第三十話 7王国会議
夏の猛特訓を終え学院に戻った俺は久しぶりの登校日を迎えていた。いつも通りリリー達と朝食をとり、寮を出ると、女子生徒の大きな声が聞こえてきた。
「号外です!」
新聞部の生徒だろう。こんな朝早くから新聞を配っているのは珍しいな。
俺は女子生徒が配っていた新聞を手に取ると『アムステリアに迫る危機』という見出しが書かれていた。
「イツキ! 新聞はもうみたかしら?」
「いや、今寮からでたばかりで、まだ見ていない」
「そう! なら見るべきだわ!」
リリーとイリアは深刻な顔をしていた。これほどまで深刻な顔を見るのはクリル以来だ。きっと大事に違いない。
見出しも気になった俺は新聞に目を通すと、アムステリア7王国会議が開催され、ユーミール小国連合、ガリア皇国は7王国から脱退と書いてあった。その内容を簡単に説明するとこうだ。
先日アムステリア7王国会議がアムステリア帝国の首都アムステリアで開催され、議題に上がったのはラムース帝国との連携国、神話が事実だということ。数か月前に密かに行われたミラニド教掃討作戦により、捕縛されたクリルの領主はユーミール小国連合、ガリア皇国が神々を崇拝するためラムースと手を組んだと証言。その証言によりアムステリア帝国、マルーク王国、ビスク王国、アラド王国、バッジ共和国はユーミール小国連合、ガリア皇国に対して経済制裁、軍隊駐留の措置を可決。それに異を唱えたガリア皇国、ユーミール小国連合は7王国会議を脱退。
これにより神々を信じるガリア皇国、ユーミール小国連合、ラムース帝国 vs アムステリア帝国、マルーク王国 ビスク王国、アラド王国、バッジ共和国の対立構造ができた。ちなみに、クリルの領主とラムースの生徒は首都アムステリアの牢獄で服役中らしい。
「やはりこうなったのか」
「そうみたいだ。それに我々は劣勢だ」
「数では勝ってるのに、劣勢なのか?」
「そうか。イツキはまだこの大陸のことをちゃんと把握していなかったな」
「そうね。イツキ。この大陸中央にあるのが私たちの国アムステリア帝国よ。北側にビスク王国、バッジ共和国、西側にガリア皇国、南側にユーミール小国連合、東側にマルーク王国とアラド王国があるの。それでね、北側にあるバッジ共和国とビスク王国は土地も貧しいこともあって、昔から経済も、兵力も他の国々よりだいぶ劣っているわ」
「なるほど。つまり、兵力は拮抗しているが、騎士としての質はあちらのほうが上ということか」
ラムース側は古代の技を使えるようになってからだいぶたつ。騎士の質はあっちのほうが上だろう。
「ええ、その通りよ」
俺たちが記事のことで話していると周りの生徒は騒めいていた。何があったのだろうか。みんなの視線の先に目をやるとオルフェレウス学院長がいる。
「学院長のオルフェレウスじゃ。みな、号外は見たかの? 号外の通り、我々は危険な状態にある。実を言うと既に国境沿いで小競り合いがおこっているのじゃ。そこで、授業を中止し、戦闘訓練をしばらく行うことになった。高等部の生徒は魔力演習場に向かうように」
「オルフェレウス! 小競り合いが起きているとはどういうことかしら?」
「これは姫様。ユーミール小国連合、ガリア皇国との国境付近に展開していた帝国10騎士の二人が率いる部隊が戦闘に突入したようです」
「そう。でも、帝国10騎士が率いる部隊なら安心ね」
「そうだといいが......」
もし、彼らが古代の技を知っていたとしたら、クリルでの戦いの様に一方的にやられそうな気がする。
「イツキ、どうしたの?」
「もしユーミールとガリアがニールたちの様に古代の技を知っていたらと思ってな」
「大丈夫よ! 帝国10騎士は前の私くらいの魔力を持っているし。それに、10騎士はこの大陸で間違いなく最強の10人よ!」
リリーはそういうが、ニールたちの様に魔力が高い、10騎士並みの魔力を持つラムース人がいてもおかしくはないだろう。そして、もし競り合いで負け帝国10騎士まで失ったらこちらは大劣勢だ。可能性の話だが、そういうこともあり得る。だとしたら、俺たちで今からA組の生徒だけでも技を教えたほうがいいだろう。
「リリー。せめて俺たちでA組の生徒に古代の技を教えないか?」
「そうね。イツキが言うんだもの。何か考えがあってのことでしょうし!」
リリーは深刻な表情を一変し微笑む。
「オルフェレウス。私たちはユニ先生の指導により以前より格段につよくなったわ。おそらく、古代の技を完璧に覚えると魔力が上がるからだと思う。念には念をということで、A組の生徒は私たちが指導してもいいかしら?」
「姫様がそう仰るのなら。それにしても以前と比較して姫様は大分変られた」
オルフェレウスはそういうと白い髭を撫でながらホッホッホとサンタのコスチュームを着せれば本物だと100人中100人が信じるほどの顔で言っていた。
「そうね! 私はイツキのおかげで素の自分でいられることができたの!」
「そうですか! 昔の姫様を見ているようで嬉しい限りです」
「ありがとうオルフェレウス」
「姫様をずっと見ていましたからな。それより、そろそろ演習場に行かないといけませんぞ」
「わかったわ! オルフェレウスまた今度ね」
オルフェレウス院長と別れると、遅刻しそうな俺たちは演習場に足早に向かっている。
「それにしてもリリーとオルフェレウス院長は仲がよさそうだな」
「オルフェレウスは昔、私の専属家庭教師をしていたの」
なるほど。道理で久しぶりに会った小学からの友人みたいな感じを醸し出していたわけだ。
足早に演習場に向かったおかげで遅刻することなくついた俺たちは全生徒の前に立っていた。
「聞いてくれ! 今からA組の生徒は学年問わず俺たちのところに集合してくれ」
俺がそういうとA組の生徒たちはぞくぞく俺たちの前に姿を現す。
「希代の天才くんじゃないか。俺たちに何の用だ」
3年生だろうか、リーダーのような風貌をした男は俺に話しかけていた。
すると銀色に輝く髪の女性がこちらに向かいながら話している。会長だ。
「なんとなくわかったわ! 後は私がこの子たちに説明するから」
会長は俺とテレパシーしたかのように察すると、A組の生徒に事情を説明しだした。流石はエル会長だ。アムステリアの会長を務めているだけある。
「なるほどな...... じゃあ、俺たちA組の生徒は別行動でその古代の技というのを覚えればいいんだな」
「そうなるかしら」
会長はそういうと今度は髪をかきあげながら俺たちのほうに向きなおった。
「A組全生徒で75人いるわ。単純計算だと75÷6で一人12人受け持つことになるけど、それだと効率が話あるいから、ルルとイツキは3年生を担当で、イリアとリリーは2年生を担当で、私たちは1年生を担当するわ」
会長の指示に俺たちは頷くとそれぞれの担当する学年に向かって行った。
「ルル? 一人で教えることはできるか?」
「な、なんとか頑張ります......」
ルルは極度の人見知りだ。うまくコミュニケーションをとってくれるといいのだが。せめてルルの相手は女子生徒オンリーにするか。
「俺は男子を担当するから、ルルは女子生徒の特訓をお願いできないか?」
「だ、大丈夫です...... ありがとうございます」
俺が思った通り男子生徒相手のほうが苦手らしい。提案してよかった。
そうと決まれば、早速特訓を開始したほうがいいだろう。なにせ12人の生徒に対して教えるのは1人だけだからだ。ユニ先生との特訓ではおおよそ2か月間もかかった。ということは、全部教え終わる頃には秋も深まっているだろう。
「男子生徒は俺が担当するのでこちらに、女子生徒はここにいる金髪の女の子が担当するのでそちらに集まってください」
こうして3年生の特訓は始まった。




