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第四十二話 未知の石板

 二日酔い気味の俺たちA組はアミルの街で旅の無事を祈った宴会を行った翌日、南方にあるユーミール小国連の首都ユーミールを目指し旅をしていた。そんな俺たちの旅はアムステリア領の山道を行き、時には道ではない草木が生い茂った自然豊かな人の手が入っていない道を通り、ついにユーミール小国連合との国境線を突破した。


「ついにここまで来たわね! まだ国境線をちょっと行ったところだけど、数週間旅をしている感覚だわ」

「まぁ、馬車も通れないような道を通ってきたからな。予定より大幅に遅れているはずだ」


 俺の前方にいる会長とロドリゴ先輩は話していた。


 俺たちは敵との遭遇を避けるために、わざわざ道がない山を登り、下っていた。当然馬車がないので食料調達には狩りをしたり、近くに街があれば食料を買いに街まで出て過ごしている。


「そろそろ水浴びでもしたいわね......」

「姫様、この地点から少し歩いたところに地方都市ガインがあります」

「地方都市にいけばお風呂に入れるわね! それに美味しい食事にもありつけるわ」


 俺の両隣にいるリリーとイリアは風呂の話をしていた。たしかにアムステリア領にある地方都市を出てから数日が立つ。そろそろ風呂に入りたい気分だ。汗や汚れが肌に纏わりついてきて気持ちが悪い。なおさら、女子であるリリーやイリアはそこに気を遣っているだろうから入りたいのだろう。


「会長! ここから少し歩いたところに地方都市ガインがあるので、そこに立ち寄りませんか?」


 リリーが尋ねていた。


「そうねー。久しぶりに汗も流したいし、ちゃんとした食事もたまには取りたいわね」

「ああ、名案じゃないか! ガインの街に向かおう」


 ロドリゴ先輩は嬉しそうに笑っていた。


「わかったわ! でも、今日一日で着ける距離ではないから、今日は適当なところで野宿するわよ」


 会長がそういうと、A組の皆はさっきまでの疲れ切った表情とは違い、まるでこれから宴会でも行われるかのように明るくなっていた。俺たちも例外ではなく、互いに頷くとガインでやりたいことを話し合っている。


 そんなことを話しあっていると、前方から一人の女子生徒が隊に近づいていた。


「報告します! 敵の気配はなし! あと、この近くに水場があります!」


 偵察に出ていた生徒が戻り報告している。水も食料も持ち運べない俺たちが一番重要視していることは、水場がどこにあるかだ。もちろん水魔素を使って簡易水浴びや水を飲むことはできるが、水場があるということは水を飲みに訪れる動物がいるということだ。俺たちの表情はより一層明るくなる。


「どうやら今日はついているみたいね! その近くで野宿するとしましょう!」

「おおー! 久しぶりに肉が食えそうだぜ!」

「私は水場で簡易風呂を作って入りたいなー!」


 会長が宣言すると、A組の皆は思い思いやりたいことを述べていた。


「じゃあ、先導お願いね!」


 さっきの偵察に出ていた生徒にお願いすると生徒は頷き、先導する。




 しばらく歩くと水の音が聞こえてきて、辺りの植物も潤っている。


「ここです!」


 俺たちは先導していた生徒の指さす方をみると、木々の間から小さな滝が見えた。


「水です!...... 私はお風呂に入りたいのです!......」

「ルルちゃん! 一緒に入ろうね!」


 会長はルルに抱き着くと頬ずりしながらにやけている。エル会長はもしかして同性が好きなのだろうか。俺はぼーっとそんなことを考えていると、いつの間にかA組の皆はいなくなっていた。


「イツキ! 何をぼーっとしている!」

「いや、すまない。何でもない」


 会長は同性が好きかどうか考えていたなんて口が裂けても言えるわけもなく、俺は深刻そうな顔をし誤魔化していた。


「『男の子は狩りに、女の子は水場で簡易風呂や採集を』って会長が言ってたよ」


 くだらないことを考えていたせいで聞きそびれたのだろう。早く狩りに向かわなければ皆と合流できなくなってしまう。俺はリリーとイリアに「行ってくる」と言い足早に皆のところに向かった。






 結論から言えば狩りは大成功ともいえず、名前も知らない鳥を数羽捕まえただけだった。大物を捕まえてリリーとイリアにいいところを見せたかったが、俺は狩りをした経験があまりないのだ。仕方がないだろう。


 捕まえた鳥を手で持ちながら女子たちが待つ滝付近に行くと、土魔素で滝つぼの一部を覆った大きな風呂ができていた。


「イツキ戻ったのね! このお風呂いいでしょ! ちゃんと温かいのよ」


 リリーの言う通り、大きな風呂の下にある薪がメラメラと燃えている。まるでドラム缶風呂のようだ。


「すごいな! 露天風呂じゃないか」

「でしょ! 私たちは既に入ったからイツキたちも入ったら」


 そう言ったリリーを見ると髪はつやつやでいい匂いがしている。そんな綺麗で石鹸の匂いがするリリーを見ていると少しドキッとする。俺はやましい考えを捨てるために深呼吸をし「わかった入ってくるよ」と言い、ロドリゴ先輩たちと共に風呂に向かった。





「男の子たちが戻ったようね。それじゃあ、これからご飯にしましょう!」


 会長がそういうと俺たちは狩ってきた鳥やイノシシ、キノコなどを豪快に食べる。


「ちょっとー! もうちょっと綺麗に食べてよね!」


 3年生の女子だろうか。俺たちの食べ方が汚いのかそう言っていた。


 久しぶりの肉だからがっついてしまった。女子たちを見るとがっついている人は少なく丁寧に食べている。俺はそんな女子たちを見て感心していると、俺の後方に何かが埋まっているのに気づいた。


 俺はこの材質を過去に目にしている。間違いなくこれはミラに在ったものと同じだ。ということはこの下に天使の神殿が埋もれているのかもしれない。そうだとすれば、力を得ることができる絶好の機会だ。


「会長! ここを見てください! この下に遺跡があるかもしれません!」


 俺がそういうとA組の生徒は俺の指先にある物質を見つめている。


「イツキ君が言うならそうなのでしょうね。土魔素で地面を少し掘り起こしてみましょう」


 会長はそういうと俺たちは魔力で掘り起こしていく。


 すると2mほどの石板が現れた。


「皆、この文字を読める?」


 リリーが尋ねたが、A組の生徒は誰一人読める者はいなかった。


「ということはラムースや、天使、悪魔の文字か?」

「イツキ、それは違う。ラムースも天使や悪魔、我々はすべて同じ文字を使っているからな」

「じゃあ、これは一体......」

「わからないわ。それに石板なのに劣化しないなんて」


 会長の言う通り、いくら未知の材質でできた石板とはいえヒビさえないのはおかしい。ということは最近作られた石板という可能性が高い。


「最近作られたということですか......?」

「わからないわ。でも劣化していないからその可能性は高いでしょうね」


 会長も俺と同じ考えなのかそう言っていた。


「ロドリゴ、あなた考古学をかじっていたわね。この石板を見てどう思う」

「俺にもわからない。だが、イースに未知の種族がいる可能性が高いだろう」


 俺たちはロドリゴ先輩の言葉を聞くと驚いた。なにせこのアムステリア大陸にいる我々は住み着いてから一度も知的な生命体を目撃したことがないからだ。古代の文字で書かれているわけでもない不思議な石板の持ち主が未知の種族だと言われたらそれは驚くだろう。


「まぁ! 今この石板について考えたところで答えは出ないわね。ユーミールの指導者を倒した後に、ゆっくりと考えましょ!」


 エル会長はそういうと鶏肉にかぶりついている。他の生徒もそう思ったのかそれぞれ好きな食べ物を食べ始めていた。


 エル会長の言う通り今一番大事なことは劣勢なアムステリアを救うことだ。そのためには余計なことを考えずに、最善の状態でいるべきだ。


 考えることを止めた俺は空腹を満たすためイノシシ肉にかぶりついた。







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