第二十話 クリルの街
野宿をしてから数時間が経過し、俺たちは今クリルの街にいる。アムステリアの街よりは規模も小さく、街の様子も大分違っている。アムステリアでは白いレンガで作られた高級そうな見た目の街が続いていたが、ここクリルの街では木造建築が多く、なんだか安心するような街づくりだ。違いはまだあり、この街は景気が悪いのか、裏路地にいくと露店が多くみられ、その通りを通る人々の服装はあまりいいものではなかった。
「どこで情報収集をすればいいのかしら。適当に通りの人に聞いてみるべきかな?」
「いや、こういう世界で情報収集といえば、酒場が定番だ。酒場に行ってみないか」
「こういう世界でというのは、よくわからないが、酒場は古くから戦士の憩いの場だ。行ってみましょう」
酒場といえば、歴戦の猛者たちが、夜な夜な癒しを求めに来る場所だろう。少なくとも俺の頭の中にある酒場のイメージはそれだ。俺はエールを飲んだ時のことを思い出す。麦の香りに、少しの苦み。そして、後々やってくる炭酸ののど越し。初めて飲んだエールは想像していたビールよりうまかった。エールも飲めることだし、行かない理由はない。
俺たちは通りを歩いていると、少し混んでいるお店を見つけた。そこは昼間だというのに看板が様々な色でライトアップされていて、窓越しから見るとこれまた昼間なのに賑わっていた。ここが、俺たちの探し求めていた場所だろう。俺たちは頷きながらその店に入る。
「いらっしゃいにゃ~。カウンターにしますかにゃ、テーブル席にしますかにゃ?」
店に入ると猫耳にしっぽを付けたウエイトレスの女性が話しかけていた。どうやら、この世界には亜人がいるらしい。周囲を見渡すと色々な生き物の耳やしっぽを持つ人間がそこにはいた。
「カウンターでお願いします。少し聞きたいことがあって」
「かしこまりましたにゃ!」
そういうと、俺たちを猫耳娘はカウンター席に案内する。横目でみるとリリーとイリアはなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「具合でも悪いのか?」
「ち、違うわよ! この店、少し露出が多いと思って。そ、それに猫の耳もつけているし......」
「ああ、そうだ。辺りを見渡してみろ。私たちのような女性客はあまりいないじゃないか」
俺はそう言われて周りを見渡すと、確かに女性客は少なかった。
「猫耳はつけているんじゃなくて、亜人じゃないのか?」
「イツキのいた世界ではいたのかもしれないが、イースにはそんな種族は存在しない」
なるほど。ということは、この店はいわゆる、メイドカフェにキャバクラを足したような店のようだ。どの世界にもこういうお店があるもんだなと感心していると
「お待たせいたしました。 お飲み物は何になされますか? それと、聞きたい情報とはなんでしょうか?」
この店のオーナーだろうか。さっきの猫耳女子たちとは対称的に執事のような服装をしている。
「エールとワインをお願いします。聞きたい情報は、この街ではミラニド教が流行っているらしいですけど、いつから始まったのですか?」
「ミラニド教のお話ですか。ミラニド教はこの地方の領主、ペラー様がこの地方の国教的なものにしたのが始まりです。ですが、なぜ急に邪教と呼ばれるミラニド教の教えを受け入れたのかはわかりません。噂はありますが......」
マスターがそういうと、俺たちの隣に座っていた体格のいい禿げた中年の男が話しかけてきた。その目は女性であるリリーとイリアが珍しいのか、妙にじろじろと見ている。
「その噂というのはな。この地方は元々ラムースとの貿易で成り立っていた街だったんだ。だが、ラムースとの戦争により貿易は止まり、この街の人口と富は減る一方だった。だから、おそらく金が絡んでいると噂されているんだ。それに加えて、今の皇帝の権力は弱まる一方だしな」
「ということはこの街では昔からミラニド教が流行っているということか?」
綺麗な黒髪を揺らしながらイリアはそういう。
「中にはいるかもしれねぇが、大半のやつらは信じてねぇだろうよ。おめぇらがなんでミラニド教を追っているかは聞かねぇ。でも、教えてやる。この間酒場にいた男が話していたんだ。あいつらは古代の石板を追っているらしく、この近くにある洞窟にいるって話だ。ほら、ここの辺りだ」
おっさんはそういうと、地図を書きだした。最初は怖い人かと思ったが意外にも優しい。俺はおっさんに「ありがとう」と伝えリリー達をみると、いつの間にかカウンターの上にはジョッキが10個置いてあった。それを見てた中年のおやじもガハハハッと大声を出して笑っていた。
「イリア、リリー。情報も聞き出したし、宿にかえろう」
「いやだ! 私はまだ飲むわ!」
「そうです! 私たちはまだ飲み足りないのです! それにいざという時はイツキがいるでしょう」
そういうと、追加でさらにエールを注文する。どうやら、飽きるまで付き合うしかないようだ。俺も追加でエールを頼む。こうなったら、とことん付き合うしかないだろう。俺たちは話しながら酒を飲んだ。
そんなこんなで、周りを見渡すとお客の数は少なくなっていた。もう深夜に近い。さすがに、このままだと危険なので千鳥足の二人を介抱しながら宿に向かう。
ふらふらの二人は呂律が回らなく、ふにゃふにゃな言葉で俺に話しかけてくる。どうやら、酔うと甘えるタイプのようだ。俺は二人の話を聞いていると前から、大柄の男がこちらに近づいてくる。
「ほぉー、いい女連れてるじゃねーか。なぁ、この酒とその女ども交換しねぇーか」
「そんなことを言われて、『はい』とでも言うと思ったのか。早く目の前から消えるんだな」
「はぁ、命がもったいねぇーなぁ。俺様にたてつくとはよぉ。お前みたいな田舎の学生になにができるんだよ! 風よ、力をかせぇ! 風矢」
男は風矢を頭上に100本出現させていた。たしかに魔力も高いしそれなりの学院は出たのだろう。だが、この数か月間で俺は格段に成長した。この程度の攻撃大したことはない。
「光よ、力を貸してくれ!! 天光!」
俺がそう詠唱すると、目の前に光の直線的な棒が出現する。光は秒速30万kmだ。俺が前方に技を出せばこの男の体を貫通するだろう。それに、この男程度ならば今の俺の技を止められることはできないはずだ。しかし、流石に殺してしまうのはまずい。俺は男の数m左に天光!を放つ。
「お、おまえ今なにを!! まさか、お前、アムステリアから来たのか!! ゆ、許してくれ! すぐにいなくなるからよ!」
男はそういうと、物凄い勢いで走り去っていた。
よかった。俺は二人を守ることができたらしい。そんな二人は何が起こったのかわかっていないのか、きょとんとした表情で俺を見ている。
また絡まれても大変だ。俺は二人を介抱しながら、足早に宿へと向かった。




