第十七話 サプライズ!!
ここはどこだろうか。
気が付くと俺はどうやらベッドの上で寝ていたらしく、辺りを見渡すと白いカーテンで仕切られている。体を動かそうとするが、しばらく眠っていたからだろうか思うように動いてくれない。かすむ目でカーテンをくまなく確認していると、ヒールで歩く音が聞こえてきて音のほうを見ると人影が見える。
どうやらまだ俺はあの世にいるわけではないらしい。そうだとすれば、ここがどこかますます問題になる。俺はぼっーとする頭で寝ていた以前の記憶を思い出す。
「そうか!!」俺はおそらく青髪との試合に負けて、負傷してここに運び込まれたのだろう。だとすれば、学院の皆には申し訳ないことをした。そう思っていると突然白いカーテンが開けられ
「あら! イツキくん起きてたの! 起きてたなら声をかけてくれればよかったのにぃー!」
「すみません、まだちょっとぼっーとしていて」
「ちょっと待っててね! 今先生が容態を確認するからね」
アリア先生はそういうと、俺の体をくまなく確認する。
「傷もないようだし、気持ち悪いとか、吐きそうとかない?」
「いえ、大丈夫です! どれくらい寝ていたのか分からないですけどピンピンしてます」
いやまて。魔力大会から何日が経過したのだろうか。俺は冷や汗をかきながら考える。
もし、5月の25日を過ぎていたのならば、今まで準備してきたことが水の泡だ。
「今日って何月何日ですか!!!」
「どうしたのー、そんなに慌てちゃって。今日は5月25日の15時よ」
俺はアリア先生の言葉を聞くと、気抜けしたのか倒れそうになった。今日はリリーの誕生日だ。俺はリリーがみんなと仲良くなるために今まで準備してきたのだ。過ぎていたら自分を責めずにはいられなかっただろう。
「アリア先生、今日はリリーの誕生日なんです! どうしてもこれから準備をしなければいけないので、今から寮に戻ることはできないですか」
「うーん。そうだなー。よし、わかったわ!! 17時までゆっくりと休んだら戻っていいわよ!」
リリーの誕生会は夜の18時に始まる予定だ。17時にもどれるのならば、大丈夫だろう。俺はほっと一息をつく。17時までまだ時間がある。突然起きて体が驚いているから、17時までゆっくり体を休めておこう。
「わかりました。じゃあ、俺は17時まで体を休めてます」
そういうと、アリア先生は微笑むと仕事があるのか保健室を出て行った。
保健室をでた俺は寮へと続く道の中でリリーの誕生日サプライズ計画を再確認する。
今回の作戦を説明しよう。まず最初に俺とイリアで大ホールに連れ出す。それからは、大ホールでクラッカーが鳴り響きリリーを驚かせる作戦である。その後、イリアが雇った偽の暗殺者にこれまた偽の女子生徒を襲わせる作戦だ。
完璧な作戦だろう。俺はイリアと合流し、リリーの部屋をノックする。
「リリー! いるか?」
「姫様、いるでしょうか」
ドアがガチャっと開くと久しぶりに見た桃色が勝った金髪姿のリリーが現れた。
「どうしたの二人して? というか、イツキ起きたのね! よかったー! 心配したんだからね!! もう無理はしちゃだめだよ」
そうか、リリーは俺が起きたことをまだ知らなかったんだ。だが、今はそんなことを考えている場合ではない急がないと遅れてしまう。
「ああ、心配かけてごめんな。それで実はリリーに頼み事があるんだ。大ホールで立会人不在の決闘が行われようとしているんだ。だから、姫様であるリリーなら止めれると思って」
「そういうことね。わかったわ。いきましょう!!」
俺は怪しまれなかったことに心の中でほっと一息つき、リリー達と大ホールへと向かう。
「ここね。それで、どんな決闘が行われようとしてたのかしら」
「姫様。それは開けてからのお楽しみです」
リリーはお前は何を言っているんだと言いたげな表情で大ホールの扉をゆっくりと開ける。
すると、パパーン!!
「姫様!! お誕生日おめでとうございます!!」
大ホールの中を見ると沢山の生徒がリリーの誕生日を祝ってくれている。よかった、俺が寝ている間に用意してくれていたようだ。そこにはウエディングケーキほどの大きさのケーキや美味しそうな食事が用意されていた。
「みな、ありがとう。私は今年で17歳となる。これからもみなの手本となるような行動を行うつもりでいるので、諸君らもこの国のためにどうか私についてきてほしい」
リリーがそういうと、周りの生徒は深くお辞儀をしていた。
ここからが、俺とイリアだけが知る作戦のクライマックスだ。
俺はイリアのほうを向くと、軽く頷く。イリアは待ってましたとばかりに、頷き返す。
すると、大ホールのどこに隠れていたのか、偽の暗殺者が偽の女子生徒に襲い掛かる。
「動くな!! この女がどうなってもいいのか!! 俺の要求はか――」
やってしまった。俺はここがどこか完全に忘れていた。暗殺者は周囲の生徒に完膚なきまでに打ちのめされていた。イリアのほうを見るとハッとした表情で俺を見つめてくる。なぜこの学院の生徒は一流だったときづかなかったのだろうか。
もう、こうなったら俺が女子生徒を拘束するしか他に手はない。俺は女子生徒にウインクをすると、気づいてくれたのかリリーのほうに歩きだす。
俺はそっとこの場から離れ急いで寮へむかい変装をし、再度大ホールに向かう。
「頼むぞ! イリア、偽の女子生徒。何とか誤魔化してくれ!!」
急いで戻るとイリアはこっちを見てウインクしてくる。どうやら間に合ったらしい。俺は女子生徒に近づき後ろから拘束する。
「動くな!! この女がどうなってもいいのか!! 俺の要求はか――」
俺はリリーの詠唱によって吹き飛んだが、なぜか体が痛むことはなかった。リリーの視線を感じ俺はリリーを見ると俺をジト目で見ていた。まぁ、とりあえずは成功だ。大ホールを見ると歓声が沸き起こっている。
「姫様、どうかお礼をさせてください」
「気にするな。当然のことをしたまでだ」
「それでは、私とお友達になってはくれませんか」
「む、そ、それは、いいのだが」
女子生徒は大声でそう言ったが、恥ずかしいのかリリーは小さい声でそう言っていた。最終手段だ。俺は全生徒に向かって「リリーは本当はお前たちと友達になりたいんだ」と言った。顔を真っ赤に染め上げたリリーは俺をきっと睨んだが生徒に向き直り
「そ、そうよ!! 本当は、私はあなたたちと友達になりたかったのーー!!」
リリーはこう言うしかなかっただろう。「いや、違う」なんて言えるわけがないからな。全校生徒は驚いたのか一瞬ぽかんと口を開けた顔をしていたが、正気に返ったのか嬉しそうにリリーのもとに駆け寄っていた。元々全校生徒もリリーと友達になりたかったのだろう。
俺とイリアは互いに頷くとリリーに「誕生日おめでとう!!」という。
「イツキのばーか!! 暗殺者がイツキだってわかってたんだからね! でも、イツキもイリアもありがとう!! 今までで一番最高の誕生日よ!」
リリーは俺たちのほうを見るとそう言い、嬉しそうにみんなのほうに駆け寄っていった。
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