第十二話 総当たり戦1
イリアとの練習での出来事があってから、イリアは俺を見かけると恥ずかしそうに俺を避けていたが時間とは偉大だ。あれから5日がたち、もうすっかり元の様子に戻っていた。
「イツキ!おはよう!」
「おはよう。イツキ」
二人は朝なのに眠気を感じない爽やかな顔で俺に挨拶をしてきた。
二人がそういうと俺もおはようと返す。
「今日の総当たり戦、私たちは授業があるからいけないけど、イツキなら大丈夫だよ! 安心して私が保証するよ!」
「そうですね。姫様。イツキなら大丈夫だ」
俺の顔色がよほど悪かったのか、二人は励ましてくれていた。
俺はいつの間にか暗い顔をしていたらしい。二人に心配をかけてしまった。
俺は気を入れ直し、もうすぐ始まる総当たり戦に向けて意気込んだ。
俺はリリー達と別れた後、直行で魔力演習場に向かった。演習場につくとD組の皆は既にウォーミングアップを完了し緊張した表情でグランズ教諭が来るのを待っていた。緊張するのも無理もない、総当たり戦によってD組の序列が確定しその後の進路に大きく影響するのだから。魔力を学ぶ学校をでると色々な選択肢がある。騎士になる者、商人の護衛につくもの、中には一獲千金を狙いギルドに入る者もいるだろう。そういう色んな選択肢の中で、大半の生徒は、名誉を第一とし騎士を目指す。
騎士はそう簡単になれるものではなく、一番地位の低い地方騎士でも中堅の魔力学校を上位で出なければ、就職内定とはいかないだろう。
そんな中、屈指の実力を誇る我が学院の生徒は99%騎士になることができるだろうが、より上を目指すにはこの総当たり戦でD組上位に食い込み、やがては前期振り分け戦、後期振り分け戦でC組へとステップアップさせるのが最短だ。
だから、D組の生徒は皆緊張しているのだろう。リリーに聞いたのだが、A組は総当たり戦を行わず上位10名選出、アムステリア帝国魔力大会でそれぞれ1戦戦うB、C組は総当たり戦を行うようだ。道理でB、C組の生徒もいるわけだ。
A組がなぜ行わないのかというと、A組は戦っても実力がすでに分かっているし、これ以上上のクラスにはいけないので総当たり戦を行わないんだろう。
俺はどうかって?俺も当然のようにこの日を待ちわびていた。なんてったって異世界に来てまで普通の生活はしたくはない。それにAクラスにはリリーやイリナがいる。
そんなリリーやイリナがいるA組のエリートの上澄みの連中は25名で、彼らは最低でも上級中央騎士に、上澄みの連中は帝国近衛騎士になるだろう。C,D組は中央騎士になることだろう。
焦りながらもそんなことを考えながらウォーミングアップをし、終えた俺はグランズ教諭が来るのをみんなと一緒に待っている。誰も話さずにいるあまりにも緊張したこの空間に俺はすこし威圧される。
皆真剣そのものだが、ここまで緊張した状況に今まで陥ったことがない。いや、あるな。振り分け戦の時以来だ。あの時はなにもわからなかったからここまでの緊張はなかったが。
緊張した表情で待っていると
入口からコツコツと革靴が地面を踏みつける音が聞こえてくる。それは次第に大きくなり俺たちに近づくと中年のグランズ教諭の姿が見えた。グランズ教諭は今日もだるそうにポケットに手を突っ込みながら話し始めた。
「よーし、みんな揃ってるな。皆準備はいいか?」
グランズ教諭の言葉に皆頷く。
「それじゃ、これより総当たり戦を始める。最初はサミー vs ナッツゥ」
グランズ教諭がそういうと、二人は演習場中央に向かっていき、握手をし、試合が始まった。
どうやら、サミーは風魔素を使うらしい。サミーは足元に風魔素を集中させているのか空中に浮いていた。対して、ナッツゥ土槍を詠唱し10本の槍が頭上に出現する。
ナッツゥとサミーは何やら言い合ってたが聞こえない。
話が終わったのか、10本の槍はサミーめがけて一直線に向かっていく。
サミーは避けないのかそれをただじっと見つめていた。当たりそうなところまで近づくと風魔素の力で加速しながら上方に逃げ去っていた。とてつもない機動力だ。
上空に逃げたサミーはすぐに機動力を生かして上空からナッツゥの頭上に急速に近づき、ナッツゥの腹部をパンチをした。パンチをされたナッツゥはその場に倒れこんだ。凄まじい威力だ。素手で倒すとかこいつは本当にD組何だろうか。サミーはかなり強い。間違いない。
「勝者サミー」とグランズ教諭がいうと、保健室の先生であり学校の癒しアリア先生はナッツゥに回復魔法を使っていた。
あれから何試合が行われただろうか、時刻はお昼になっていたが、俺はまだ試合すらしていない。総当たり戦は時間がかかる。これは今日一日でおわらないだろう。
その後も試合は繰り返され、初めて俺の出番がやってきた。もう3時のおやつの時間じゃないか。俺はそうぼやきながら、中央に向かう。
「では、握手をして始めよ」
俺は言われた通り、目の前にいるクラスメイトと握手をする。
一番最初が肝心だ。と名前も知らない偉人が言っていたような気がして俺は深呼吸をし、闇の魔素を発現させると魔素の扱いになれたのか周囲が薄黒く染まっていきまるで炎のように俺の周りを取り囲む。
「そんな! なによそれ! そんな技見たことないわ!」
彼女はそう言った。俺もまさか異世界に飛ばされて潜在能力だけでこんな最強技が扱えているのに驚いている。そう彼女に聞こえないように心の中で言った。「実は俺も、なんで使えるかわからないんだ」というと、彼女はちょっと驚いた表情をしていたが、すぐに冷静さを取り戻し。
「そう。まあ、いいわ。その技は未知で怖いけれど全力でぶつかるまでだわ。水よ、私に力を貸してちょうだい。 水泡爆弾!!」
彼女の周りには無数の小さい球が現れた。こんなに小さいシャボン玉みたいなそれをどうやって避けようか考えていると
「この水泡爆弾はね、ぶつると小爆発がおこる。一つだけでは大した威力もないでしょうけど、塵も積もればってやつね」
そういうと、俺のほうに無数の球を魔力で操り投げていた。これはまずい。ナッツゥの時のように無効にできればいいが、未知な技だし相手の魔力も未知数だ。俺の強者の衣で防げるだろうか。わからないとなれば!
「闇よ、力を貸してくれ!! 闇球!!!」
未知数だった俺は無数の球に向かって小さい闇球を何回も投げていたが
何回当ててもやはり数を減らすことができないが、威力で優ってる俺の技は無数の球を貫いていた。そうか。勝つ方法はわかったが、今から投げても間に合わないがやるしかない。
俺は水泡爆弾!!を受ける覚悟をし、闇球を女子生徒に向かってなげる。
イリアほどではないが、それなりの球をそれなりの速度で投げれるようになったんだ。当たってくれ。
俺は祈った。
すると、俺の投げた闇球を防ごうとした女子生徒は水盾を詠唱し前にだす。
俺が投げた闇球はそれを簡単に打ち破り、女子生徒の体にあたり、女子生徒は倒れこんだ。
「負けたわイツキくん。 あなたのそれチートだよ!!全然技が通らないじゃない!」
そういえば、俺は傷一つ受けていない。どうやら、水泡爆弾!!は効かなかったらしい。強者の衣 は思ったより使える。これなら、D組の皆にかてるかもしれないがやっと一試合ができたんだ。あと何試合があるのだろうかと思いながら観客席に戻った。
あれから、数日たっただろうか総当たり戦は最後の一試合を迎える。俺は総当たり戦で強者の衣のおかげもあり、全勝していた。
「では、これが最後の試合だな。序列1位 サミー vs 序列2位 イツキ 互いに握手をしたら試合開始だ」
俺たちは魔力演習場中央にむかう。向かっている途中サミーが余裕しゃくしゃくの表情で
「私の名前は知っての通りサミー ヴェンート。代々風魔素を使うアムステリア中央貴族の出だ。君みたいな、島から来たものとは違う歴史の厚みがある。D組の雑魚共は簡単に倒せただろうが、私を倒せると思うなよ、田舎者が」
と言ってきた。俺は少しムカッとくるその言葉に黙っているほどお人よしじゃない。
「そっちこそ、負けて後々俺に泣きつくなよ。俺のほうが上でしたってな」
言い終わった後、負けた後のことを考えずに言ってしまって、少し後悔したが
言ってしまったものは仕方がない。やるしかない。俺は気合を入れ演習場中央に向かった。
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今回から戦闘パートが続く予定で、次話ではほぼ戦闘パートです。
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