第二話 適性試験
目覚めると時刻は8時を指していた。そういえば、今日は姫様がメイドをよこすと言っていた。
胸の高まりとともに身支度をすませベッドの上で緊張した様子でまっていると
扉の向こう側から女性の声が聞こえてきた。
「おはようございます。姫様がおよびです。」
俺は胸が高まるのを抑えるため深呼吸をし、ドアを開けた。
コンコン。
「入れ」
艶やかでありながら威厳のある声が扉越しから聞こえてきた。ドアを開けるとそこには昨日と変わらない、そう、異世界に降り立ったあの日と変わらない姿が見えた。俺はテーブルをはさんで赤と金の布が覆いかぶされたソファーの下座に座ると
「昨日の話は覚えているか? おぬしはアムステリア学院に適正試験を受け入学してもらう」
姫はティーカップでお茶を飲みながらそう言った。聞けば、アムステリア大陸には魔素を使い剣士や魔法使いになるための育成校が存在するらしい。そして、ここアムステリア大陸アムステリア帝国屈指の実力を誇るのがアムステリア学院らしい。適性試験というのだから魔素を調べたりするのだろう。はたして、異世界から来た俺にそんな能力など存在するのかと思っていると
「安心しろ。人に準ずるものならば魔素を扱える」
どこか誇らしげにそういった。
「でも、俺は異世界から来たのですよ?」
そういうと、
「人には魔素を扱うための第六感が備わっていて、それを魔感と呼ぶ。それが空間内の魔素を操ることができるのだ」
なるほど、その魔感というものが空間内の魔素を感じ取り操れるということか。
そう言われたものの、異世界の住民である俺が本当に魔力を保有しているのか心配だ。
「まぁ、実際に見たほうがはやい。テーブルの上におぬしの制服がある。着替えたら教えてくれ」
彼女はそう言うと部屋を出て行った。なんだか、強引な人だと思いながら考えても仕方がないと自分を鼓舞し、制服に着替え、まるで戦場にまるごしで行く兵士のように俺は部屋を出た。
部屋を出てから1時間ほどだろうか。馬車はアムステリアの都を少し離れた丘の上にある立派な建物が連なる前で止まった。馬車の前には学院の院長と思わしき白いひげ白い頭の老人が立っており、リリー姫が馬車から出るとお辞儀をし何やら話し込んでいた。話が終わったのか初老の老人はこちらに近づくと
「わしはこの学院の院長であるオルフェレウスじゃ。時間がないんじゃ。すまんが早速適性試験を受けてもらいたい」
そう言って俺を足早に武道場らしき場所へと連れていく。道中きけば、学院の編入試験は3月にあるらしい。つまり、俺は裏口ということになる。知られないようにしなければなんてことを思っているとオルフェレウスは地面に六角形の術式のようなものを書き始めた。時間がたつに従ってそれは光を帯び大柄の人が入っても大丈夫のような光の空間になっていた。
「さあ、ここにはいるのじゃ。」
そう言われ、恐る恐る入る。中に入るとひんやりとした空気が流れてきたかと思えばあたたかな光に包まれる感覚に襲われた。しばらくすると、前方からあの日、転移する前に見た何色にも輝く光が見えた。それは次第に消え去ると
「もう外に出ていいぞ」
光の壁の向こう側から年老いた声が聞こえてきて、俺は外へ出た。
「何が見えたのじゃ?」
オルフェレウスが問いかけてきた。
「光が見えました。何色にも輝く光が」
そういうと、オルフェレウスは困った顔をし首をかしげながら
「わからんのぉ。魔素には火、風、水、土、闇、光と6つの要素がある。いずれも目の前にその光景が現れるのじゃが、光が現れるときその色は黄色なんじゃ」
何れ勉学に励めばわかるだろう。オルフェレウスはそう言って学院の魔力探知室へと俺を連れて行った。そこには魔道具らしきものがたくさんあり、目を輝かせていると
「魔力はその属性の力をしらべるものじゃ、その術式が入った入れ物の中に手を入れることで数値で魔力がわかるのじゃ」
そういうとオルフェレウスは手で指さしながらやれというように首を傾けた。さっきと同じように恐る恐る手を入れると術式がひかり輝き入れ物の前の数値がみるみる変わっていく。その光景を見ていたオルフェレウスは茫然とした顔で立ち尽くしている。
「ばかな...」
そう言ってオルフェレスは数値を見ろと指をさす。そこには40000という数値が書かれていた。
俺は何に驚いているのかわからず数分突っ立っているとオルフェレウスはまるで神話に出てくる神を見てるかのような顔で話し始めた。皇帝の血を引くリリー姫でも20000前後だということ、この世界の魔力は主に階級できまってるということ、たまに突出して高い魔力を持つ子供が生まれることもあるということ。
それを聞いた俺は嬉しさのあまりガッツポーズをしていた。まさか異世界に来れて、さらに、俺はアニメのような凄まじい能力がある。そんな感極まってる俺を横目にオルフェレウスは
「魔力はすさまじいが肝心の魔素がわからんのぉ。後になって発現することもある。とにかく適性試験は終了じゃ。おぬしは未熟じゃが、潜在能力を加味し合格とする」
そういうと、急いでいるのか足早に部屋を去った。
適性試験も終わり、時刻は12時をちょうど回ったころ。アムステリア市街に戻った俺と姫様は昼食をとるべく店に立ち寄った。
メニューを見ると色々な料理がある。ハンバーガーにワイン、エールにステーキ(ゴブリン)
何かがおかしい。俺は見間違いか確かめるために再びメニュー表をみた。
間違ってなどいなかった。そこには堂々とゴブリンと書かれていた。
一体だれがゴブリンのステーキをたべるのだろうか。
「私は無難にハンバーガーにしよう。おぬしは何にするのだ」
「じゃあ、俺も同じものでお願いします」
「うむ。わかった」
そういうと姫様は近くにいた騎士に店員を呼びに行かせる。姫様の力なのだろうか、店員はすぐに俺たちの前に来て、注文を取り始めた。
「おっと忘れてた エールを2つ頼む」
「かしこまりました。では、すぐにお持ちいたします」
店員は深々とお辞儀をすると足早に厨房のほうに去っていった。
いやまて、エールを二つと姫様は言ったが、俺は未成年だし酒は飲めない。
「姫様はエールといいましたが、まだ未成年ですよ! 飲んでいいのでしょうか?」
「何を言っているのだ。この国の成人は15歳からだ」
俺は異世界にいることを忘れていた。どうやら、この国では15歳でエールを飲むことは普通の事らしい。
「お待たせいたしました」
そういうと女性店員は俺たちの前に料理やエールを運ぶ。これがエールというものか。果たしてどんな味なのだろうか。
「適性試験の合格とおぬしの潜在能力に」
俺たちはお互いの樽でできたジョッキを上に掲げ、飲み始めた。
エールそれは決してまずくはなかった。それどころかとても美味しかった。
フルーティーな香りと苦みを堪能していると
「適性試験の結果聞いたぞ! おぬしとんでもない力を秘めてそうだな! 将来はこの国の騎士にでもならんか!」
そう冗談っぽく笑いながら話しかけてきた。
「ありがとうございます..」
それから何時間がたったのだろうか、俺たちはその間、酒のおかげもあり会話が途切れることなく話していた。
「学院の同級生にもなることだし、敬語はやめぬか!
おっと、すまない私もだな」
そういうと、可愛く咳払いし、あ! あ! とマイクをチェックするかのようにし始めたと思うと、俯き、少し赤くなった表情をしながら
「こ、これから、よろしくね!」
さっきまでとはだいぶ違う声色が聞こえてきて驚いたが、正直言ってめちゃくちゃかわいい。ドストレートだ。リリーの素の顔がまさかかわいい系だったなんて。距離がぐっと近くなったように感じた俺は嬉しさのあまり
「こ、こちらこそ、よろしく!」
少し噛みながら言った。