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異世界転々  作者: 赤井天狐
第四章【神在る村】
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第二百七話【王宮の中、僕が居て良い場所】


 それがいつからなのか。これまでの召喚のうちのどれかの成果なのか、それとも最初から——最期の召喚術式の時点で何か細工をしていたのか。すごく気になった。

 気になったけど……僕はそれを聞きたいと思わなかった。

「それでは、失礼致します。また……また、アイツと一緒に……ミラと一緒に、勇者として頑張ります」

「期待しよう。また、其方達の活躍を」

 王様は僕のことを覚えていた。

 思い出していた、のかな。それはどちらでもよくて。

 なんにしても、この場所に——王宮に積み上げた僕の努力と思い出が、全部否定されたわけじゃないんだ……って。それが嬉しくて、理由とか原因とかはなんでも良かった。

 きっと、王様じゃなくても良かったのかもしれない。ここで働く誰かが覚えていてさえくれれば。

 でも……今となれば、それが王様で良かったと——僕達を勇者として導いてくれた、マーリンさんの味方であるあの人で良かったとも思う。

「——あいや、少し待て。ひとつ、伝えねばならぬこともある」

「……? はい、なんでしょうか」

 かつて語った冒険譚をもう一度語って、そしてキリの良いところで僕はこの玉座の間を後にする……筈だった。

 けれど、その脚を止めたのは……王様……で。

 でも……凄く、王様らしくない姿に見えた。

 肩を落として、顔を伏せて。まるで……

「——申し訳無かった——。ミラ=ハークスの件、其方の件。全ての責任は余にある。申し訳無かった」

 そう言うと王様は両手を付いて頭を下げた。

 そんなことを王様にされては、僕も平気じゃいられない。

 大慌てで側に戻って、そして王様よりも更に更に低いところまで頭を下げて、顔を上げて貰うよう説得する。

 それはあかんですよ。悪いと思ったら謝るは正しいのかもしれないけど、立場の高過ぎる人が頭を下げると、相手も相手でびっくりして心臓が止まる……って言うか……

「な——なんで王様が謝る必要があるんですかっ! 誰が悪いって言ったら……元々悪いのは俺……私なんですから。大勢に期待して貰って、力も貸して貰って。それで……最後の最後にやらかして、死んじゃって……」

 マーリンさんからそれとなく聞いた話。

 ミラをもう一度勇者として立ち上がらせる為、僕の記憶を消して心の傷を無かったことにする。そのやり方をマーリンさんに命じたのは、他ならぬ王様だった。

 それは悪意じゃなくて、心の底からミラを心配してのことだと僕は感じた。

 でなきゃマーリンさんも実行してないし、アイツも無事に立ち直ったりは出来なかっただろう。だけど……

「……マーリンさんにも謝られました。だけど、そのおかげでアイツは無事に生きてる。多分、あの人だけだったら……その可能性に気付いたのがマーリンさんだけだったら、実行には移せなかったと思います。だから、謝らないでください」

 王様もマーリンさんも、やった方は物凄く責任感じてるみたいで。

 僕がどれだけ言っても頭を上げてくれなくて……胃が……胃がねじ切れるぅ……っ。

 昔と同じ、ちょっとだけとっ付きやすい王様だって分かっても、これとそれとは別問題なんだよぅ。

「……あっ! だ、だったら、交換条件とかどうですか⁈ その、私のお願いをひとつ……常識的な範囲のお願いをひとつ聞いていただく代わりに、その一件はもう忘れるという方向で…………あれ……今、俺は何を言って……」

「……くくっ。はっはっはっ! そうか、王を相手に交渉とは。あの頃より思えば随分と強かになったな」

 あーっ⁉︎ 違う! 違います忘れてください!

 ぐるんと一回転しつつ床を滑り、僕は全身全霊のジャパニーズDOGEZAスタイルで王様に頭を下げた。

 不敬罪は嫌だ不敬罪は嫌だ不敬罪は……っ!

 頑張って気を利かせようと思った結果、気を利かせるとか使うとか、そういう間柄じゃなかったわ。と、そんなことすら忘れてしまっていた。

「申——し訳ございません——っ! 何卒……何卒お許しを……っ!」

「はっはっはっ。よいよい、そう畏まるな。いや、そうさな。長いであった。其方も忘れてしまっておるのやもしれんな。なら、よい。今の不遜と余の悪行、それで釣り合いを取ろう」

 と……仰いますと?

 ゆーっくり、めちゃめちゃ慎重に顔を上げれば、そこにはマーリンさんみたいに意地悪な笑顔を浮かべる王様の姿があった。

 うう、似た者同士。マーリンさんが王様を気に食わないのって、同族嫌悪でかつスペックで負けてるからじゃないの……?

「其方は余の悪虐を許せ。余も其方の無礼を許そう。それでこの問題は終了とする。それでは今度こそ、これよりの活躍を期待しておるぞ」

「っ。は、はい! 失礼します!」

 またな。と、子供みたいに手を振って、王様は僕を見送ってくれた。

 またな……って、そんな気軽に言ってくれるけどさ。言い方もフランク過ぎるし。

 でも……うぇへへ、なんか頬が緩んじゃうな。

「……アイツも喜ぶかな。それとも、びっくりし過ぎて俺みたいになるかな」

 大慌てで玉座まで走っていって、気付けずにすみませーんとか謝ったりするのかな? マーリンさんはどうだろうか。それに、フリードさんは……

「……? あれ……それって、そもそも話して良いことなのか……?」

 ふと思い浮かんだのは、王様が僕を思い出していることを言いふらした時のデメリットだった。

 メリットらしいメリットって無いんだ、それに。

 本来存在しない……ということになってる男を覚えている……と、そう言い始めてしまった王様。

 うん、あれ? これ、普通に耄碌し始めたと思われるやつでは?

 と言うか……そもそも召喚術式に関わったのだって、本当は良くないんじゃ……

「よう、アギト。久しぶりだな」

「d——oぅわっ⁈ へ、ヘインスさん! び、びっくりさせないでくださいよ……」

 ビビり過ぎて子音飛んじゃったじゃないか。

 そんなに驚くとは思わなかったよ。と、むしろ呆れ顔のヘインスさんだが、それでも嬉しそうに肩を組んできた。

 うぇへ、えひひ……リア充っぽい……こう、青春を謳歌する友人ぽくて……

「さっき巫女様を見かけたぜ? 勇者殿もいて、それにオックスもいたな。今回は何やらかしに来たんだ?」

「や、やらかし……何もしませんよ。てか、今までだって何もしてませんよ!」

 ほんとにそうかぁ? と、ヘインスさんがからかうもんだから……ちょっと不安になってきた。

 確かに、かつての僕は……僕達は、かなりやらかした。

 でも、再召喚後は……多分、無い筈。

 うん、自信を持って答えよう。お、俺……何かやらかしたんですか……?

「ま、積もる話は仕事の後だ。巫女様なら食堂の辺りで見かけたから、待ち合わせならそこから動いてないんじゃないか? それで見つかんなかったら……誰か呼んで、呼び出して貰え」

「あはは……今日も忙しそうですね、ヘインスさんは」

 でも、今日の昼番が終われば休みだ。と、ちょっと嬉しそうにヘインスさんはそう言った。

 そして、まだここに残る用事があるなら、晩飯は一緒に食おうぜ。と、僕の返事も聞かずにそれだけ残してまた仕事に戻ってしまった。

 いやはや、本当に忙しいのだな。それに引き換え……はあ。マーリンさんはまーた食堂でサボってるのか。

「もう巫女じゃないとは言え、手が空いてるなら手伝ってあげれば良いのに」

 そんなんだからミラから言われるんだよ、サボり魔だって。

 しかし、良い情報を貰ったな。えっと、食堂食堂……っと。

 それにしたって、ここの食堂も久しぶりだなぁ。

 ご飯が美味しくて、食べ放題で……ミラの食費をかなり助けて貰ったなぁ……


 ヘインスさんに言われた通り、僕は食堂でマーリンさんとオックスと合流した。

 ミラは……なんか、人だかりの真ん中で飯食ってるらしい。あのバカ……っ。

「天の勇者の食事風景なんて、今まで中々お目に掛かれなかったからね。謎のヴェールが剥がされてみれば、成る程強さの秘訣はそれかと言わんばかりの大喰らいと来たもんだ」

 色々勘違いしたバカどもが、それにあやかって大食いしてるとこだよ。と、マーリンさんは笑った。

 オックスもちょっとだけ困った顔で、けれどどこか羨ましそうにその人だかりを見ている。

 それは……ミラに憧れてる? それとも、ミラと一緒にワイワイやってるみんなが羨ましい?

「ああ、そうそう。フリードは仕事に戻ったよ。アイツはアイツで本来忙しい身の上だからね。書類仕事が終われば、また東の開拓に戻るだろう。その時は、オックスも一緒に行くのかな?」

「そうなる……っスね。まだどうかは分かんないッスけど、でも……出来ればあの人の側で戦ってたいっス」

 戦ってたい……か。

 戦わなくて済むようにしたいんだけどな。お前も、ミラも。

 フリードさんは……きっと何が無くても自分と戦い続けるだろうけど。

 でも、もう魔獣なんかとは戦わなくていいように……って。そうなって欲しいけどなぁ。

「じゃ、僕達もご飯にしよう。アギト、久しぶりにちょっとだけ王宮で遊んで行きなよ。僕も今回の一件で仕事が出来ちゃったからさ。それが終わるまで待ってておくれ」

「はい、分かりました…………? いや、別に帰っても良くないですか? なんで巻き込もうとしてんですか。ひとりじゃ寂しいとか言い出すつもりですか!」

 それが分かっててひとりぼっちにするのかい? と、マーリンさんはあざとい仕草で涙を浮かべ……ちくしょう! 分かりましたよ! 割と近くで遊んでますってば!

 もう……嘘泣きだって分かってても……っ。推定アラサーの癖に、なんてあざと……殺気⁉︎

 随分困った顔のオックスと、満面の笑みで僕の首根っこを捕まえたマーリンさんと、それから捕らえられた犬みたいな僕。

 三人でミラから遠くない席に座って、ゆっくりとくつろぎながらお昼ご飯にすることにした。相変わらずここのお茶が……苦美味い!


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