第三十八話 不穏な空気
エル アルジャンテ side
私はロドリゴとイツキ君と別れてからルルちゃんと共にリリーさんとイリアさんを探しに倉庫のような建物に向かっている。辺りを見渡せば騎士はいないようで、館の衛兵が巡回ルートをルーチンのように歩いているだけだった。
皇帝の娘が誘拐されているというのに、ここまで無警戒だと逆に怪しいけど、今更他の場所を調べる時間もない。私はルルちゃんの手を握りながらゆっくりと慎重に倉庫へと向かう。
すると、衛兵が倉庫の入り口に2人立っていた。流石に入り口にはいるようね。ここで戦闘が起きれば他の衛兵も気づくし、どうしようかしら。
私がそう考えているとルルちゃんが水球を二つ衛兵に対して迷いもなく放っていた。
「ちょっと! ルルちゃん! 無計画すぎるわ!」
「すみません......」
ルルちゃんの放った水球に対して防御できなかった衛兵は横たわっていた。それに、他の衛兵は気づいていないようだ。
「他の衛兵は気づいていないみたいね。結果オーライよ! よくやったわルルちゃん」
「ありがとうです......」
私は再びルルちゃんの手を握ると倉庫の中に入った。
倉庫の中は『倉庫』と呼べるものではなく、いくつもの部屋からできた家のようだった。私たちは廊下を進み手前にあった部屋に入ると、壺やテーブル、絵画などが置いて得あるだけだ。
「どうやらここは荷物を保管するところのようね。そんなこの場所にいるとしたら、鉄でできた部屋か衛兵が近くにいる部屋でしょう」
「じゃあ、そのような部屋を探します?」
「いいえ、念のためにすべての部屋を探しましょう!」
ルルちゃんは頷くと私を上目遣いで見てくる。相変わらずルルちゃんは可愛いわ。嫁にしたいくらいに。
そんなことを考えている場合ではないわね。私たちは再び廊下に出ると近くの部屋からリリーさんとイリアさんがいないか調べた。
だが、いくら探してもいない。
「やはり館の方にいるのかしら」
「ルルもそう思ってきました......」
私たちが互いに考えていると、館の方から笛の音が聞こえてくる。
間違いないわ。この笛の音は私が渡したもの。ということは、あまりいい状況じゃないってことね。
「ルルちゃん! ロドリゴたちが危ないわ! 今から館に向かうわよ」
「はい!」
私たちは広い倉庫を数分かけてでると、周囲に潜伏していたA組の生徒と出くわした。
「エル! 館の周辺にいた敵は倒しました! あとは館に侵入するだけだ」
「わかったわ! 念のため数名はここで他の騎士達が館に来ないか確かめるために待機してちょうだい」
「了解だ!」
私たちは互いに意思を伝えあうと、館に向かおうとした。向かおうとしたのだけど。
「エル! この光はいったい......」
「わからないわ......」
館の周囲に魔素の色である、赤、青、茶、緑、黒、黄色が融合し集まっていた。
「わからないけど、ここにいたら危ないってことはわかるわ。早く助けたいけど、近づくのは危ないわね。一旦館から離れましょう!」
私たちは必死に館から離れ、大通りを走っている。周囲にいるこの街の住民も察したのか門がある方まで走っている。
「おい、エル! この虹色の光、まだ膨張しているぞ!」
「わかってるわ! 光が収まるまで街を出ましょう!」
後ろを見ると虹色の光は膨張していた。この光はいったい......
今は考えている場合ではないわね。私たちは必死に門がある方まで走る。
門が見えたところまで走ると、ドカンとまるでこの世の終わりのような音が聞こえ振り向くと館があるところに虹色の光が天から降り注いでいた。
「これは一体何なの...... それにさっきより大分光が小さくなってるわ」
「エルちゃん、どうするの......?」
ルルちゃんは私の手を握るとそう言っていた。
見たところ街を飲み込むほどの威力はなさそうだ。だとしたら、一刻も早く助け出すために館周辺に戻る方がいい。
「館の周辺で待機するわ! 戻りましょう」
私たちは来た道を戻り、館の周辺で虹色の光が収まるのを待っていた。
しばらく待っただろうか。その光は何事もなかったかのようにすぐに消えた。
「消えたようね! 今から館に入るわ。ルルちゃんと数人は館の入り口で待機してちょうだい」
「わかりましたです......」
私たちは館に入ろうと走っていると、後方から足音が聞こえてくる。
「エル! まってくれ! 俺もいく!」
「ロドリゴ! 館の中にいたんじゃないのかしら?」
「いや! 俺は騎士数十人に追いかけられていた。さすがに勝てないから、広いところに逃げながら戦っていたわけさ」
「そう! 騎士が追いかけていないということは倒したのね」
「ああ。それより、イツキたちがまだ中にいる。早く向かおう」
ロドリゴが合流すると、私たちは再び館に向かう。
ロドリゴに先導され、館の跡地に戻り、地下のある所に戻ると奇跡的に無傷であった階段を降りる。
すると、階段を降りた先には綺麗な見たこともない盾に覆われたリリーさんとイリアさんと、ボロボロな体のイツキ君と、焼け焦げた誰かもわからない兵士数十人が見えた。
「イツキ! リリー! イリア! 無事か!」
「ロドリゴ副会長! 私たちは無事です! でも、イツキが!」
「二人は無事のようだな。二人の服と回復詠唱をできる者はイツキの手当てを頼む!」
私が茫然としているとロドリゴは私の代わりに指揮してくれていた。この光景に驚いている場合ではない。しっかりしなくては。私は深呼吸をすると階段を物凄い速さで降りてくる音が聞こえた。
「会長! 大変です!」
「そんなに急いで、どうしたのかしら?」
「大通りから騎士1000人ほどが向かってきています!」
「今なんて?」
「ですから、騎士1000人程度が向かってきています! おそらくアミルのそばに駐屯していた部隊でしょう」
この状況で騎士1000人と相手するほど私たちに力はない。だけど、ここから抜け出すこともできない。
だとしたら、戦う他に手はないじゃない! なんてついていないのかしら。
「わかったわ。報告ありがとう。皆聞いたわね! 騎士1000人が向かってくるわ。私たちはそれを迎撃する必要があるわ。回復詠唱者はここでイツキ君の治療を。他の皆は入り口まで戻り、そこで迎撃しましょう!」
「おう!」
「やってやるわ!」
私の言葉にA組の生徒は嫌な顔せず、むしろ、闘志を燃やしていた。
「私たちは勝てるわ! ここまで厳しい特訓にも耐えてきたんだし! それにここにいる私たちの友達を死なせるわけにはいかないでしょ!」
私がそういうとA組の生徒は頷いている。
「それじゃあ、入り口まで戻りましょう!」
私たちは闘志を燃やし、大通りから進行してくる敵を迎え撃つために入口へと向かった。




