第七話 リリーと休日の雨3
リリーをデートに誘ってから数日がたち、俺は今自室の鏡の前にいる。
というのは、生まれて初めてデートをするからだ。
身なりに気を付けたいが、俺は異世界に来てから服を買っていない。なので、リリーと制服でデートとなった。
俺は鏡の前で入念に寝ぐせ等チェックをする。
どうやら、完璧のようだ。そう思った俺は少し足早にリリーとの待ち合わせ場所である学院前にある馬車乗り場まで向かった。
学院の馬車乗り場につくと、大勢の院生が馬車を待っていた。
専用の馬車がある者や、学院と市街を往復するシャトル便を待つ学生たちが楽しそうに待っている。
俺もリリーが来るのを待っていると突然視界が消え、柔らかな感触が当たり、ハンドクリームだろうか。とても甘くていい匂いがする。
「だーーれだっ!」
その声を聞いて俺はすぐに分かった。間違いない。リリーである。
「リリー! 流石に分かるよ。」
俺がそう返すと、リリーはつまらなそうに頬をぷっくり膨らませながら足をクロスさせ
「つまんないわね! わからないふりをしてくれてもいいじゃない!それよりも、すごい人ね、シャトル馬車乗れるかしら」
そう、俺たちはデートなんだからというリリーの押しもあり皇族馬車に乗らず、シャトルを待っていた。確かにすごい人溜まりだ。俺たちの前には長蛇の列があった。
列はすごいが、乗れるだろう。そう思っていると
「リリー姫! 列に並んでいるのを知らずにすみませんでした!さぁ、前方に並んでくさい。」
俺たちの一つ前の男がそういうと、前方に並んでいた待機者全員が後ろを振り返り
お辞儀をしながら列を譲ろうとしていた。
なるほど、リリーが暗い顔をしていた原因が分かった。
学院の生徒、先生が皇族であるリリーに気を使っていたのだ。中等部のころから5年間リリーは気を遣われながら生きてきたのだろう。
それを見ていたリリーは暗い表情をしながら無言で馬車の最前列に並び、俺たちは馬車に乗り、アムステリア市街に向かったのである。
ここから、アムステリア市街までの道のりは40分ほどだ。その道中、美しい花畑や、野原が続く。俺はその馬車の中でリリーと他愛もない会話をしながら、さっきの出来事を思い出す。
思えば、リリーには世話になったし、俺はリリーを救いたい。
そう思った俺はアムステリアまでの道中、作戦を考えていると
だんだんと人の歩く音や、商売の音が聞こえてくる。
俺は馬車の窓から外をみると、アムステリア市街についていたのだ。
その光景はまるでおとぎ話。露天商やギルド、ちょっと危なそうな酒場もみえる。
するとリリーは物珍しそうな俺の顔を見て
「ここはね、街一番の大通りで先にはお城があるの。ちょっと大通りをでると、色々なお店があっておもしろいわよ!」
たしかに裏路地をみてるとどこか怪しそうで面白そうな店がいっぱいある。
そんな他愛もない話をしていると、俺たちは馬車乗り場につき、目的地まで向かった。
そういえば、俺はデートに誘ったのはいいが、この街のことを何も知らない。
まずは適当な食べ物屋をみつけはいるべきかと、手を顎に当て考えていると
「大丈夫! 心配しないで! ここは私に任せて! 」
そういうと俺の手を握り少し足早に歩き始めるのだった。
つくとそこは少しお洒落なカフェであった。俺たちは中に入り互いに注文をし、食事を楽しんでいた。すると、突然鳴り響くクラッカーの音。前方から女性店員がこちらに向かって歩いてくる。
「おめでとうございます!! 来店1万名記念としてお二人に素敵なプレゼントがあります!」
そういうと、大きい箱を開けた彼女は、少しにやついた表情を見せながら
「1万名記念として!!カップルで来店されたお二人にはこれが似合うと思います!!」
そこにはペアのパジャマがあった。一つは青色、一つはピンク色だ。
それを見ていたリリーは顔を赤らめながらこう言った。
「違う! 私たちは、そ、そ、その、、、付き合っていません!!いや、その、、、違う、、嫌とかじゃなくて」
顔から沸騰しないか心配なほど顔を赤らめさせたリリーはそう言った。
「そうです! 俺たちは付き合ってません!」
俺もそういうと
「え....あ! そう!! 付き合ってません!」
大きな声で宣言ていた。それを見ていた周りの客はなぜかくすくすと笑いだした。
「そうだったんですね! 申し訳ございません! では、通常の記念品にしますね」
何がおかしいのだろうか、女性店員は顔をにやつかせながらお揃いのペンを取り出した。「これなら大丈夫でしょう」そう言った女性店員は俺たちにペンを渡し去っていった。
まだ顔を赤らめているリリーと俺は数分沈黙が続いた。あまりの気まずさに
俺は言葉を発していた。
「ご飯も食べたし、そろそろでようか」
そういうと、リリーは頷き俺たちは店を後にし、ウィンドウショッピングを楽しんだ。
辺りを見渡すともうすっかり日も落ちている。そろそろ学院に帰らなければ
寮がしめられてしまうだろう。そんなことを考えていると、地面に水滴が落ちている。その水滴は次第に増え、周囲の人々は傘をさしだした。
「こんなこともあるかと思ってね! 私折り畳み傘を持ってきたの」
そういったリリーはバッグの中から折り畳み傘を取り出した。リリーは意外に用意がいい。将来はいいお嫁さんになるんだろう。そう思いながら俺はリリーの傘の中に入った。
「俺が持つよ、悪いし」
そう言って俺はリリーの傘を持ち、リリーが濡れないように少し傘を傾ける。俺たちは馬車の乗り場までの道のりをゆっくりと静かに歩く。
沈黙が流れる。俺は何か話題はないかと頭をフル回転させ
「今度はイリナも誘って、みんなで遊ぼうな」
そういうとリリーは突然怒り出し、顔を膨らませ、傘の持ち手を取って走り出した。
「イツキなんて、しらないんだから!!」
彼女はふんっと言いたげな表情を俺に見せ、にこっと笑うと、スカートを翻させ。一人歩きだした。