第四十八話 歴史の真実
城周辺に行くと街の様子が明らかに変化した。建物は所狭しと並んでいることはなく、広々とした庭園が建物の間を空けている。通りを歩く人々の服装も違っていた。庶民的な質素な出来ではなく、高級な素材でできているのが素人目でもわかる。
そんなこのエリアの人々は、城壁の外での戦闘音や、門が壊されたことなど気にしていないようだ。街行く人々は爆発音など気にはせず、ショッピングや談笑をしている。
「呑気なものね! 爆発音がここまで聞こえているというのに」
会長は苛立っているのか、街行く人々を睨みつけていた。
「本当ですね! 騎士達は必死で戦い、一般人はそれに怯えているというのに......」
リリーも同感なのか、会長と同様に睨みつけていた。
貴族ということは、高い魔力を保有しているということだ。そんな彼らが、気にもしないこの状態はおかしい。本来ならば民を守るべき存在であるである彼らが、優雅にお茶をしている光景は、アムステリア出身の貴族であるリリーやエル会長から見れば許せないのは当然だ。
そして、魔力が高い者が低い者を守るという意見には俺も同意だ。もし、彼らが騎士になっていれば、俺たちは苦戦を強いられていただろう。
だが、この国ではそういう制度はないらしい。その点では彼らに感謝しなければならない。
「でも、この国の貴族の一部が騎士にならないことは助かります」
俺がそう言うと、会長は頷き、口を開いた。
「ええ、その通りね! この馬鹿たちが優雅にお茶してくれているおかげで、ここまで易々と潜入できたわ」
「これからどうするのですか?」
「そうね。 ユニ先生が現れるのを待つしかないかしら」
噂をすれば影だ。赤髪で焼けた肌のユニ先生が姿を現した。
「お前ら久しぶりだな!」
ユニ先生は白い歯を輝かせながら笑っていた。
俺たちは「久しぶりです!」と返すと時間がないのか真剣な表情になっていた。
「時間は有限だからなっ! 早速行動に移ろう!」
ユニ先生曰く、城への城門付近で派手に暴れまわるので、民衆と衛兵の目がそちらに向いている隙に忍び込めということらしい。
「そんな、作戦で大丈夫ですか? ここは城ですよ?」
リリーが不安に思ったのか尋ねると
「大丈夫さ! お前ら手品は見たことはあるか?」
ユニ先生は突然脈絡がないことを話し始めた。
「手品の仕掛けは往々にして、目を引く行為の直後に行われるものさ!」
「まぁ、ユニ先生の方法以外、策が思いつかないのから、その作戦でいきましょう!」
会長は少し呆れ気味だったが、他に策がないのかそう言っていた。
「大丈夫さ! 心配するなって! やればわかるよ!」
ユニ先生は俺たちにそう言うと、手で払うようなジェスチャーをした。
「全く..... あの先生は......」
エル会長はそのジェスチャーを見て、俺たちにアイコンタクトをした。
それを見た俺たちは頷き、城門まで走る。
すると、空から大きな物体が落ちてきたような凄まじい音が聞こえてくる。
俺はその衝撃音が気になり、ちらりと後方を見ると、見たことがない鉱石でできた巨大なゴーレムがユニ先生の前に現れていた。
俺はその光景に思わず尋ねていた。
「なんですか! あれは!」
「話は後よ! 後ろを気にせず場内まで駆け抜けなさい!!」
俺は巨大なゴーレムの存在を頭から追い出すと、誰一人として立っていない城門まで走った。
「ふぅー!! どうやらユニ先生の手品作戦は成功したようね!」
ユニ先生の手品作戦はうまくいったようで、衛兵たちは内部にいなかった。
「そうですね! でも、まさかユニ先生が聖霊使いだなんて思っていませんでした」
「リリー、あれは聖霊なのか?」
俺はリリーに尋ねた。
「ええ、そうよ! この世界には光と闇を除いて、4つの魔素があるでしょ? そして、それぞれの魔素を使う、精霊と呼ばれる強力な存在がいるのよ」
精霊がこの世界にいるとは聞いていたが、姿を見るのは初めてだ。
「リリーさんの言う通りよ。聖霊は数種類確認されているわ! リーシュ陛下も精霊の加護を受けているんじゃなかったかしら?」
「ええ! 父上は火の聖霊である不死鳥の加護をうけています!」
どうやら聖霊の加護をうけている人物は思いのほか多そうだ。
「他にもいるのか?」
「他には、ユリウスも精霊の加護をうけているわ! たしか...... イフリートの加護をうけているはずよ!」
そんな話を屋敷のエントランスで堂々とするべきではなかった。黒い衣服を身に纏った老人が音もたてず現れていた。
「おや? エントランスが騒がしいと思いましたら、貴方方でしたか」
俺たちは急に現れたその老人に驚き、声が出なかった。
「私がいることがそんなに驚きですか? 城の中なので、メイドや執事はいるはずです」
その男は長い白髭を触りながら尋ねていた。
「あなたに構っている暇はないわ! その通路をどきなさい! さもないと――」
会長は火魔素を出すと詠唱しようとしている。そんな会長の行動に物怖じせずに執事は答えていた。
「私はあなた方の邪魔をするつもりはありません。むしろ逆でございます! さあ、私についてきてください」
黒服を身に纏った執事はそう言うと、ゆっくりと歩きだした。
「ちょっと待って! なぜ私たちがあなたの言葉を信用すると思っているのかしら?」
すると、執事はこちらに向き直り再び口を開いた。
「この城の中にいるのは、メイドや執事だけでございます。もちろん、そんな我々があなたがたに敵うはずもありません。さぁ、主人がお待ちです」
執事は再び背を向けると、ゆっくりと歩きだした。
「会長、どうしますか?」
「そうね...... この城に一人も騎士がいないことは不自然なのよね。だから、罠かもしれないわ。もしくは、絶対に負けない自信があるのかもしれないわね......」
エル会長はそう言うと俺を見つめていた。
「俺が決めろってことですか?」
「そうよ! 今この中で一番強いのはイツキ君よ! 貴方が決めるべきだわ! それに、いい案が思い浮かばなくて......」
「そんな! 俺もどうすれば――」
俺はそう言いかけて後に続く言葉を飲み込んだ。ここにいるのは、エル会長やリリーなんだ。男である俺が、ビビっていたらロドリゴ先輩に怒られそうだ。
「わかりました! あの男についていきましょう!」
俺がそう言うとリリーも会長も従ってくれるらしい。二人は頷いていた。
俺たちは遠ざかる老執事を追いかける。
すると、大きな扉の前で老執事は止まった。
「我々の主人はこの部屋でお待ちです。では、私はこれで」
老執事は深々とお辞儀をすると俺たちに背を向ける。
「この先に、主人がいるって言ってたな。リリーも会長も用意はいいですか?」
「うん! 入ろう!」
「ええ! もちろんよ!」
俺は二人の顔を見ると、額からは汗が頬に伝っていた。この扉を開けたら、罠かもしれないのだ。俺だって緊張する。俺の体からも嫌な汗が流れていた。
「じゃあ、開けるぞ!」
俺は罠がないか確認するようにゆっくりと扉を開けた。
「やはり、死神だったか」
扉の先には、角が生えた悪魔と、金髪で白い肌の天使が玉座に座っていた。どうやら、ルーサーはぶどう畑を駆けていた男だったようだ。
「よく、私達だと分かったわね!」
会長は悪魔と、天使に尋ねていた。
「少数精鋭の部隊に、ゴーレム。これほどまでに強力な部隊はアミルの死神以外にはありえないでしょう」
扉を開けた時のどすのきいた声とは違い優しい声が耳に入る。
「天使様から、直々にお褒めいただけれるなんて光栄ね!」
リリーは天使を睨みつけながら言っていた。
「ふふ! 貴女からは聖霊の匂いがしますね。もしや、アムステリア皇帝の娘では?」
「そうよ! それがどうかしたのかしら?」
「私たちや悪魔は準備を調え終わりました」
「どういうことだ?」
言葉足らずな天使の言葉に思わず、聞き返すと悪魔はため息をしていた。
「アリスが言いたいことは、俺たちはもうすぐ首都アムステリアに宣戦布告するということだ」
「それとリリーに何の関係がある!」
俺がそう言うと悪魔は笑っていた。
「いいか! よく聞け。その男をこちらに渡してくれたら、アムステリアに侵攻することは止めよう」
「ふざけないで! イツキは渡さないわ!」
「いいのか? 故郷の人間はみな死ぬぞ?」
「私たち、アムステリア人は天使や悪魔に屈さないわ!」
リリーのその言葉に天使や悪魔は苦笑いをしている。
「ラムースの人間は知っていたというのに、この大陸の人間は真実を知らないのね。いいですか、真実を教えてあげましょう。3000年前に起こったことは、英雄アカギの暴走です」
どういうことだろうか。全く意味が分からない。リリーと会長も同じなのか眉を近づけていた。
「すまないな。アリスはいつも言葉足らずなんだ。俺から説明しよう。3000年前に起った戦争は代理戦争などではない。我々悪魔を崇拝するニド教と、天使を崇拝するミラ教に勝手に分かれた人間は、互いに争いだしのだ。私たちはそれを止めようとしたが、彼らは止めることはなかった。だから、何れ収まるまで私たちは放っておくことにしたんだ」
「でも、そんなときにイースで強力な魔力を保有する人物が現れたことを我々は確認したのです。そう、英雄アカギです。彼はアムステリア帝国内の騎士となりました。当時、アムステリアはミラ教でしたので、ミラ教の騎士として戦っていたわけです。ですが、どういうわけか戦っているうちに魔力が暴走し始めたのです。そんな彼は大陸の騎士達や街を襲いつくすと、今度はミラにやってきました。そこで、大天使ミカエル様が率いる軍勢と戦闘が起こりました。ですが、ミカエル様たちは戦いに敗れ、大神殿に避難したのです。それを見逃さなかったアカギは大神殿に高魔力を送り込み、私たちを幽閉しました」
急に饒舌になったことを悪魔も驚いたのか、目を丸くしている。
「まぁ、そう言うことだな。付け加えると、ニドでも同じことをアカギは行った」
「そんな話信じると思っているの?」
リリーは俺を庇ってか尋ねていた。
「その男が暴走したところを目撃しただろ? それに、我々悪魔や天使が保有できないほどの魔力を持っているんだ」
「くっ...... そ、それは......」
リリーは唇をかんでいた。その唇からは鮮やかな血が出ている。
「リリー、ありがとう。でも、彼らの話はおそらく、本当だ」
クリルでの悪魔の話や、アミルでラムースの騎士は俺を罵っていたことから、この悪魔の話はおそらく本当だろう。それに、俺は日本からイースに理由もなく転移してきたのだ。それに比べれば、まだ信じられる話だ。
「でも、アカギはその後、どこに行ったのかしら?」
会長はアカギの行方を尋ねていた。
「俺たちもそれは分からないんだ。ただ...... おそらく――」
「アスタロト。この子たちに話しても意味はないです。やりましょう」
天使アリスの言葉に悪魔アスタロトは頷いている。
「そうだな。さあ、人間たちよ。かかってくるがいい!」




