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零Ⅰ:遅く起きた私がなんか奴隷になるハメになったんだけど……

 ――生まれてから約十六年。

 特に苦もなく生きてきた。


「おはよう、クラリス」


 私はクラリス・ド・ラキーユ。貧乏貴族の令嬢である。


「おはようございます、お母様」


 それにしては不思議だ。いつもだったら忙しそうにしているお母様が、今日は私のベッドで起こしてくれるなんて。


「なぜわたくしを起こしてくださったのですか?」


 私が訊くと、お母様は答えた。


「ええ、今日は貴方との最後の日ですもの」

「……へ??」


「貴方はこれから、とある人に従わなければいけません。従者にならなければいけません。私の元から離れなければいけません。とある人に、恋をしなければなりません」


 どういうことか。

 私には分からなかった。

 何も、理解出来なかった。

 だから訊いた。


「どういうこと?」


 私の戸惑う声を聞いて、お母様は笑顔を作る。

 そして、こう言った。


「貴方は今日神様に、主人公アシストに任命されました」


 ……。

 …………。

 ………………?


 へ?


「故に今日、旅立たなければなりません。今日から一週間ほど、貴方は奴隷です」


 待って、

 待て待て待て待て待て待て!

 いやちょっと待て。


「いやなにそれ! どういうことですか!? おかしくない!!??」

「クラリス、口が悪いですよ」


「そんなんどうでもいいでしょ! 何何? お母様! まさか私が素行が悪いから、口が悪いから追放するとか、そういう訳!?」


 『奴隷』という単語を聞いて、私は必死になり始めた。

 主人公アシストとはどういうものか、それも分からないけど、それより『奴隷』って!?

 メイドでも何でも無くいきなり奴隷とはどういうこと!? お母様!!


 ――いくら問いただしてもお母様は何も答えない。

 そうか、私はこれ以上のことを知れないのか。絶望した。

 大体、日常生活に全く介入しないただの神様が何でいきなりこんな真似をしたのだろうか。これは神様ではなく、お母様の意志なのだろうか。

 色々考察してみたが、何も分からない。


「お嬢様、失礼します」


 メイドと執事が現われて、私を持ち上げて運ぶ。

 何が起きているの!? とメイド達にも問うたが、ただ「おめでとうございます」としか答えなかった。

 そして執事に白い布を口に被せられて、私の朝の意識は途絶える。

 最後に見えたのは、泣いているお母様である。


 ー ー ー ー ー ー ー


 ――馬車。

 ここは馬車の中。

 それはすぐ分かった。

 この乗り心地、揺れ、正しくそれだったからだ。


「ここは……?」


 馬車から外を眺める。

 が、その前に鉄格子があった。


「あれ、なにこれ」

「お目覚めですか、クラリス様」


 馬車の頭に乗っている中年の男。彼が私に呼びかけてきた。

 そして彼と私の間にも、鉄格子がある。


「あの、これは何でしょう?」


 鉄格子を指して、私が訊く。

 中年の男はそれを聞き、笑う。


「そうですか、そうですね。貴方は今自分がどんな状況に陥っているか分からないようですな」


 私は軽く息を呑んだ。

 何となく、次に彼が言う事実が分かったからだ。


「貴方は私の商品で、貴方は奴隷。――そう、私は奴隷商人です」


 お母様の言う通り、私は奴隷にされたのである。

 そして私の後ろも前も横も下も上すらも、鉄格子で囲われている。

 私はどうやら、例の檻というものに入っているようだ。

 でも、なぜ私は奴隷になったのだろう。

 令嬢から奴隷になるって……聞いたことがない。

 大体、泣いているように見えたあのお母様は何だったのだろう。


「あの……何で私は奴隷に?」


 もう完全にお母様に指示された喋り方では無くなっていたが、そんなことは気にしなかった。

 何しろ私は奴隷だ。もう令嬢ではないのだ。段々それを実感してきていたからである。

 なぜなら、私の服装は完全に見窄らしい格好になっていたからだ。


「そうですな~~。これは私めの推察でしかありませんが……。恐らく恋の最適化でしょう」

「恋の最適化?」


「はい。貴方に極限負荷が掛からないように、神様やお母様が配慮してくださったのでしょう」


 全く意味が分からない。


「まあ私めとしても、確実に儲かれるのですから嬉しいことです。まあ、流石にそこまで金を絞り取ろうとは思いませんが。『主人公』殿に」


 奴隷商は更に言葉を続ける。

 しかし、私には全くそれらの意味が分からない。

 …………。

 なぜか頭痛がする。

 随分とこの馬車に乗ってから、雑な扱いを受けたらしい。


「さてそんなお話をしていると、そろそろ着いたようです」


 どこに?

 そこまで聞く必要は無かった。

 ――路地裏の中の、薄暗い店。

 文字で、奴隷商と書かれているのだ。


「一応、手錠をかけさせて頂きますね。逃げられないように」


 そう言って奴隷商は、鎖の付いた鉄製の輪っかを出してきて、私の腕を触った。


「嫌!」


 私は手を引っ込めて、この檻の端まで逃げる。危険な何かを感じた気がしたからだ。

 大体あれは何だろう。私を捕らえようとしているのだろうか。


「貴方様はどうやらこれを知らないらしいですね。何、怖いものでは御座いません。これは手錠というものでして、腕の拘束具で御座います」


 何か既視感を覚えるそれは、私に恐怖心を与えた。

 だがどうやらこれ以上逃げられることはできなく、私は捕らえられて腕に手錠をはめられた。


「さあ、いよいよ貴方は私の店の商品です。しばらく宜しくお願いしますよ」


 奴隷商はただ連れられる私を見て、また笑った気がした。

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