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壱Ⅰ:任命された私がなんかチート能力を持つハメになったんだけど……

 落ち着いた夜霧の中――。

 私は、今私は……。


 浮遊していた。


 ゆらゆら揺れているその様子はまるで海藻のようである。


「いいよいいよー! そんな感じ♪」


 それを見るのはアヤ。今にも飛び跳ねそうな程喜んでいるようである。

 まあそれはそうだ。面倒な役を押しつけられることができたんだから。


 あれからご主人様が帰ってきて、話は一度中断した。

 それからまた変な敬語口調でアヤは付いて行きたいと懇願したのだが、ご主人様は案外早くそれを了解した。

 それから奴は調子に乗りまくり、色んな変な話を私に聞かせてきた。

 昔は勇者だったですよ~とか、妖精の頭領だったですよ~とか。

 いやいや嘘つけ、貴方はただの天使でしょ。

 「ただの」ね。


 そして時は夜。なぜかアヤ二人で同じ布団に寝ることになったのだが、そんな私に話しかける声が一人。

 そう、この「ただの」自称天使である。

 っていうのは失礼ね。えっと……まあとにかくアヤである。

 彼女はひそひそぺちゃくちゃ喋ったかと思うと、私を連れ出して外に出した。

 そして、こう言ったのである。


「今から貴方の能力の練習をしましょう!」


 と。


 ー ー ー ー ー


「能力の……練習??」


 私はきょとんとしてしまう。

 なぜなら私は無能力者だ。

 奴隷商にも、全く使い物にならないと言われていたではないか、と。


「あーあー分かるよ~~、その反応。私だってそうなっちゃうわそりゃあ」


 意味が分からない。


「あの、ね? アヤ。私は無能力者だよ?」


 そう思いながら、私は察する。そうか、これが隠された能力か!


「うん、無能力者だったね」


 違った……。

 実は何か特殊な能力を持ってたとかではなかった。

 ってあれ? 「だった」って?


 私がアヤを見つめると、その時アヤは私をじっと見ていた。


「あくまでそれは昔の話――私が与えたんだよ、貴方に能力を。今の貴方なら使える。しかも結構大きな能力が……」

「え? 待って。ここ最近そのような変化が起こる機会あった? 私は貴方に今日の夕方会ったばっかりだし、それに能力与えられるならご主人様にあげる方がいいんじゃ?」


「ほら~~、何でそんな無理強いするの。私がレズビアンだって、女の子が好きだって言わなかったっけ?」


 それで……優遇した?? ご主人様より、私を選んだ?

 そう一瞬思ったが、アヤはそれを見透かしたような笑いをする。


「大体女の子と女の子のは初めてに入らないし。本当の初めてはちゃんと取っておくものだよ。自分の愛する人にね」


 初めて? 取っておく? 愛する人??

 段々、そう段々私は分かってきてしまう。

 この話の終わりが……。


「もう、鈍いな~~。キスだよ、キス。能力を与えるには、キスが必要なんだよ」


 …………。

 ……。

 無言の時間が続く。

 なぜ私が彼に恋しなければいけなかったのか、その全てを察せた。

 全て上手くいっている、そっちの方が正しい。それは分かっているのに。

 なぜか、従うのが嫌になりそうだ。


 首を振ってその考えを振り払う。

 駄目だ。そう考えては駄目だ。

 全てはご主人様のため、そして神様のためだ。


「まあキスを使って与えられるのは能力そのものであって、能力の源は渡せない。能力の源は神様渡したんだけどね~。実際の能力を渡すの忘れちゃって……」


 どうやら能力には二つの要素が必要であるらしい。そのものと、源。

 そのものはその能力の原動力となる力、源はその能力の種類を決めるもの。二つとも無ければ発揮はできない。


「じゃあ私は最初からその源を持っていたっていうことかな?」


 うんその通りだよ。彼女は答える。

 そして、そんな私の能力は……


 あらゆる能力を再現する能力――。


 ー ー ー ー ー


「いや~~、大分使いこなせてきたんじゃない? 大分、多分、恐らく」


 私が空を飛ぶことをやめて降りてくると、アヤは私に歩み寄る。

 段々自信なくなるのやめて……と私は声を漏らす。


「でも、本当に座標は安定していたと思うよ。まだ落下と上昇は難しそうだけど」


 私の能力。それは能力を考え出し、それに一番近い能力を探し出して使う能力らしい。

 ただし一度に発動可能な能力は一つまでで、能力が発動するためにも私の計算……? が必要らしい。


「まあ演算の方はあとで練習するとして、仕組みとしては分かってきたかな?」

「あ、うん……」


「それじゃあ、目標を定めましょうか」


 そうして彼女は二つ指を立てる。


「一つは演算を早くする。これから先、貴方は凄い大変な作業をすることになるからね。私が新たに手に入れた『思考を読み取る能力』を使って貴方に、貴方が言うご主人様の思考を渡すから、それを知った瞬間ほぼタイムラグがなく能力を使用しなきゃいけないからね」


 ……。

 少し分からないけど……頭の回転を早くしなければいけない、らしい。

 彼女は一つ指を折りたたむ。

 残ったのは、一つ。


「二つ目は賢者の石の捜索。最初のチュートリアルとしては良い感じじゃないかな? 目的はご主人様に、彼に賢者の石を手に入れさせるため。そうするとギルドで特例としてランクⅢから始められる可能性が高いし」


 今から徹夜で始めるのは、その賢者の石を手に入れる作業だよ。

 彼女は不敵にも、そう笑った。

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