第三十一話 学院の危機
特訓を開始してから1か月がたち、A組の生徒は飲み込みが早く次々と新技を会得していた。
「次は天光を覚えましょう!」
「わかった! して、その天光とやらはどうやればいいのだ。なにせ見たことがないのでな」
「俺が今実演するので見ていてください。光よ、力を貸してくれ! 天光」
俺は天光を唱え、棒状の光が高速で宙に飛んでいく。
「なんという速さだ!」
「俺もこれを始めてみた時は驚きました。それで、この技は光を一点に集中させるイメージです」
「お、おう! わかった! やってみよう 光よ! 我に力を与えたまえ 天光!」
........
「やはり一度で発動できるほど甘くはないか......」
「もう一度やってみましょう!」
「おう!」
俺たちは何度も何度も繰り返し練習していると、ルルがこちらにやってきていた。
「どうした?」
「先輩...... もうお昼です。ルルはお腹が減りました」
演習場の時計に目をやると1時を過ぎようとしていた。
どうやら俺たちは集中していたため、昼になっていたことを気づかなかったようだ。
「ごめん、ルル。全く気付かなかったよ」
「いえ......」
グググググ
ルルは頬を赤らめ俯くと、お腹を押さえている。
「聞きましたか......?」
「な、何のことかな?」
「聞こえていないのならいいです......」
ルルは人見知りで無口だし会話の間は平気だったんだが、今は俺が聞こえていたのに嘘をついたせいか気まずい。早く話題を変えなければ
「そ、それよりお昼にしよう!」
「はい! ルルは腹ぺこです」
俺は昼休みであることを、3年生に告げるとルルと一緒に会長たちが待つ食堂へと向かった。
「イツキ! こっちよ!」
食堂に行くとリリーが手を振って居場所を教えてくれていた。
「それにしても遅かったわね」
「ああ、ちょっと集中しすぎてな」
俺たちは手を振るリリーのところに行くと、会長たちは俺たちをずっと待っていたのか、まだ食べていないようだった。今度から時間を適時確認しないといけないな。
「来たのね。それじゃ、頼むとしましょう!」
会長は俺たちにそういうとメニュー表を手渡してきた。
「そうそう! 皆は今日の新聞はもう見たかしら?」
会長ははっとした表情で俺たちに問いかけていた。
「いえ、まだ見ていませんけど」
俺がそういうと、皆も同じなのか頷いている。
「そう。ラムースとの小競り合いだけど、帝国10騎士は死亡したらしいわ」
「まさか! あの10騎士様がやられたのか......!?」
ロドリゴ先輩は注文していたコーヒーを飲むのをやめると夢が覚めたような顔をしていた。
「私もそれには驚いたわ。まさか帝国10騎士ほどの実力者でも倒せないなんて」
帝国10騎士はアムステリア屈指の騎士だ。いや、過去3000年間ラムース、アムステリア大陸で最高の騎士と言われていた存在だ。そのおかげでラムースとも他国とも今まで戦争がおこっていなかったらしい。それなのに、こうも簡単にやられたなんて誰も信じられるわけがないだろう。
「会長、どこまで進行しているのですか?」
リリーもロドリゴ先輩同様驚いた表情をしている。
「ガリア、ユーミールの連合軍は西部、南部の重要拠点を攻略して首都アムステリアに侵攻中らしいわ。小競り合いではなくて、完全な侵略ね」
ラムース連合は宣戦布告をせずにアムステリアの土地に踏み入れたということか。できれば光、闇魔素をもつ全生徒を訓練したかったが、時間があるだろうか。
「エル会長! A組の訓練は間に合うでしょうか」
どうやら俺と同じことを思っているようだ。イリアはカップを置くと真剣な表情で言っていた。
「北部から騎士1000人、マルーク王国から1万人、アラド王国からは514人騎士が派遣されたみたいだけど、A組の皆が完璧に覚えるまで持ちこらえているかは確信がもてないわ」
会長の言う通り数では勝っていても相手は10騎士を倒すほどの実力者だ。厳しいかもしれない。
「せ、先輩方。もし、A組の訓練が間に合ったとして、どうするのですか......」
ルルの言う通り、A組を育て上げたとして首都アムステリアまで攻め込まれていては何もできないだろう。
「ルルちゃん! それは訓練が終わってから考えましょう。でも、おそらく皇帝直属の部隊として動くことになると思うわ」
会長がそういった瞬間アムステリア学院に設置されている鐘の音が俺たちの思考を阻害するように鳴り響く。
「お前ら! 今すぐに戦闘態勢に入るんだ!」
グランズ教諭は慌てふてめいて食堂に入ってくるとそう告げていた。
「先生何があったんですか?」
「イツキか。実はラムース側とみられる騎士数百名が壁を乗り越え学院内に侵入したとの報告があった。今オルフェレウス院長と他の先生方と戦闘中だ」
騎士数百人が敵の本拠地近くにある学院まで迫っていたらしい。規模的には奇襲ということになるのかもしれないが、目的は一体......
「先生! 私たちも戦うべきです!」
リリーは立ち上がりそう言っている。
「頼む。 もうすでに志願者はラムース連合の騎士達と戦っている! 君たちは強い。東西南北別れてもらえると助かる!」
グランズ先生はそういうと普段とは違いポケットから手を出した状態で食堂を後にした。
「そうだな。グランズ教諭の言う通りだ。俺とルルは東側に、イツキは西側、リリーとイリアは北側に。それと、エル。南側を一人で頼めるか?」
「ロドリゴ。私を誰だと思っているの。任せてちょうだい!」
普段は冷静な会長だが、珍しくロドリゴ先輩とハイタッチをしている。
「じゃあ、皆死なないように気を付けるのよ!」
会長がそういうと、生徒会メンバーはそれぞれ散っていた。
これまでの任務とは違いこれは戦争だ。死の恐怖が俺を襲い体験したことのない冷や汗が体中を覆う。皆は騎士として育てられたから心構えができていたのかもしれない。だが、俺は平和な国で平凡な人生を歩んできただけだ。
本当に俺は戦力になるだろうか。いや、俺は今まで過酷な練習や、クリルでの戦闘を体験したじゃないか。
大丈夫だ。
俺は深くゆっくりと深呼吸をすると西側にある寮に向かった。
西側につくとラムース側とみられる黒を基調とした服装をした騎士達が学院の生徒、先生と戦闘をしていた。見たところ50名ほどだろうか。ということは全体で200人だと推測できるだろう。ならばこの戦い数で優っている俺たちが勝つ可能性は十分にある。
「闇よ! 力を貸してくれ! 悪魔の衣 身体強化! 予知! 付与! 光明力! 皆さん! 一旦俺の後ろに下がってもらえませんか!」
俺がそういうと不思議そうにこちらを見つめていたが、俺の言う通りに動いてくれた。
よし、これで大技が撃てる。リリーやイリアには使っていない。まだだれにも使っていない天界光級の大技を。
「闇よ、力を貸してくれ!! 漆黒落雷!!」
俺が詠唱すると、天空に黒い魔素が集まりだし大きな雲となっていた。ラムース側の騎士たちはその気配を察したのか上空に魔法の盾を張っている。
可能性の話だが、この騎士全員が4万越えの魔力を持っているとは思えない。それはこの盾を見てもわかる。だとしたら、魔力で優る俺の一撃を耐えられるわけがないだろう。
いけるぞ!!
俺は魔素を集中させ、天空から漆黒落雷!!をいくつも落とす。その光景はまるで地獄絵図だった。いくつもの闇の雷が天空から降り注ぎ、ラームス連合の騎士達を飲み込み、重傷を負わせていた。
「おお! さすがは学院創立以来の天才じゃねーか!」
「イツキ君。たすかったわ! ありがとう!」
後ろを振り向くと、学院の生徒たちが俺の事を褒めていた。照れ臭いが、こういうのもいいものだ。
俺は嬉しくてにやけていると、上空に人影が見えた。
「ふふ......ふはははは!! 見ないうちに随分強くなったのだな。イツキよ。西側の部隊を一瞬で全滅させるとは。貴様、本当に人間か!?」
この高笑いに独特の通る声。間違いないあいつだ。俺はその声の持ち主を知っていた。
「サミー!! どうしてお前がそこにいる!」
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