第三十五話 二人の居場所
潜入を始めてから1日と10時間ほどたち、しんがりではないが俺たちは最後の潜入をしようとしていた。作戦は俺が馬車の御者の役割で会長たちは馬車の中でやり過ごすというものだ。
門前には衛兵だけでなく、騎士も10人ほどいて厳重に警備されていた。平静を装うが、額からでた汗が頬につたっている。A組の皆は門を無事に突破しているはずだ。大丈夫だ。落ち着くんだ。近くにいる衛兵も怪しい目で俺をみていない。きっと大丈夫なはずだ。
深呼吸をし通行証を確かめている衛兵の前に馬車を走らせた。
「まて! アミルは現在ガリア皇国領である。通行は制限されている。見たところ行商人のようだが、通行証は持っているのか」
「あります! これで」
俺は通行証を厳重警備中のラムース兵に渡すと
「うむ! たしかにこれはラムース連合通行証だ。しかし今日は妙に若い行商人が多くてな。すまないが、荷を見せてもらえるか」
これはまずい。馬車の中には会長やロドリゴ先輩、ルルが変装をして乗っているだけで、荷など呼べるものはない。
「荷はその...... あまり見せられないものでして......」
「ルールはルールなのだ。見せてもらおう」
門番は馬車の後ろにある入り口に近づいている。このまま見過ごせば俺たちの目的は達成できない。こうなったら、会長たちに奴隷のふりをしてもらう他に手はないだろう。
真後ろにある布を少し開け緊急事態であることを会長たちに話そうとすると
「イツキクン! 私たちは既に奴隷のふりをしているわ! 後は仕上げに私の手を紐で結んでくれないかしら」
小声でそういうと、会長は前のめりになり手首を見せていた。その光景に俺はおもわず心臓が飛び出しそうになった。
「会長! 胸みえてます......」
「今はそれどころじゃないわ! はやく!」
そうだ。やましいことを考えている場合ではない。俺は会長の手首をひもで縛りあげる。その瞬間後方ろの布が開き、門番が馬車の中を見ていた。
「なるほどな...... 奴隷商か」
「ええ......」
「だが、奴隷で遊ぶのもほどほどに。ここは一応公の場だからな」
門番は俺が会長を前のめりにし胸を触っていると勘違いしたのだろう。実際、後ろからみればそう見えるだろうけど、何はともあれ助かった。
俺は会長に礼をすると、会長はウインクをしていた。普段はクールで綺麗なエル会長だが、ウインクをした顔は思いのほか可愛かった。今日の会長はどこかおかしい。いや、緊張のせいで俺がおかしいのだろう。とりあえず深呼吸でもしておこう。
深呼吸をすると衛兵に「で、では中に入っても?」と尋ねた。
「ああ。構わない。通行証は返しておく」
少しドキドキしながらも門をくぐりアミルの街を通ると、既に潜伏しているA組の生徒はフードを深く被りながら俺を見ると頷いている。どうやら、アミルの街に無事に入れたようだ。これでこの作戦の第一段階は成功した。あとはアミルの街中を探索し、リリーとイリアがどこにいるか情報収集し、助けに行くだけだ。
頼む。二人とも無事であってくれ。俺は祈りながら馬車乗り場に馬車を置きに行った。
◇
馬車乗り場に置いた後、情報を得るためにフードを被ったA組の生徒に接触し、夜中に酒場に代表者で集まることになった俺たちは酒場にいる。
「それで、リリーさんとイリアさんの居場所はわかったのかしら?」
「いや、俺の班が調べてるエリアでは特に情報はなかった」
「私の班も情報はなかったわ......」
「北西に行った俺の班はある情報を耳にしたんだが」
「それはなんですか!!」
やはりこのアミルの街にリリーたちはいるようだ。
「まあ、落ち着け。居場所を見つけたわけじゃないんだが、今日で誘拐されてから7日目だ。それで、明日リリーたちに処罰が下るらしい」
「その情報は信用できるのか?」
ロドリゴ先輩が腕組をしながら言っていた。
「いや、昨日酒場で酔った騎士が言っていたことだから確信は持てないが、事実だとは思う」
「そうね。既に7日も過ぎたわ。ラムース側もただじっと現状維持を続けるわけもないし、あり得るわね」
会長の言う通り早馬を走らせれば3日でつくこの街に何の音沙汰もなければ、ラムース側はリリーとイリアを見捨てたと判断するだろう。なので一刻も早く助けに行きたいが、肝心の居場所が分からない。ならば館に侵入するしかないだろう。
「会長! 明日館に侵入すべきだと思います!」
「そうね。時間もないし、明日にはリリーさんたちの処罰が決定されるわ。明日私たちの班で館に侵入しましょう。他の班は二手にわけます。一つは引き続き調査を。もう一つの班は念のため館周辺で待機しておいてください」
会長がそういうと皆は頷いている。もちろん俺も頷いている。
「じゃあ、今日はもう夜も遅いし明日の決戦のために寝ることにしましょう」
「わかりました」
俺は会長たちに別れを告げると、酒場の上階にある部屋に向かった。
部屋に入るとすぐに考えたいことはリリーとイリアのことだ。
今こうしている間にも、リリーたちは食事を与えられず拷問されているかもしれない。もしかしたら、凌辱されている可能性だってある。一刻も早くリリーとイリアを助けたい。今すぐにでも館に向かいたい。だが、仮にそうしたらリリーたちの命が逆に危なくなってしまう。
だけど助けたい。
いや、落ち着け。ここで考え続けても何も変わらない。それよりもゆっくり休み、明日に備えるのが一番いい。
酒場で買った水を一口飲むと、賑やかな大通りを避け、危ない雰囲気がある裏通りを俺は歩いた。




