3話 奇跡の生還?
鳥の声が聞こえた。
風が木々を揺らす音も聞こえる。
俺はゆっくりと意識を取り戻す。
目に入るのは、地球のように緑豊かな大地。
周りを見渡せば、魚の跳ねる綺麗な川まで見ることが出来た。
(お、おおおお?!)
俺はゆっくりと喜びが全身に伝わっていくのを感じて叫んだ。
(10連SSRの確率引いたったぞー!!)
叫んだつもりだったが、声にはならなかった。
(っと、あれ?うまく声が出ねぇな。なぁメル~診断を頼むわー。……メル?)
キョロキョロと周りを見て気づく。
俺以外に誰もいない。
手を繋いでたはずのメルの姿はどこにも無かった。
(まさか、アイツ転送失敗したのか?)
急に不安が襲った。
何だかんだ言って、アイツが居れば、どこに転送されても何とかなると考えていたのかもしれない。
(メルー! 居ないのかメルー!!)
『何でしょうかマスター』
(うわっ居たの?!)
声がしたので後ろを見るが誰も居ない。
『そっちには誰も居ませんよ』
またメルの声が聞こえた。
しかし、声がどこから聞こえてくるのかうまく判断出来ない。
後ろというか、もっと奥と言うべきか……。
『マスター。とりあえず状況を確認したいので、そこの川を覗き込んでもらえますか?』
(川? まぁ良いけど)
言われた通り川を覗き込んで、ぎょっとする。
川の水面には、メルの姿が映り込んでいる。
(え? メルお前……どうやってそこに居るんだ?)
『そう来ましたか、アホですかマスター。ご自身の手を見て気づいてください。マスターが私になっているんですよ』
(え? うわっ俺の手がちっちゃくてスベスベ肌に?!あっ、水面のメルが俺と同じ動きしてるっ!!)
『分かってもらえた様ですね。原理は不明ですが、どうやら私の中にマスターの意識が入り込んでしまった様です。内蔵メモリーにアクセス不能の謎の使用データを確認。これがマスターの魂という事なのでしょうか?』
(何? 俺データになってんの? 俺の体は?)
『現段階で確証はありませんが、マスターがここに居るということは、肉体は消滅したか、意識のない死体がどこかに落ちてるかの二択ですね』
(うおい!! やめろよっ!!)
『無事に生き物がいる星に辿り着けただけでも良かったと思いましょう。天文学的な確率の奇跡が起こったのですから』
(無事って言っていいのかなぁ、これ)
『体の操作権限は、全てマスターに優先度を変更致しましたので、自分の体と思って、私の体をお使い下さい』
(お、おう。まぁ動かす分には今のところ問題は無いかな)
腕を回したり、屈伸の動きをして動作を確認するが違和感はあるが、思い通りに動いた。
『私の小さな身体で、マスターを満足させられるかの不安ですが、初めての経験なので優しくして下さいね』
(へんな言い方するなっ!!)
『失礼しました。では、今後の予定を決めて頂いても構いませんか?』
(切り替えはえーな。んじゃ、まずは状況を確認したいな。見晴らしの良い所があれば、そこで見回したい)
『では、少し距離がありますが、あちらに見える山の頂上付近が適切かと』
視界していた景色の山に矢印アイコンが表示され、ナビゲートが出る。
(わかりやすいな、じゃあそこまで行こうか)
『そうですね。では向かってください』
(そうか、歩くのは自分か……ん? メルお前、移動が面倒だから俺に権利を譲ったんじゃないだろうな)
『まさか、マスターじゃないんですから、めんどくさいとは考えませんよ。私の好意をそんな解釈されるとは心外です。』
(まぁそうだよな。悪かった。行くぜ!)
『では私はスリープ状態で待機しておきますね。着いたら声をかけてくださいねぐーすかぴー』
(まて! 擬音を口に出す奴がいるか!! おいコラっ!メル!!返事しろー!!)
ひとり心の中で叫びながら俺は山の頂上へ向けて歩き出した。




