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第四十六話 それぞれの思い

 ガインの街での愛の告白ゲームが行われてから、数組のカップルが誕生した。そして、そのゲームを行ったことは、果たして正解だったのだろうか。俺はその答えを知らないし、知りたくもない。


「イツキ! 考え込んでいる時間はないぞ! 気持ちはわかるが、今は動かなければ!」


 俺の隣にいるイリアは猛攻を防いでいる。周りを見渡せば、A組の皆や騎士達は必死にアムステリアの首都であるアムステリアを守ろうとしていた。空は昼間だというのに曇天のような黒や黄金のような黄色に輝いていて、その輝きの中からいくつもの技がアムステリアを襲っていた。風は爆発のような音や、詠唱された技が空気を切り裂いていく音や、人々が懸命に叫んでいる音を耳に運んだ。地面をみれば、無数の死体が転がっていて、中には負傷したがまだ戦えると思っている騎士が、懸命に立とうとしていた。


 その答えを知りたくもない。そして、今思うことは、あの時に戻ることができればということだけだ。





 ◇




 ガインの街で愛の告白ゲームを行った結果、数組のカップルが誕生した。エル会長とロドリゴ先輩、2,3組の2年生カップル、そして、意外にもルルに彼氏ができていた。正確に言えば、愛の告白ゲームでできたわけではないし、まだ彼氏ではないが、ほぼ確定で彼氏という存在だ。


 俺たちがルルと彼氏的存在が親密な関係だと知ったのは、愛の告白ゲームの時ではない。今朝、ルルが何かを隠していると感じとった会長が、何度も尋ねたようだ。


 その結果わかったことがある。彼氏的存在はこっそりと酒場の外にルルを呼んで、告白したそうだ。


 そんなルルの彼氏的存在は、3年生らしい。名前はミシェルという名前で、出会いは、特訓のときらしい。そういえば、俺たちはあのとき、3年生を担当していたな。まさかあの美少年のミシェル先輩じゃないだろうな。チャラそうだし、ルルの好みには思えないから、違うとは思うが。


 こんな風に多数のカップルが誕生したA組は、色ボケのような雰囲気を醸し出しながら首都ユーミールを目指していた。そして、首都ユーミールは目前で、街の城壁が見えそうなほど近い農道に陣取っている。辺りは一面ぶどう畑で、冬だから枯木のように色あせた木が無数にあるだけだった。


「ついに首都ユーミールに着いたわ! 皆作戦は覚えているかしら?」


 エル会長は尋ねると、俺たちは首を縦に振った。


「流石に分かっているわね。でも、確認のためにもう一度話すわ。本隊はこのぶどう畑周辺で騒ぎを起こしてほしいの。その隙に、私とイツキ君とリリーさんはユーミールに侵入するわ」


 会長が確認のために話した言葉に再び俺たちは首を縦に振る。


「それで、本隊はロドリゴに任せるわ! 頼んだわよ!」

「ああ! 任せておけ! 首都ユーミールにいる騎士が全員こちらに集まるような騒ぎを起こしてやる!」


 ロドリゴ先輩はそう言うと、自分の胸を叩いている。ロドリゴ先輩のその言葉はとても心強い。エル会長がいないときには、常にロドリゴ先輩が指揮をとっていた。先輩ならきっと成功に導くだろう。


「それじゃ、作戦は今から1時間後の午後1時に決行するわ! それまでは、各自、自由行動!」


 会長はそう言うと、A組の皆は各自、思い思いのことを行っていた。俺たち生徒会メンバーはというと、いつものように会長を中心に集まっていた。


「ルルに恋人ができるとは驚いたな!」

「ロドリゴ先輩...... 恋人ではないのです......」


 俺たちは先ほど聞いた、ルルの恋人の話で持ち切りだった。


「しかも! 私たちのクラスメイトのミシェルだとはね!」

「ああ! それを聞いた時驚いたぞ! 女っ気がないミシェルがルルを好きだったとはな」


 どうやらミシェル先輩は女っ気がない人物のようだ。そうだとすれば、俺が知っているあの美少年のミシェル先輩とは別人だろう。


「でも、ルルちゃんはなんで付き合わないの?」


 リリーが疑問に思ったのかルルに尋ねていた。


「それは...... 関係を知られることが恥ずかしいからです......」


 ルルらしい意見に対して、俺たちはにやけていた。


「既に知られているのだ! いっその事付き合ったらどうだ?」


 イリアの意見はもっともだ。俺もイリアの言葉に同調するように話していた。


「これから、死ぬかもしれない大規模な戦闘が沢山起こるんだ。ちゃんと好きだと伝えたほうがいいと思う」


 俺がそう言うと、皆は首を縦に振っていた。


「でも......」

「ルルちゃん! 私もルルちゃんの気持ちはわかるわ! でも、死んだら戻ってこないわ」


 会長がルルの頭を撫でながら優しく諭すように話していた。


 会長のその言葉はとても重く俺の心を刺激した。これから先、大規模な戦闘に巻き込まれることもあるだろう。俺はルルに偉そうなことをいったが、リリーやイリアを守れるだろうか。


「わかったの...... 今からミシェルに伝えに行くの......」


 ルルは決心したのか、握りこぶしを作りながら、ミシェル先輩がいる方角に足早に歩いて行った。


 そこに立っていたのは、俺が知っているミシェル先輩だった。金髪で碧眼の誰もが認める美少年で、チャラそうな雰囲気を醸し出しているミシェル先輩だ。この先輩は特訓の時もモテモテだった。女っ気がない理由はなぜなのだろう。俺は食い入るように先輩を見つめていると会長は


「驚いたでしょ! ミシェルはああ見えて、律儀な男なのよ。だから、これまですべての告白を断ってきたの。自分が本当に好きじゃないからって理由でね」


 人は見かけによらないとは、どうやら本当のようだ。俺もミシェル先輩のように、リリーとイリアに律儀でありたい。


 そんなことを考えているとルルはミシェルの手を引きながらこちらに向かってきた。


「僕のことを知らない人も数人いるようだから、挨拶をするよ。僕はミシェル ルブラン。貴族生まれではなく、クリルの街で生まれ育ったんだ」


 ミシェル先輩がそう言うと、リリーとイリアはお辞儀をしている。


「まさか、ミシェル ルブラン先輩だとは思いませんでした」


 俺がそう言うと、ミシェル先輩は綺麗な金髪を掻き揚げながら笑っていた。すごくイケメンである。叶うなら、俺もこんな顔になりたかった。男の俺でも見惚れそうな容姿だ。


「談笑は後にしましょう! もう少しで1時になるわ! 皆準備をしておいてね」


 会長は真剣な表情でそう言うと、ロドリゴ先輩のところに駆け寄り、頬にキスをしていた。



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