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第五十話 宣戦布告

「そんなことは決してしません! ありがとうございます! この御恩は必ず返します!!」


 アリスは嬉し涙を浮かべると、尿で濡れた部分を手で隠した。


「あっ! そんなに見ないでください!」


 濡れた部分を押さえながら、彼女は頬を朱に染める。


「ちょっと! イツキ! アリスをいやらしい目つきで見ないの!」


 思わずアリスを見つめていた俺の目の前にリリーは現れると頬を膨らませていた。


『俺だって見たくて見ていたわけではない。男というのは不思議なもので、そこにいやらしい女性がいたら見てしまうのだ』とリリーに説明したかったが、できるわけもなく


「べ、別にみていたわけじゃないぞ! 新しい服が必要だと思って!」


 ジト目で見てくるリリーに耐えられず、咄嗟にそう言っていた。


「イツキの言う通りね。アリスには新しい服が必要だわ」


 リリーはそんな俺の発言を怪しまなかった。日頃の行いがいいということだろう。俺はそう結論を下す。


「だろう! このまま外に出れば目立つからな」

「そうね! なら、私がアリスと共に服はないか見てくるわ!」

「注意してな!」


 リリーは頷くとアリスの手を引き、扉の外に向かっていた。


「イツキ君! リリーさんを一人にしていいの?」

「リリーはアリスよりも強いです! だから、大丈夫だと思います!」


 俺は会長の当然の言葉に答えた。リリーの魔力は6万だ。対して、アリスの魔力はもっと低いだろう。先頭を行った俺だからこそ分かった。


「おお! お前たち、無事だったか!!!」


 外で暴れているはずのユニ先生は、手を振りながらこっちに向かっていた。


「ユニ先生! ご無事でしたか?」

「あたしがあの程度の衛兵に負けると思ってるのかい?」

「イツキ君は心配してくれているだけですよ、先生!」


 会長はため息をつきながら、ユニ先生を見ていた。


「ハハハハ!! そうだったのか! 大丈夫だよ! ありがとな!」


 ユニ先生は俺の背中を力強く、何度も叩いている。正直にいうと、かなり痛い。だが、ここで文句を言うと面倒くさいだろう。俺は苦笑いしながら、耐え忍んだ。


「そういえば、リリーはどうしたんだ? 話さなければならないことがあるんだよなあ!」


 ユニ先生の疑問に俺たちは説明すると「そうか! なら、少しの間待つか!」と言い玉座に座りだした。全く、自由な先生だ。だが、俺たちA組の生徒はユニ先生を信頼している。やる気のオンオフが激しいだけなのだ。


 そんなことを考えているとリリーはドレス姿のアリスの手を引きながら戻っていた。


「あれ? ユニ先生! ご無事でしたか!」

「ああ! 無事だよ! ありがとうなぁ! それより、話したいことがあるんだ!」


 ユニ先生曰く、元々この街に潜入していたのは、アムステリア側の人間を擁立するためだったらしい。そして、その作戦はA組の生徒たちが指導者アーサーを殺すことで実現したらしい。


「やっぱり、A組の皆はアーサーを倒してくれたみたいね!」


 会長は嬉しそうに微笑んでいる。俺たちも会長に同意する。


「お前たちは強いよ! 1500人の騎士相手に勝つんだからな! だが、まだ話があるんだ」


 再びユニ先生は話だした。


「情報によれば、今すぐにでも神々は宣戦布告するだろう。だから、今すぐにアムステリア帝国に帰るよ!」


 ユニ先生はそう言うと、扉を出ていた。そんなせっかちなユニ先生を俺たちは足早に追いかけた。


 外に出ると、指導者アーサーや、悪魔アスタロトが殺されたというのに、貴族エリアの生活は何も変わっていなかった。そして、それは貴族エリアだけではなく、一般の人々もだった。中には熱心に新しい指導者側の演説を聞いている者もいるが、それはごく少数だった。


 どうやら一般大衆というのは、思いのほか自分たちが置かれている状況というものに興味がないようだ。いや、興味がないというより、生きることで精一杯なのだろう。城門までの大通りは普段と変わらなかった。


「エル! こっちだ!」


 城門の前で、ロドリゴ先輩とA組の生徒は手を振り待っていた。


「エル、イツキ、リリー無事だったの!......」

「ルルちゃんも無事だったのね! 良かったわ!」


 どうやら、A組の生徒に負傷者はいないらしく、全員ピンピンしていた。


「ところで、そのドレスを着たお嬢さんは誰だ?」

「彼女はアリス。天使よ」


 会長のその言葉にA組の生徒は動揺している。


「エル、どういうことだ?」


 俺たちは怪訝な表情をしているA組の皆に事情を説明した。


「なるほどね! 街はずれまで一緒に連れて行ってあげてもいいんじゃないかな!」


 爽やかな笑顔と共にミシェルは尋ねていた。


 そんな時だ。


 遥か彼方の空が黒と黄金に染まっていた。


「ユニ先生! あれをみてください!」


 俺の問いかけに空を見る。


「ちっ! もう始まったようだね! こりゃ急がないとまずいな! 皆! おしゃべりは後にして馬を用意しな!」


 普段とは違い緊張感のある声に、驚いたのかA組の生徒は馬小屋に向かっていた。


「やはり始まってしまいましたか......」


 アリスは俺のそばで俯いていた。


 きっとアリスは戦争反対派だったのだろう。その様子を見れば明らかだ。


「アリス! どうにかすることはできないのか?」


 どうしようもできないのか、アリスは俺の言葉に首を振っている。


「アリスさん! 私たちはいかなければならないわ! 残念だけど、ここでお別れね」

「必ずこの御恩は返します。私もできることがないか調べてみます」


 手を振るアリスに見送られながら俺たちはアムステリアに旅立った。







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