第五話 リリーと休日の雨1
「皆席に着きなさい。これからD組の方針を説明するぞ」
D組の担任である大柄で初老の男性がどこか面倒くさそうに背中を掻きながら話していた。
彼の名前はグランズ教諭。
昔はアムステリアで騎士をしていて名のある騎士らしい。さすが、アムステリア学院だ。
「D組では前期で主に魔素の発現の強化と、体力向上のための筋肉トレーニングに勤しんでもらう」
グランズ教諭はそういうと、俺たちに時間割りを渡し始めた。
なるほど。どうやらこの世界にもいわゆる普通の授業があるらしいが、国語、数学、社会、理科そのどれもが2週に1時間あるだけであった。
D組のということはリリーがいるA組でも違った指導がされることになる。俺が今D組にいることに感謝しなければならない。
D組の方針である魔素の発現の強化は、今の俺にはありがたい。なにせ、発現することすら危ういのだから。どうしたら、発現できるか考えていると
「さっそくだが、イントロダクションは終わりにし、魔素の発現の強化のトレーニングにいくぞ」
はじめからアムステリア学院の演習服に着替えていたグランズは、外股で歩き出した。
女子は更衣室、男子は教室で着替え終えると、演習場に集まりだした。
「皆集まったな。それじゃ今から魔素のトレーニングを行う。意識を研ぎ澄ませ、第六感である魔感に集中させろ」
グランズ教諭がそういうと皆一斉に、様々なポーズで魔感に意識を集中させていた。
よし!! 俺もやるかと意気込み、仏教でよく坊さんがポーズしている座禅で行うことにした。
意識を魔感に集中させるんだ。そして、空気中にある魔素を感じろ。
すると、目で見ていなくとも周りの空気に色が感じられ、周りの世界が6色で彩られていった。そうか、魔素はすべて見えるものなんだなと思っていると
「集中させたら自分が発現させている魔素がみえただろうもしかしたら、2色以上見えるかもしれない。その場合一番強く光り輝いているのがメインの魔素だ。そして、強化したい魔素を感じ続けるんだ」
とグランズ教諭は言った。
6色すべて見えるということはすべて使えるのでは?しかし、適性試験の時にオルフェレウス院長わからぬと言っていたしどうなんだろうか。
今は魔素に集中するかと思い光の魔素に集中を向けたとき集中が最大限となり全魔素エネルギーが激しく燃え、それは高さ30mにも達しようとしていた。それをすかさず感じ取ったグランズ教諭は
「イツキ、今何が見えている?そのオーラ未だかつて見たこともない」
そう真剣そうな顔で言ってきた。
「6色の光が見えてます。」
そう答えると、腰を抜かしたながらこういった。
「かつて、英雄の時代。魔素が6色に見えるものがいたと聞くが。まさか、本当に実在していたとは」
聞けば、英雄の時代今から約3000年も前になる。天界と魔界が存在し、敵対時代に入った二つの世界は地上で代理戦争をしていたらしい。天界の天使と魔界の悪魔のハーフである人間は6つの魔素を発現できるようになり、そのころ辺りに出現したとされている。人間を使った代理戦争は100年間にもわたり繰り広げられていて、その時、一人の英雄が現れたのだ。その名を騎士アカギ。アカギは6色の魔素と高い魔力を持ち天界と魔界に乗り込み根絶やしにしたと言われているらしい。
「まぁ、今から3000年も前の話だ。そういう神話みたいな話がでてもおかしくはないが。イツキが6色発現したところをみると、本当だったのかもな」
そうグランズ教諭は答えた。
「6色の魔素を発現するのは3000年間で一人もいない。だから、トレーニングが終わった昼休み院長室へ来なさい」
そうグランズ教諭は言った。しばらくして俺は魔素発現のトレーニングを終えると院長室に向かった
コンコン、ドアノブをノックすると扉の向こう側から年老いた男の声が聞こえてきた
「はいるのじゃ」
そう言われ俺は部屋を開け、前に進んだ。
「まぁ、立ち話もあれだしすわるがよい。」
見るとオルフェレウス院長と、グランズ教諭は隣り合って座っていた。俺はソファーにゆっくりと座り二人が話すのを待っていた。
「6色の魔素がみえたそうだの。わしも、適性試験の時もしやと思ってはいたがなにせ3000年も前例がなかったわけじゃし英雄の話でのぉ。」
そう言って申し訳なさそうな顔をオルフェレウスはしていた。
「イツキ、君は6色の魔素を持ってはいるが発言もできてはいないが、その特性は極めてまれで努力すれば、帝国10騎士にもなれるだろう。そこでだ、夜間に特別補修を受けてみないか」
そうグランズ教諭は嬉しそうな顔で言った。帝国の10騎士か。帝国には騎士階級にも区分がある。
地方騎士、中央騎士、上級中央騎士、帝国近衛騎士、そして帝国10騎士。右に行くにつれて位が高くなり、帝国10騎士ともなると皇帝にも進言することができるほどの権力をもつらしい。
俺も早く魔素を発現しなければ、名門グランズ学院でおいていかれることにもなる。
そう考えた俺は二つ返事で了承していた。
「ああ、そうそうあの話には続きがあってだな。夜に星空を見上げると、二つの衛星がみえるだろう。きれいな水色で囲まれた緑が見える衛星と茶色い衛星だ。あの二つの惑星が...」
そうグランズ教諭が言おうとしたとき、昼休み終了の鐘がなった。
まずい、まだお昼も食べてないのに。
教室につくと午後は筋トレと普通科目だった。高校生時代筋肉トレーニングなどしたこともない俺は全身筋肉痛に見舞われながら、寮に戻り、今日はリリーと会えなかったなと思いながら目を閉じた。