5話 無意識の第一歩
開けた場所に向かってナビゲートに沿って森の中を歩いていく。
都会や宇宙船では仮想空間でしかみない景色についあたりを見回してしまう。
(おー、ほかの惑星だと形が不思議な物も多い印象だったけど、この星の植物は地球の植物に近い感じがするな~実際は全然違うのだろうけど)
それにしても、今の現状はどういうことだろうか?
自分の体はどうなったかわからないが、今はしっかりメルの体を自由に動かせる。
しかも人間にはないはずの感覚も操作できる感覚があり、メルの機能もいくつか使えそうだ。
たとえば、と周りに意識を集中する。
周りからは小さな動物の声が聞こえおり、今のところ姿までは見えていないが、視界が変化し、熱源反応でいくつかの生き物の場所は把握できた。
これは熱探知の機能に俺の意思で切り替えたということだろうか?
メルは、俺がデータとして記憶媒体に存在しているみたいなこと言っていたが、正直半信半疑だ。
魂をデータ化するという研究はあったが、成功例は技術の進歩した今でも成功したとは聞いたことがない。
(せいぜい人工AIで本人だと認識させた偽物を疑似的に作るくらい……いや、やめよう怖くなってきた……)
とにかくメルのスペックは型落ちなモデルとはいえ、人間と比べて高性能だ。
それが自由に動かせるってことで、森の道を歩くという行為はまったく疲れることもなく、目的地に到着した。
(さてと、見晴らしの良いところまで問題なく来れたな)
『お疲れ様です』
(うおっいきなり声を出すな! びっくりしたわ!)
しばらく話しかけてこなかったせいで驚いてしまった。
しかしこいつ本当に寝てたんだろうか。
『申し訳ありません。マスターが移動している間、周囲の空気濃度や土に含まれる成分。昆虫や微生物の分析に処理を回していたため、会話を中断したことをお詫びします』
(え? そういうことだったの?!)
どうやら歩いている間しっかり仕事はしていたようだ。
普通に考えてアンドロイドが寝るって意味わかんないしな……サボってるとか思っててごめん。
『マスターは寂しいと死んでしまうほどの寂しがりやさんでしたね。失念しておりました。本当にすみません』
うん、悪いとは思うけど謝るのはムカつくからやめておこう。
(寂しくねーよ! それで? 何かわかったことはあった?)
『まだ不十分なので申し上げられませんが、やはり未知の分子と生体の生き物の存在を確認しました』
(おお、まじで未開拓地に来てしまったのか、これって地球に帰れたら億万長者扱いになるのか?)
その気はなかったが、ニート開拓者制度により、未開拓惑星、しかも生き物が存在する惑星を見つけた場合は俺がこの星の所有者になり、莫大な資金が手に入ることになっている。
そうすれば宇宙船ニートから、不労所得ニートへとジョブチェンジし、地球で引きこもりを続けられるのだ。
『まず、この星がそもそもすでに登録されている惑星かどうかが問題になってきますが、星の位置を見る限り未開発宇宙なのは間違いなさそうです』
(ん? 昼間なのに星が見えるのか?)
『別に昼間に空が消滅してるわけではありませんから、観測は可能ですよ』
(おお、そうなのか? フーム俺としては、見つかるとも思ってなかったし、未開惑星を見つけたとしても放置する気だったけど、報告したほうがいいのかね)
『放置する気だったのですか……マスターの意思を尊重しますが、そもそもこの星、いえ、銀河がどれだけ地球と離れているか測定不能です』
(報告できないってことね)
『……肯定です』
ならしょうがない。
そこまで重要視していたわけじゃないので、ニート開発者制度のことは忘れよう。
むしろここまで自然豊かな惑星に到着して楽しみになってきた。
(よし、とりあえずこの惑星をゆっくり探検していこうか! コールドスリープで睡眠中に見ていたRPGゲームの冒険も楽しかったけど、実際の未開惑星を探索するのも楽しそうじゃないか)
『了解しました。私としては早く私の体を返して頂きたいのでその辺りのことも記憶に残していただけると幸いです』
(わ、わかってるよ)
『そうですね。まだ情報不足が否めないので、まずは知的生物がいるか調べたいところです……右手の方角をご覧ください』
(ん?右?)
見晴らしのいい場所から見てるが、森と山と空くらいしか見えなかったが、右の方をよくみると川が流れているのが見える。
『文明というものは川のそばにあることが多いです。もしくは動物が水を求めて姿を現すはずです』
(ほほん、じゃあまずは川沿いに向かって行ってみるか)
『遠回りされるのですか?』
川に向かおうとしたが、手前に崖があるので迂回しようとしたところでメルが静止をかけた。
(ん? 近道があるのか?)
そういうとまたナビゲーションが表示されるがその表示は崖から川沿いまで一直線に表示されている。
(いやいやいやいや、目の前崖だから! そんな飛びこむとか無理だっての!!)
『はぁ、マスターが私のことをどれだけ過少評価しているかがよくわかりました。
私は宇宙船の整備、マスターの日常生活のサポートも仕事ですが、そのほかにも開拓を支援することも含まれているアンドロイドですよ?
これくらいの高さと距離なら重力を計算しても強度に問題はありませんよ?』
(いや、うーんでも怖いな)
『ビビリですか……私のマスターがチキンとは悲しい事実です。今すぐに記憶から消してしまいたいです
しょうがありません、今回は私が体を操作しましょう』
瞬間体の捜査権がなくなったのか手足の感覚はそのままに、動かすことができなくなる。
そしてそのままゆっくりと歩き出すと徐々に速足になり崖にむかって走り出した。
(え、いきなりっちょ、ま、きっ気持ちの整理がー!!!!)
『舌はかまないと思いますが、しっかり目は見開いていてくださいね』
ーーキュィン
体に幾何学模様が走る。
全身の制御装置から制御が外れ、本来の力が解放される。
瞬間踏み込んだ地面に土の粉塵が舞い、俺の……いやメルの体は普通では考えられない高度へ飛び上がった。
(あんぎゃぁああああああああああああああああああああうわああああああああああああ)
景色が変わり、地面がどんどん離れていく、それが終わると浮遊感の後、今度は重力にそってかなりのスピードで落ちていく。
(しっしっしぬっしぬぅうううう)
『ではマスター、着地はお願いしますね(^w^)』
(ほわっ?!)
急激に手足に感覚が戻る。
バタバタと手足を動かすがそんなことでスピードが落ちるわけがない。
(せめて!足からっ足から着地して衝撃を和らげないと!)
そのまま木の枝を折りながら森の中に突っ込むと、地面に華麗に着地……できなかった。
足から着地すると、高性能な膝のクッションで、衝撃はやわらげたようだが、坂になっている場所に着地したようで、足を滑らせるとそのままゴロゴロと地面を転がっていく。
(今度はなんだぁああああああうわああああああ)
草をかき分けながら転がっていくと、木の幹にぶつかってようやく停止する。
(と、止まった。 痛い……ところは無いな? 怪我したところはあるのか?)
『いえ、この程度で傷つくほど表面装甲は軟ではありません。マスターのせいでついた土汚れは人工皮膚の表面で分解中です』
(ほんとに技術の進歩はすげーな。科学者以外は理解もできねーけど)
そういって体を起こすと、目の前に白いモフモフがあった。
大きな生き物、私の知ってる知識でいうと兎に告示した動物がそこにいた。
(でかっ! てか兎じゃん? かわいい!!……?!)
そしてその白いモフモフのそばに女の子を見つける。
しかも頭にワンコのような耳がついている。
(けっケモミミっ娘だと?!)
ついうっかり見惚れて凝視してしまう。
知的生物は珍しいほどではない。ただ、明らかに人の形をしてなかったり、肌の色がカラフルだったりと、地球の美的感覚からすると、すこし馴染みが薄い種族が多い。
だが、今目の前にいる女の子は地球の女の子に肌の色や顔つきがよく似ており、それになおかつ耳としっぽが生えていた。
昔から地球では人気なジャンルであるケモミミ娘そのものが目の前にいるのであり、凝視してしまうのは無理らしからぬことなのだ。
その子もこちらに驚いていたようだが、何かを伝えようと声を出していた。
「……Λ ΖΔ■◇! ΒΓΞΛΟ!」
(……まったくわからねぇ)
『翻訳機能を起動させていますが、やはり該当する語源ではありませんね。 もう少し会話を続けていただけたらこちらで解析して意味がわかるようになると思います』
すると同時に近くにいたモフモフが飛び掛かってきて押し倒されてしまった。
(うわっすっげぇもふもふ! 動物飼ったことないからちょっと嬉しい! 人懐っこい動物なんだな!)
『マスター、お楽しみのところよろしいでしょうか?』
(何だ? 変わりたいのか? これはいいぞ~ちょっとなら変わってあげるぞ?)
『おそらくその兎モドキですが、体格を見る限り肉食獣であり、おそらく今はじゃれているのではなく、我々とそこのケモミミっ娘を捕食しようとしているのかと』
(はい?)
言われて兎の顔をみると、口が斜めに裂けて大きな口が近づいてきた。
キモイ。
(うわぁああああああ)
キュィィィィイン
押し倒されていた状況から、メルと比べると数倍ある獣を簡単に押し飛ばす。
兎は数十メートル空中へ高々と飛び上がっていった。
「ギュ??ギギュギュ!!」
その声を聞いて、ケモミミ娘を食べようとしていた、もう一匹も、慌ててこちらを振り返る。
(だましたな!! しかもケモミミっ娘を食べようとするんじゃねぇ!!!!)
目にも止まらないスピードで二匹目に詰め寄ると、毛皮をムンズと掴んで、先に飛ばして落ちてきている一匹目にめがけて、片手で投げつける。
「ギュー!?ギュギュ!?」
二匹はぶつかると絡み合うように落下し、近くの川へ勢いよく飛び込んだ。
ーーバッシャアァアアン!!ーー
大きな水しぶきが上がり、辺りを濡らしていく。
『さすがです。すでに制御解除モードへの切り替えは覚えていただけたようですね』
(いや、無我夢中だったけどね)
振り向くと、ケモミミっ娘がこちらを見つめていた。
(おっとびっくりさせちゃったかも、何か安心させる言葉言えないか?)
『おかしいですね? 制御解除モードや探知モードの切り替えが出来るのでしたら、会話もできると思うのですが? 言葉を発することは出来ないのですか?』
(わからん、そもそもこんな時何て言えばいいのか思いつかないから頼む)
『わかりました。日本語ですが、「もう大丈夫ですよ」と言っておきましょう、なんとなく通じるかもしれません』
そうして、メルの口から「もう大丈夫ですよ」と声をかけたところでケモミミっ娘は気を失った。
(あれぇ? 何で気を失ったんだ?)
『頭部から出血していますね。これは先ほどの兎モドキにやられたのでしょうか?』
ケモミミっ娘の登場で舞い上がって気が付いてなかったが、地面にはそれなりに血だまりが出来ている。
(やばいっ死んじゃう死んじゃう!!何とかしてくれメル!!)
『どの程度治療しますか?頭の傷を塞ぐだけでしたら人工糊を生成すればすぐですが?』
(血とかめっちゃでてるのにそれでいいのか?!
ほら、輸血とかもして元気な状態まで治療してくれ!!)
『この現地人を完全に助けるということですね? わかりました。少し彼女の血をなめてください』
(お、おう)
頭皮の血を指でぬぐって口に含む。
味はしなかった。
『DNA情報を分析。血液の複製を作成。ナノマシンを注入します』
左手の操作権がメルに移ると、腕の部分が開き、注射針のついたチューブがケモミミ少女の腕に刺さると、赤い液体を注入しはじめる
これは失った血液の補充と、メルの体内で生成されているナノマシンを含んだものだ。
全身をめぐれば、頭の傷だけでなく、全身の擦り傷もすぐに塞がるだろう。
手当はすぐに終わった。
血だまりに横たえるのは悪いので少し離れた木の幹に寄りかからせて座らせた。
『これで大丈夫です。 約10分ほどで完全に回復するでしょう』
(ふぅ、サンキューなメル)
『ふふ、相変わらずお人よしですね』
さて、どうしようかなぁこのまま放っておいてまた襲われたら困るし……。
『! 急速にこちらに近づく生体を感知。種族的にこのケモミミ娘の同族であると推測されます』
(うえっ! えーと、とりあえず隠れて様子見だ)
近くの草むらへ飛び込むと、ステルスモードを起動する。
これは映画プ〇デターで有名になった周りの景色に溶け込む装置である。
出力をあげれば、自分の周囲の空間にいるものを隠すことが出来るものだ。
必要時以外は、アンドロイドが視界に入ると仕事に集中できないという要望から搭載されている機能の一つだ。
さすがにそのクレームの意味は俺には理解いないけど、今回はそれが役に立った。
『そもそも隠れる必要性はあるのですか?』
(……言われてみれば何でだろう?)
『治療中ケモミミ娘のことを至近距離で卑猥な視線で見てたことが後ろめたいのですね。わかりました』
(うおい! そんなこと!……ない……よな?)
隠れて様子を伺ってると、大人と思われる男性が現れて、慌てた様子でケモミミっ娘を抱きしめて泣き始めた。
(男性もケモノミミか、種族が一緒というのは探知した通りっぽいね)
『どうされるおつもりですか?』
(うーん。言葉は通じないかもだけど、その子は無事ですよって安心させてあげたいな……タイミングみて出ていこうか)
そのとき、少しだけ足元で枯草を踏んでカサリと音を立ててしまった。
その瞬間、ケモミミの男性からこちらに向かって強烈な殺意が向けられる。
(ヒッ)
生まれてこの方、誰かにこんなに殺意を向けられたことがなかった俺は完全に心が折れた。
(あばばばばぁ!!!)
回れ右するとその場から一目散に逃げだした。
『こちらに危害を加えるつもりはなさそうですが?
そもそも、彼がこちらに損傷を与えることは不可能だと思われます』
(あほっあんな怖そうな人に言葉も通じないのに弁解なんて出来るかっ! 理屈じゃないんだよ!!)
『何だかマスターのチキン度が上がっていきますね。嘆かわしいことです』
こうして俺はせっかく出会えたケモミミ種族との出会いを投げ出し、また森をさまようことになるのだった。
だが確実にこの世界に影響を与えていく第一歩になったことは、この時にはまだ想像すらしていなかった。
次は町に向かうまでを記載中です。毎日更新ではないのでご注意ください。




