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異世界転々  作者: 赤井天狐
第四章【神在る村】
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第百八十一話【その隙】


 夜が明けて、そしてまた僕達は神様の下へと向かう。

 今日もきっと何かを命じられる。その素質を試される。

 この世界を救うだけの力——或いは、他の神様をも打倒するだけの力を僕達は証明しなければならない。

 だけど……そんなの本当に……

「行きましょう、アギトさん。きっと今日も……」

「……うん、そうだね」

 ミラは……やはり、昨晩もロクに眠れなかったみたいだ。

 無理も無い……と言うよりも、やはり無理を強いてしまっている。

 この不眠の原因は、解決した筈だったレヴとの——ハークスとの因果にある。

 力を示す、化け物を倒す。その為に、ミラはまた魔術を行使した。

 その殆どは炎の魔術であったが、しかし強化魔術を抜きには立ち回れない。

 村人達とは状況が違う、なんの祝福も無しには危険過ぎる相手だった。

「ミラちゃん。もし、またあんなのと戦うことになったら……」

「任せてください。こう見えて、少し前には勇者として戦ってたんですから」

 今度は僕に……と、そんな妄言を吐く暇も与えてくれず、ミラはテキパキと準備をして部屋を出て行った。

 そう、妄言。自分でも分かっている。

「……俺は……」

 あの化け物は見た目以上に手強い筈だ。

 僕にも神様の加護があれば別だろうが、そうでないのなら敵う道理は無い。

 スカウターなんて持ってないし、当然戦闘力を感知する特異能力なんてのも無い。

 だから……なんとなく。ミラの強さが相対的にどれだけ変わっていて……と、そういうものさしの当て方でしか測れないけど。

 でも……アイツらはきっと、それぞれが魔竜に匹敵する強さを持っている筈だ。

「——っし! 気合い入れろ、バカアギト!」

 そんな相手の前に、ミラが僕を送り出す筈が無い。

 過保護が無くなったとは言えど、そもそも論として僕がへなちょこのポンコツのへっぴり腰なのには変わりない……ぐすん。

 でも、だからって黙って見てるだけのつもりも無い。

 魔具があったら変に手を出してピンチを作ってしまってたかもしれないと思うと、ちょっとだけこの不遇にも感謝だ。

 したくねえ……そんな感謝……っ。


 僕がすべきこと、それは現状の徹底的な観察だ。

 ミラが戦う、それを僕が見守る。

 村のみんなが戦う、それも僕は見守る。

 ありとあらゆる戦いを見比べる——この世界のスタンダードを見定める。

 加護によって必然的な勝利を挙げているみんなと、自力でそれをもぎ取っているミラ。

 そこにどれだけの違いがあって、そしてそれはどうしたら覆せるものなのか……と。早い話が……

「朝早くからご苦労。では、今日すべきことを伝えよう」

 他の神様と戦うとなった時の為のイメージトレーニング…………とはちょっと違うか。

 でも、対策を立てなくちゃならないのは間違いない。

 もしも他にこんなのがいたのなら……こんなのは失礼か。

 神様クラスがいたとしたら、そっちも同じような力を行使出来て然るべきだ。

 それこそ、あの化け物にも同等の加護が加わった……とか。

 そうなった時、それを打ち破る術があればきっと有利に立ち回れる筈だ。

「……なんだか気力が充実しているな、アギト。結構だが、話は聞いていたか?」

「……えっ⁈ あっ、すっ、すみません! き、聞いてませんでした……」

 まったく。と、神様は呆れて頭を抱えてしまった。

 あ、あれ……? なんと言うか……そのリアクションは意外だったと言うか…………?

「こういう時、こうするのが良いと見たものでな。まったく君は、バカアギトなのだな、と」

「——っ! そ、そういうのまで……真似しなくていいです……っ」

 どうしよう、異世界の神様にまでバカアギトと呼ばれてしまったよ……っ。

 理由……原因は分かっている。

 こっちの考えが全部筒抜けだというなら、僕が神様をマーリンさんにちょっと似てると思ってるのもバレてる筈だ。

 そして…………マーリンさんとじゃれ合ってるのがひたすら好きで、それはもう小馬鹿にされるのも割とまんざらじゃないってとこまで…………はい。

 つまり……神様はきっと、善意でこんなことをしてくれているのだ。申し訳無さしかねえよ……っ。

「今日はまた村を出て、そして泥を採って来て欲しい。と言っても、すぐそこの山に登るだけだ。

 粘土と、それから畑の土。私の力で可能な限り肥沃にしてはいるものの、それにも限度というものがある。

 世界は人間だけの為のものではない。そこが私の限界を定めるものだ」

「人間だけの為の……ですか」

 了解しました。と、僕もミラも疑問は一度横に退かして首を縦に振る。

 神様は人間の祈りによって生まれた……と。そして、それ故に人間にしか干渉出来ないと。

 ならば、畑の土に加護を与えるのにも限度があると言われれば……まあ、なんとなく納得出来なくもない。

 もしかしたら、この弱点……とまではいかないけど、神様の言う限界ってやつは役に立つかもしれない。覚えておかなくちゃ……

「……? アギトさん、今朝からどうかなさったんですか? ずっと何かぶつぶつと……」

「うぇっ? あ、ああ……いや。ミラちゃんが俺にも強化掛けてくれないから……」

 拗ねたフリしてもダメです。と、ミラは割と容赦無く僕の要求を突っぱねる。

 うぐぐ……お前、なんか段々僕に対して当たりが強くなってきてるよな……? 最初の頃はもっと大事にしてくれてた気がするのに。

 まあ……それもそうか。なんだかんだでずーっと一緒にいるんだもんな、今の生活が始まってからも。

 僕のことも大体理解して、それにマーリンさんとのやりとりを見て、あしらい方も把握し始めたんだろう。

 はあ……なんだろ、別に嬉しくない。また仲良くなれてる証拠なのに……


 言われた通りに少し先に見えている山に向かって歩いていると、昨日と同様に村人達と合流した。

 そっか。と、ひとり納得する僕を、ミラはなんだか信じられないものを見る目で見てきた。

 ち、違うよ……別に、ふたりで運べる泥の量なんてたかが知れてるもんな。とか、そんな当たり前のことに今更気付いたわけじゃ……気付いた……わけじゃ…………わけなのじゃが……っ。

「車に桶を積んであるから、乗せられるだけ乗せてくれ……ださい。

 お客さんに重労働させるのもどうかと思うんだけど、神様からその働きぶりを報告するように言われてるから……ますので」

「あはは……別に俺達にはかしこまる必要なんて無いんですよ……?」

 でも、神様のお客様だからなので! と、そんな不器用にも程がある敬語を使いこなしているのは、ベグさんとは打って変わって体の大きな青年だった。

 なんと言うか、オックスと少しだけ被るな。アイツは言葉遣いとか作法も割としっかりしてたけど。

「いや、本当に大丈夫ですって。たとえ神様のお客さんだったとしても、別に俺達は神様じゃないですし」

「アギトさん、そこに拘らなくても良いですってば。それより、早く運び込みましょう。まったく……神様も人が悪い……ああ、いえ……神様が悪い……?」

 うん? どうしたの? そういうよく分かんないボケは僕の役目……と、そんな大マヌケをかまそうとした矢先、ミラの目付きがずっと鋭くなって周囲にぴりぴりとした空気が満ち始めた。

 えっ? えっ⁈ な、なんで臨戦態勢⁉︎ と、更なる間抜けな発言は、口から飛び出る前にギリギリで踏み止まってくれて……

「——っ⁉︎ ど、泥運ぶだけだって言ったのに……っ!」

「いえ、運ぶだけとは言ってませんでした。それでも、またこんなのと戦えとも——言ってませんでしたけど——っ!」

——揺蕩う雷霆(ドラーフ・ヴォルテガ)エクスス——。と、ミラの口からは歴戦の言霊が紡がれ、そして甲高い風切り音と雷鳴を残して視界から飛び出して行った。

 泥を採ろうとした僕達の前に現れたのは、やはりと言うかお約束と言うか……そんなお約束いらないんだけど、またあの青黒い肌の怪物だった。

「——っしゃああ!」

 バチ——バチチ——ッ! と、連続でスパークしながら、ミラの身体はやや緩めの足下も苦にせず突進する。

 周りではみんなも剣を抜いて臨戦態勢だ。

 でも……いや、違う違う。僕は僕のやるべきことをやるの。

 そんな中でも僕だけはへっぴり腰で隠れてるだけだった……とか、そういうのじゃない!

「……しっかり見とけ、バカアギト。あと四日……四日? 三日? えっと……一昨日、昨日……」

 日付の計算ってなんかスッと出来ないよね!

 今日入れて四日! でも、夜明けの後にって言われてるから実質三日! たったそれだけしかないんだ。

 数少ないサンプルをみすみす捨てるような真似はするんじゃないぞ!

「——斬り断つ北風(ギーラ・ボーロス)——エクスス——っ!」

 山の中、そして昨日よりも狭い中での乱戦というのもあって、ミラは火炎魔術でも雷魔術でもなく、風属性の攻撃魔術を選択した。

 高く跳び上がり、そして振り下ろされる風の刃は、地面から出てきたばかりの化け物を一撃で両断する。

「……耐久力は高くない……? いやいや、どんだけ蹴られてもビクともしなかったじゃないか。なら……」

 火炎魔術でも割と簡単に倒せてた。てことは、魔術に対する防御力——RESが低いのかな?

 いや、そもそもミラの魔術攻撃はこの世界の外から持ち込まれたものだしな。

 こいつらが自然のものだって言うなら、それに耐性が無いのはそれこそ自然なことなんだけど。

 戦い始めてすぐに化け物は発生しなくなった。

 それを見届けて大急ぎで泥を桶に詰め込み、そして僕達は逃げるように山を後にした。

 話によれば、アイツらの発生頻度は高くない…………が、出る時は出るというひたすら鬱陶しい仕様なのだそうな。

 正直、あまり加護の欠点みたいなものは見つからなかった。

 だから、出来ればもうちょっとだけ見たいと思わなくもないけど…………安全第一だからね!

 残念だなんて感情は一ミリも湧いて来ず、僕はひたすら安堵ばかりを抱えて村に戻った。怖いもんは怖いんだって……


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