第二十一話 古代の神殿
「うっ......頭が痛いわ......昨日飲みすぎちゃったようね」
「私も頭痛が......」
「昨日あれだけ飲んだんだ。二日酔いにもなるさ」
そういうと、申し訳なさそうに俯いている。そんな俺たちはクリルの街から数時間馬車を走らせたところにある洞窟に来ている。ここまで来るのには森の中に入り険しい道を行き、なかなかに大変だった。
「それより、この洞窟。自然に形成されたというより、人工的な洞窟みたいです」
「そうね、形が整いすぎてるわね。それに奥のほうに扉があるし。ここは何らかの施設なのかしら」
前方をみると確かに扉がある。そして、それは以前魔力強化の授業を受けているときに見た天使の扉のようだった。ということは、この扉付近に手形がついている石板があるははずだ。
俺たちは扉付近を捜すとそれはすぐに見つかった。
「これが前にイツキが見た天使の石板ね。どうやって動くのかしら」
「俺もわからないが、光の魔素を発現させて、手に集中されるとおそらく開くはずだ」
俺は意識を集中させ光の魔素を身にまとう。それを手に集中させて......
「どうしたイツキ? 動かないじゃないか」
以前、天使はこの方法で動かしていたはずだ。しかし、その扉はいくら魔力を込めても動かなかった。天使じゃなかったら動かせないのか。いや、だとしたら人間である俺の力では動かせないはずだ。
ということは、光じゃなく闇の、悪魔の神殿なのかもしれない。
俺は石板に近づき意識を集中させ闇の魔素を身にまとう。そして同じように集中させる......
すると、ゴゴゴゴゴゴ 大きな音をたてながら鉄でも木でもない見たこともない扉は上にスライドしていく。中に入れば何があるかわからない。俺たちは互いに頷くと中に入っていく。
中に入ると想像していた神殿とは違い、ある種の集合住居のようだった。中にはいくつもの扉があり、ベッドやイス、テーブルといったものから、キッチンのような場所もある。おそらくは、3000年前にここに住んでいたのだろう。
「すごいわねこの施設、3000年も前の施設なのにまるで壊れる様子がないわ。それに入った瞬間、明かりがともされるなんてとてつもない装置ね」
「たしかにそうですね。それに中はとてつもなく広い」
リリーとイリアが言う通り、3000年前に生き物がこの施設から一瞬で消えたようにきれいに保たれていた。
そんなこの施設は綺麗な廃墟のようで、少し怖い。幽霊が出るとかそういう怖さではなく、無機質な物に囲まれたこの空間に3人だけが存在する、何とも言えない人工的な感じが怖さの原因だろう。
俺たちはそんな施設の中心通路をゆっくりと歩いていく。
すると前方に真っ黒で巨大な扉が見えた。
「ここにミラニド教の信徒がいるはずね」
俺たちは全員頷き扉を開け入ると、何やら石板を読んでいる年寄の男と黒ずくめの信徒が数人研究をしていた。
「おや? ここに入れるとはとてつもない魔力をお持ちの方々ですね。私はラムース帝国から来ました。ザイードと申します。ところで、ご用件はなんでしょうか。粗方、私たちの調査でしょうか」
「その通りだ。貴様らラームス人が邪教であるミラニド教をこの地に広めている理由をしりたくてな」
イリアは忌々しそうにそういう。
「ふむ。私たちの目的は石板の研究と神々との交信です。私たちの大陸では気候が変動したこともあり飢えなどに苦しんでいました。どうにかしようと先代ラムース皇帝が遺跡の調査に乗り出したのです。すると、光と闇の強い魔力を持つものが遺跡を開けることができることが分かったのです。それからは、古代の石板を調べ古代の技や神々がいることが分かった。神々の施設のおかげで飢えを軽減できた我々は再び彼らを信仰しようとしたのです」
「そうだとしても、ミラニド教で信じられている神は俺たち人間を使って代理戦争をしていたんだぞ。そんな神々をまた信じようとするわけか」
「そうよ! 天使と悪魔は私たちを利用し互いに殺させてたのよ! 再び目覚めさせては大変なことになるわ」
「そう言われましても、私たちラムース人には彼らの力が必要なのです。痩せた大地では民衆を飢えさせてしまう。神々なら何かいい方法を知っているかもしれません」
俺たちはザイードの言葉に反論できなかった。
「で、でも!! アムステリア大陸の、それもアムステリア帝国にミラニド教を広めるのは何のためなの! 私たちの許可もとらないで。これは戦争行為よ!」
「それに関しては領主と、他の国にお聞きください。我々の目的はあくまで遺跡の調査でここにきているのです」
ぐぬぬと悔しそうに下唇を噛みながら睨みつけているリリーとイリア。たしかにザイードと口喧嘩をしたって何年かけても勝てなさそうだ。
「さて、私も質問していいですかな。この居住区に入ったということは高い魔力をお持ちのはず、我々に協力してはいただけないでしょうかな」
たしかに俺たちは全員優れた魔力を持っているが、あの神々を信用している奴らに手を貸すわけがない。
「断る」
「そうですか。それは残念です。皆さん死なない程度にお願いしますよ」
そういうと黒ずくめの信徒数人はこちらに向き直り、フードをあげる。
「アムステリア帝国魔力大会以来だな。イツキ。もう一度真剣勝負をしたいところだが、状況が状況だ。悪いが、素直に降参してくれ」
そこに現れたのは青髪のつんつんヘアーの男、ニールだった。




