第十一話 恥じらい
「イツキ! 俺はお前のことを最初は裏口入学かと思っていたけど、悪かった!」
「俺は最初からお前の事、アムステリア学院にふさわしい生徒だと思っていたぞ!」
「む、裏切り者め! お前みたいな情勢が変わるとすぐ裏切る奴は騎士には向いてない!」
決闘の結果を掲示板でみたのだろうか。
俺の周りに集まってきた男子生徒は、以前のような蔑む目をしておらず、申し訳なさそうな表情をしていた。貴族の出が多い以上、プライドが高い彼らが謝ることはないだろうと思っていたが、正義感が強いのか、俺に素直に謝ってきた。
「いや、いいんだ。実際、俺は入学当初この学院にふさわしくはなかった」
「私たちもごめんね! 私たちが間違っていた。イツキくんは私たちよりアムステリア学院にふさわしいわ」
「そうそう! ごめんね! イツキくん! お詫びに何でもするから!」
何でもする、その言葉を聞くと男子諸君なら、よからぬ妄想をするのは必然であろう。俺も少しは考えたさ、考えてなどいない、考えるだろう?自問自答していると
「なあ! お前、姫様や上級貴族であるイリアさんと仲いいよな! いったいどこで知り合ったんだ顔面偏差値ランキング(俺ver)の上位5名に入るお二人とお近づきになれるなんて羨ましいぜ。あー、考えているとお前を絞め殺したくなってきたぁぁ」
「頼むから殺さないでくれ...」
俺たち男子がそんなくだらい会話をしていると、女子たちはもの言いたげな目でこちらを見ていた。
「俺はまだよぉ! 認めたわけじゃないけどよぉ、今回は許してやるぅ すまないな」
いつの間にいたのだろうか。全く気配を感じさせずにナッツゥは俺の前に姿を現した。少し照れ臭そうな表情を見せ謝ってきた。こいつも、謝れるのか。しかし、ナッツゥの親はなぜ木の実を英訳したような名前にしたか考えていると
「総当たり戦ではまけないからなぁ!」
そういうと、足早にどこかに消えていった。
総当たり戦か。ナッツゥに勝った俺は少なくともD組相当の実力があることは分かった。しかし、D組上位層とはまだ戦ったことがない。実力が未知数である彼らに、今の実力で挑むのはまずい。ナッツゥとの決闘でわかったが、今の俺に必要なのは魔力のコントロールだ。
グランズ教諭との補習は主に魔素の発現と強化だ。魔力のコントロールを補習の内容に変えてもらうのもいいが、そうすると、まだ未熟な俺は逆に魔素をうまく発現できなくなる可能性もある。
やるしかないか。補習の後に自主練をやるしか他に手はない。俺は今後のスケジュールを考えると頭痛がし、溜息をついた。
グランズ教諭との補習の後、俺は寮に向かう途中にある少し大きめの公園に来ていた。さすがにこの時間に出歩く生徒は少ないのだろう。街灯の数が少ない公園には人はおらず、薄暗い公園には虫の音だけが聞こえていた。俺は疲れた体に鞭を打ち、魔力コントロールの練習を始めた。
練習で重要なのは基礎からだ。
だから俺は初歩的な小さなピンポン玉の闇球を作り出し、少しずつ平行に移動させてみる。ゆっくりとだが、確実に闇球は平行に動いた。この程度の大きさなら速度を上げても移動できるだろう。次はバスケットボールほどの闇球を動かしてみるが、思うように動かない。それどころか、遥か彼方上空に飛んで行ってしまった。俺は自分の才能のなさに落胆した。
「やっぱ、1日でできるほど、俺は天才ではないか.....」
時計を見ると寮の門限まで時間がある。今日はできなくても、必ず積み重なっていつかはできるようになる。そう思った俺は魔力コントロールの練習を続けた。
あれから何回も何回も魔力をコントロールの練習をしていたとき、人が歩く音が歩道がから聞こえてくる。その音は次第に大きくなり、女性の姿が見えた。するとその女性は俺に話しかけてきた。
「イツキではないか、こんなところで何をやっているのだ?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。イリアだ。
「ちょっと魔力のコントロールの練習をな。イリアこそ何をやっているんだ?」!
「ねむれなくてな。気分転換に散歩にでも行こうと思ったのだ」
そういうと、イリアは俺に近づいてきて
「魔力のコントロールの練習か。うむ、気分転換にはちょうどいい。
私も一緒に練習をしていいか? 」
イリアほどの実力者だ。見て学ぶことができるかもしれないし、イリアと二人きりで練習が嫌なわけじゃない俺は「もちろん!」と答えていた。
「魔力のコントロールの練習をするのは久しぶりだな」
イリアは直径3mほどの火球を出現させていた。
「そんなでかい球を出して大丈夫なのか!?」
「この程度ならまだコントロールすることができる。コツはあまり力まないことだ。力まず、周りの魔素を感じて動かしたい方向にゆっくりと周囲の魔素を動かす。慣れてくれば、こんな風に早く動かすこともできる」
イリアがそういうと3mほどの巨大な球はまるで駅を一瞬で通り過ぎる新幹線のように上空に飛び去っていた。やはり、Aクラスの上位は化け物だ。Aクラスでも上澄みなのにその上位は帝国近衛騎士になろうと思えば卒業後すぐになれるだろう。俺はイリアの化け物じみた魔力と練度に驚いていると
「まぁ、慣れだ。そうだな...ちょっとすまないが近づかせてもらう。こうやって、体をリラックスさせるんだ。手はゆっくりと前方に...」
イリアは俺に近づくと少し前かがみになり、俺の手を掴みながらレクチャーしてくれているのだが、俺の目の前には見えてはいけないものが見えている。少し焼けた肌をした柔らかそうなそれが。俺は前を見ていると無意識に見てしまうので、目をそらす。
「イ、イリア.. その、む、む、胸が見えてる...」
最初はきょとんとした顔で俺を見ていたが、意味を完全に理解したのか
顔が見る見るうちに赤く染まっていく。
「こっちを見るな馬鹿たれ!! この変態が!!」
「不可抗力だ... すまなかった!!」
俺はそう言って頭を下げた。そうするしか他に解決策はないだろう?
「謝ってくれるなら許すが、いやらしい目つきで姫様をみてはないだろうな!!」
イリアさん、絶対に許してないよこれ。それどころか、疑うような目で俺を見ていた。
イリアを説得し落ち着かせるまでどれくらいの時がたっただろう。「していないならいいが、してたら許さないからな!」そう言い残すと足早に帰っていった。
俺は一人公園に残されながら考える。
もう辺りも真っ暗だ。いったいどれほどの時間がたったのだろうか。俺は時計を見てまだ時間に余裕があるのを確認し、深呼吸をする。
さっきイリアが言っていた様に体をリラックスさせる。無駄な力を抜き、魔素を優しく押すだったか。イメージトレーニングした俺はもう一度挑戦することにした。
「闇よ、力をかしてくれ!闇球」
いつもより少し大きいバスケットボールくらいの球が現れる。俺は精神を魔素に集中させ、少し間を置く。木々が風で揺れる音が聞こえてくる。
俺はゆっくりと魔素をボールの下側に集め、これまたゆっくりと押し上げる。
すると、黒球はイリアの出した球のスピードとは比較にならないが、ゆっくりと風船のように上がっていった。
「よっしゃあ! できた......」
嬉しすぎて思わず声に出してしまっていた。
俺は少ない時間でコツをつかめたことにイリアに感謝せざるを得ない。
さすがAクラスの上澄みである。
総当たり戦まで残り5日。やっとコツをつかんだ俺だが確実に進歩している。順調に練習すれば5日までにはマスターできているだろう。そう確信し、疲れた体を休めるため寮へと戻った。
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ところで、今回書くのに苦労しました!なかなか書けず..
読んでくださってる方ありがとうございます。




