第三話 振分け試験1
時刻は4月6日20時。適性試験が終わった後から明日の入学式までしばしの休みがあり、俺は自室で文字の読み書きを習っていたが、どうやら、俺には特殊な能力があるらしい。それはアムステリア語を既に習得していたことに関係ある。言語を五感を使って覚えずとも習得できるのだ。謎の光に当たったせいだろう。そう思いながらリンゴをかじっていると、扉からコンコンとノックの音がした。
「わたしだよ。」
扉の向こう側から優しい声が聞こえてきた。間違いないリリーだ。
俺はドアの施錠を外し中に入れた。
「いよいよ明日出発ね! 二人で行くのは楽しみだわ!」
彼女はそうにっこり笑いながら言ってきたのでそうだねと返す。明日はアムステリア学院の入学式がある。
「イツキのことだから忘れてると思って!」
「大丈夫さ、もう準備も終わっているよ」
俺はそういうと、
「そう、ならいいけど! おやすみ!」
彼女はそう言って部屋を出て行った。リリーがあんなに嬉しそうに話してる姿を見て、俺も幸せな気分になった。それに、リリーは学校が好きに違いない。俺はそう思っていた。
朝になり順調に俺たちは学院につき、広々とした学院のホールの中で始業式を受けていた。オルフェレウス院長の挨拶を聞き、閉式になろうかと思ったその直後
「ではこれから、君たちは寮に戻り荷物を片付けたものから、魔力演習場にあつまるんじゃ。以上じゃ」
オルフェレウス院長はそういうと、始業式は終わった。俺はその言葉を聞いて不安で頭が吹き飛びそうになった。そんな様子を気になってかリリーが話しかけてきた。
「どうしたの? イツキ?」
「なあ、リリー。魔力演習場では戦うのか?」
もしそうなれば何の経験もない俺はただの雑魚だ!そう思っていると
「ええ、そうよ。この後魔力演習場で振り分け試験があるの」
振分け試験とは実力主義であるアムステリア学院で独自のシステムで
A組からD組まで能力別で組みが振り分けられる試験であり、二日間によって行われ、全校生徒が1人が5戦行うものらしい。
そう聞かされた俺は眩暈がした。非常にまずい事態だ。だが、魔力が多い俺なら何とかなるかもしれない。そう思い寮へと向かうことにした。
リリーと二人で魔力演習場に向かうと、どうやら武道場と呼んでいたものが魔力演習場だったらしい。その外観は人が数万人入りそうな規模で、サッカーコートのゴールをなくしたようなものだった。そのスケールの大きさに驚いている中、先生方により暫定順位が1から101まで振り分けられていく。俺は転学したから、予想順位だが、リリーたちは1年生の時の順位をそのまま受け継ぐみたいだ。そんなことを考えていると
「では、これより振り分け試験始めるぞー!! では第68位イツキvs第45位バーグ」
男の教員の声がし、演習場は緊張に包まれる。
相手はアムステリア学院に来るほどのものだ。魔素も高ければ幼い時から経験を積んできてるのだろう。そんな相手に対し俺は武道の経験もなければ魔素もわからないし使い方すらわからないのだ。
改めて、緊張が襲い、汗が額から零れ落ちる。時は残酷に開始の合図を知らせた。
俺は覚悟を決めて武道場の中央に行くことにした。
「では、これより第一試合を始める。お互い握手をしたら試合開始だ」
そう言って教員は中央から去っていた。落ち着くんだ。俺には4万もの魔素がある、どうにかして技を出せるかもしれない。そう思いバーグと握手を交わす。バーグも真剣そのものの表情でこちらを見ていた。そうして試合が始まる。
お互い手探りのように見つめあう状態がもう何分続いただろうか。考えてても仕方がない。俺は技が出るように手のひらを広げ、前方に突き出していた
「ふっ!!」
場内に緊張が走る、それを見ていたバーグも緊張していた。
しかし、技は出なかった。そう、出なかったのだ。
場内からはくすくすというように笑いが起こり
それを見ていたバーグは血管を皮膚の上からでも確認できるような形で顔を赤らめ
「貴様! 舐めているのか!!! 」
もちろん舐めてなどいない、しかし、バーグはそうは思わないらしい
「そうかああああああ舐めているんだなあああ許さん!」
そう激怒したバーグは
「大地よ、我に力を与えたまえ!! 土槍」
そうバーグが唱えると土でできたスピアが目の前に30本現れた。
「どうだ! この土属性! さあ、我の渾身の一撃うけてみよ!!」
そういうとスピアが驚くほどのスピードでこちらに向かってきた。ああ、俺は死ぬ。確実に死ぬ。
そう思った。なにせこの土でできたスピアを一目見ただけでわかった。
先端は鋭く、金属よりもおそらくかたいだろう。これが魔素の力なのか。
そう思った時、
「風よ」
オルフェレウスが唱えた瞬間、俺の前に風の盾が現れた。
ああ、助かった、俺は心の底からそう思った。続けてオルフェレウスは
「えー、イツキ テンマ君は入学したばかりで魔素が使えないのじゃ、ので振り分け試験は免除しD組とする。」
オルフェレウスがそういうと会場がざわめいた。
「魔素が使えない!? そんな馬鹿な? そんな奴いるか普通?」
「てかー、いたとしてもぉー、なんで名門のうちにいるわけぇー」
「魔素使えないんだってあいつ! ゴブリンでさえ使えそうなのに」
色々な声が聞こえてきた。俺はわざとらしく聞こえてきたその言葉にただただ唇をかむだけであった。彼らの言うことはもっともだ。俺は元はといえばただの高校生だし、その中でも成績、武術に優れてるかといえばそうでもない。ただただ時間を惰性に使ってきただけだ。そんな俺に何ができようか。呆然と立ち尽くしていると。
「それでも貴様らは騎士の見習いか! この学院にいる以上優れた能力があると認められているはずだ」
リリーが怒った顔で演習場の観客席から声を大にして叫んでいた。場内は一気に静まり返る。ああ、俺はリリーに助けてもらってばかりだな。申し訳ない気持ちとありがとうという感謝の気持ちを抱き俺は演習場を去った。
何時間がたっただろうか時刻は19時である。あれから、6時間ばかり振り分け試験が行われた。そして、それは明日もある。行きたくない。見たくない。俺は遠い地で何をやっているのだろうか。そう思っていると後ろからコツコツコツと足音が聞こえてきた。振り返るとそこにはリリーがいた。彼女は俺の横にゆっくりと座りながら
「気にすることないよ! イツキは異世界から来たんだし! それに魔素がいつ使えるかなんてどうでもいいじゃない!」
「古代アムステリアの騎士アカギは発現を20歳でできたのよ!
それにイツキは潜在能力最強じゃない。すぐに強くなるわ!」
俺のことをいたわって声をかけてきたのだろうか。リリーはとても優しく強くていい子だ。
俺はそんなリリーが異世界で友達にいる。少し頑張ってみよう。そう思えた。
「ありがとうな! リリー。励ましに来てくれたのか」
「当たり前じゃない!! と、友達が困ってるときに助けるのは当然だわ!」
リリーは恥ずかしいのか顔を赤くしながら言った。俺にはこの世界でこんなにも頼りがいのある可愛い友達がいる。ここで落ち込んでる場合じゃない。
そう思った俺はリリーと二人でリリーの持ってきてくれた自家製ティーを飲みながら寮へと向かった。