第二十九話 夏休み3
「おはよう! イツキ!」
「おはよう...... 二人とも早いんだな」
「ああ、昨日は疲れてたのかぐっすりだ。それにしても、顔色が悪いようだが、大丈夫か?」
どうやら二人はこんなにも近くで寝ていたというのに快眠だったようだ。俺はというと、あれから快眠できるはずもなく、あまり寝ていない。女子二人が隣で寝ているのに快眠できる人がいれば教えてほしい。
「ああ、大丈夫だ。 ちょっと、な......」
「そうか。もし体調が悪いときは、私たちが会長たちの訓練をするから気にせず休め」
そうだ。今日から夏休みが終わるまで急きょ会長たちの訓練をすることになったのだ。3人とも俺よりはるかに基礎はできているはずだし、教える俺たちも3人いる。俺たちがユニ先生から教わった期間より早く覚えられるだろう。だが、寝不足程度で休むわけにはいかない。
「ああ、ありがとうな」
俺がそういうと、リリーたちは俺をテーブルへと誘う。
「じゃーん!! 手作り朝食です! 今日のメニューはパンに、キノコのシチュー。それにサラダよ」
相変わらずこの二人の料理のスキルはプロ級だ。テーブルにある美味しそうなキノコシチューからはキノコと鶏肉の美味しそうな匂いが俺の嗅覚を刺激する。それに、パンも手作りらしく、カリカリで少し焦げた匂いは俺が寝不足であることを忘れさせてくれる。
俺は「ありがとう!」といい獣が肉に食らいつくようにイスに座り、スプーンでシチューをすくう。
「これは!! うまい!!」
匂いからも美味である情報は伝わってきてたが、舌にのせるとさらに美味しさが伝わってきた。キノコの風味に感触、鶏肉のジューシーさ、それにそれらを優しく合わせるシチューのソース。
はっきり言おう。生きてきた中で最高のシチューだ。
「そ、そうか! 喜んでくれたなら作ったかいがあるものだ!」
イリアはそういうと、嬉しそうに笑っている。
俺はすぐに料理を平らげると、リリー達にご馳走様でしたと告げた。
二人の料理を食べ終わった俺たちは待ち合わせの時間になると、コテージを出て少し歩いたところにある草原に来ていた。夏だというのに涼しい風が吹くこの場所、特訓にはうってつけの場所だろう。
「イツキにリリーにイリア、おはよう。早速だが訓練を始めてもいいか?」
ロドリゴ先輩は俺たちがつくとすぐに俺たちに特訓をお願いしていた。
俺たちは頷き「もちろんです!」という。
昨夜話し合って担当する人物を決めていた俺たちはそれぞれの人物のもとに向かっている。
俺はというと「男同士のほうがいいでしょ」というリリーたちの意見でロドリゴ先輩の担当になったのでロドリゴ先輩のところに向かっている。
「ロドリゴ先輩、よろしくお願いします」
「ああ、頼む」
「では、始めます。 古代の技には光と闇の2種類があるんです。ロドリゴ先輩はどっちでしたっけ?」
「俺は闇のほうだ」
「そうですか。なら、最初に闇の魔素を身に纏って簡単な技から練習していきましょう!」
俺はロドリゴ先輩に初歩的な付与 暗黒力を教える。すると、基礎ができているのか30分ほどでできるようになっていた。流石はロドリゴ先輩だ。学年2位だけあってすぐに技を覚えている。流石だが、ちょっと悔しいな。うん。俺はこの技を覚えるのに数時間かかった気がする。
「じゃあ、次は予知を教えますね」
「ああ、頼む」
そうやって、数週間に亘って特訓した。会長たちは元々高い能力を持っている上に、頑張り屋だったので予定していたより早く技を覚えることができていた。
「これで、俺たちが知ってる古代の技はすべてです」
「そうなのね。なぜかしら魔力が高まった気がするわ」
「これは推測ですが、古代の技を習得すると魔力が高まるのだと思います」
「なるほどね...... 私たちが教わったことを他の生徒や騎士達に伝えることができれば、天使や悪魔に対抗できそうだし、この特訓は強力な対抗手段になりそうね」
会長の言う通り魔力も技も強化されれば、弱い悪魔や天使ならば倒せるだろう。だが、問題は上級の存在だ。彼らの実力は未知数だから、できるだけ数多くの騎士達に技を伝授しなければならないが、教えるだけの時間が果たして残っているのだろうか。
俺たちが考え込んでいるとロドリゴ先輩は
「まぁ、今考えても仕方がないことだろう。それより、夏休みもあと残り少ない。明日には出発しよう」
「ロドリゴもたまにはいいこと言うじゃない! 皆! 明日出発するから用意しておいてね。じゃあ、今日は訓練終了! 各自自由にすごしなさい!」
会長はそういうと、コテージとは逆方向に向かって歩き出した。
ここ最近特訓ばかりで遊んでいなかったし、今日は久しぶりにゆっくりしよう。俺はそう思いコテージに向かった。




