや、その……別にそういう趣味はなくて……」
「違います!」って言いたかったのに結果は目が泳ぎ、曖昧な表現で答えてしまう。
これはご主人様を意識している所為なのか、そもそも会話が下手なのか分からないが、すぐ撤回しなければいけないと気付く。
が、やっぱりそう上手くいかないのが私である。
「ほぅ? 俺は良いと思うけどな、そういう趣味があっても」
「いやいやいやいや! 同性愛なんてしないから! そもそも私はこんな人知らないって!!」
つい敬語が外れて言葉を放った。
久しぶりかもしれない。
「あ……知らないですよ……」
言い直しても無駄だと思うけど、やっぱり考えより先に口が出る。
人間ってそういう生き物なのかもしれない。
「いやそうかな? 初めてこんな生き生きとしているお前を見た気がするが」
「何が生き生きとしてる! ですか? 私は別に……」
「えっと……何を喧嘩してるですか?」
そんなところに割り込んできたのが、問題のこの娘である。
目が覚めたっぽい。
「あの……ここはどこどこですか? あと何で喧嘩してるですか?」
言語に不慣れなのか、いやそもそもそうじゃない気もするが、少し違和感を覚える言葉遣いを使う。
私達は起き上がったことに少し唖然とし、何も言えない。
「夫婦げんかは犬も食わないですですよ」
「ふ、夫婦じゃないです!」
私が思わず突っ込むがご主人様は何も言わなかった。
ご主人様を見るが彼はもう冷静でいて、そして微笑む。
「ふはぁあああ。喉が渇いたです。失礼ですがそこの男の方、ちょっと取りに行っていただけないですですか?」
何てご無礼なことを!
一瞬そう思ったがそれは私からしたらなこと。別にこの娘からしたらご主人様とは対等な立場なのだ。
ならご主人様、私に命令してください。
私はご主人様の方向を見るが彼は私の方は見ず、ただ一言発してその場を去った。
「それなら、二人きりでごゆっくりな。ついでに散歩に行ってくる」
そう言われて気付く。
……勘違いされてる!
「いや、違うんです!」
「は~~い」
被せるようにこの娘は返事をする。
そうするとご主人様は部屋の外に出て行ってしまった。
「はぁ……」
本当にこの娘、どうしようか。
ずっと愚かしく怠惰な生活を暮らしてきた私には全く分からない。
そもそもこれが恋なのか、それすら分からないのにこの娘をどうにか出来る訳がない。
だけどそう思うとより溜息をつきたくなる。
「前より、ちょっと感情豊かになったかな?」
そんな私に、例の女の子は呼びかけた。
「え?」
彼女はその時、私を見ていた。
じっと、じっくりと。
「私はアヤ。貴方の更なるアシスト役に来た……いや、貴方にアシスト役を渡しに……もっと言えば押しつけに来た『自称』天使だよ」
彼女は、アヤはまるで本当に天使のような感じで私に微笑む。
そして一言、こう言った。
「私は主人公アシスト補佐として来たよ。早速ですが次のミッションは明日に迫ってるから、早く説明させて」
私はこの言葉の中で、一つ真新しいようで聞いたことがある単語が混じっていることを見逃さなかった。
主人公アシスト。
お母様、私のお母さんにあの日言われた衝撃の言葉。
――貴方は今日神様に、主人公アシストに任命されました。
あの時も、今もどういうことか分からない。結果的に私は奴隷になって、ご主人様にお仕えする身になった。
ご主人様が主人公なのだろうか、主人公とは何だろうか、それを知っているこの娘、アヤは何者だろうか、アヤが急にタメ口口調になったのはこっちが素ということなのだろうか。色々な疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
そして口に出た言葉は、一つだった。
「アヤ……珍しい名前ですね」
はっきり言って、どうでもいい。
しかし、妙に気になったのだ。
「そうね、こちらの世界じゃ珍しいかも。でも意外。最初気になるのはそこなのか……」
一つ、間が空く。
確かに他も気になった。
だが一番気になったのが、それだったのだ。
「私もタメ口だし、そっちもタメでいいよ」
その一言からアヤは話し出す。
主人公とは、主人公アシストとは、私に与えられた使命とは、そして……
――神様の、狙いについて。
……最後ちょっと誇張しすぎたかな?
by作者より