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異世界転々  作者: 赤井天狐
第二章【スロングス】
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第七十四話【人である以上】


 はい、お疲れさん。と、猪……かな、豚かな。ふごふごと鼻息の荒いおじさん漁師にそう告げられて、僕とミラは業務から解放された。

 業務なんて物々しい言い方したけど、内容としては網に掛かった魚の選別と箱詰め。

 小さいのはリリースしないといけないからね、食べられないし絶滅しちゃうから。

 その為に網の目もそこそこ大きくなってるけど、魚同士が引っ掛かってどうしても捕まっちゃうのがいるらしい。って……

「……漁の説明は別にいらないよな……?」

「? アギトさん、どこ見てるんですか? 何かありました?」

 いやいや、なんでもないよ⁈ うん、我ながら今のはなんだったんだろう……謎だ。

 とにかく、これでお仕事はひと段落。日もまだそこそこ高い。となったら……うん、行こう。

「何かあったら良いな……って。行こうか、早いとこ。この街にも…………ね。あんな決まりがあったりしたら……困るしさ……」

「そ、そうですね。エヴァンスさんはきっと時間通りに戻るでしょうから。私達が追い出されてしまったら、間違いなくひとりぼっちになってしまいます」

 一緒に行こうねって約束したばっかりなのに、それはあまりにも酷い話だろう。

 そうと決まれば急がないとね。僕達は木箱を車に積み終えると、そのまま川を辿って山の中へと入った。

 こうすれば迷子にならないで済む。土地勘なんてまるで無いからね、慎重にことを運ばないと。

「ミラちゃんはどう思う? 狸とか猪とか、リスとか熊とか。なんでも良いんだけど、出てくれるかな……って」

「……正直、望みは薄いのかな……と。あの街だけ、あの山だけが特別……と、そう考えるのは……」

 ちょっと無理があるよなぁ、やっぱり。

 となると……本格的に、動物が存在しない世界だ……と、そう仮定する必要がありそうだ。

 はあ……僕さ、結構……好きなんだよ、動物。いえ、魔獣はノーセンキューで。

 猫カフェとかね……もう、すっごい楽しかったしね。

 フルトでティーダと遊んでたのも結構楽しかったし、毎日ミラとじゃれてたのも…………ごほん。

 前回の世界と言い、ここと言い。はあ……寂しい世界にばかり飛ばされてて……

「そろそろ……そろそろ何か、手掛かりが欲しいですね。哺乳類が人類と統合されている……と、そういう世界であると仮定して。その仮定が、果たしてどのような滅びを運んで来るのか」

「っとと、そういえばそういう話だった……ごほん。やっぱり……うーん、食料問題……って、そう考えるのが一番自然と言うか……」

 僕達の常識からすると、やはりそれがベターかな……と。

 ネズミも猫も狼もいない。豚も牛もいない。つまり、虫や植物を食べる生き物と、それを食べる生き物が——食物連鎖の中間がすっぽりと抜けてしまっている。

 鳥とか魚はいるんだけどさ、それだけで足りるとは思えないし。

 となると……本来なら人間ももっとその……虫とか、草とか、もっと言うと微生物なんかを食べられないと、食糧が足りない筈……だと思うんだけど。

「見た感じ、魚の量も知ってるものと変わらないと言うか……魚だけ食べてれば生きていけるって程じゃ……」

「そうですね……やはり本命はそこになるでしょう。他には……ええと、疫病……はどうでしょうか。本来は不衛生と、それに伴うネズミや虫の大量発生が原因ですが……」

 この世界では汚染された食物が、それらの小動物を介することなく直接人間に届きますから。可能性は低いですが、その分致命的なものになりかねません。と、ミラは難しい顔でそう言った。

 疫病……か。うーん……インフルエンザ的な……?

 発生源は少なそうだけど……あ、いや。どうなんだろう。牛と混ざってる人の中から狂牛病が発生したりするのかな?

 あれ、狂牛病って感染るっけ? なんか……牛丼食べられなくなったイメージだけは残ってるんだけど……

「……分解者の消失による環境の汚染……というのもあり得るでしょうか?

 本来は動物のフンから栄養を摂取している生き物も多くいて、しかしこの世界ではそれらが殆ど人間として…………高い衛生意識を持った生き物として生活していますから。

 綺麗になりすぎたが故に、今度は土を豊かにする微生物がいなくなってしまう……と」

「…………ふむふむ……ぶん……ぶんか…………ぶんしゃ…………分解者……ね。うんうん……成る程……」

 ごめんってば……僕、あんまり賢くないんだよ……そんな顔で見ないでよ……っ。

 しかし、なんとなく話は分かった。

 結局のところ、このバランスでうまく循環しない、どこかで足が出てしまう……というのが、他の世界の常識を持つ僕達から見た限界、この世界の終着点。

 だが……果たして素直にそう考えても良いものか。

「エヴァンスさんにも意見を聞かせて頂くとして…………他に、一度学者に会いたいところですね。或いは研究機関か、図書館か。

 少なくとも、この世界の自然科学について知ることの出来る場所へ」

「自然科学……ふむ。ええと…………うん、うん理解し…………しー…………した、うん! 博物館とかだね?」

 そうです。と、ミラはちょっとだけ優しい目を僕に向けてくれた。

 わぁい、もうすっごく泣きそう。頑張ったね、偉いね。って、そう言われた気分だ。

 ぐすん……でも、めげないよ! まあ、ミラには僕を馬鹿にする意図は無いだろうしさ。

 なんと言うか……前提として、僕はそこそこ賢い筈みたいな……マーリンさんの一番弟子だという認識があるからね。

 ボケたこと言ってるなぁ、マーリン様と同じでちょっと抜けてる人なんだなぁ。と、そう思われているのだろう。

 え? 馬鹿にされてる……? 違うやい! ミラはそんな子じゃない! うちの妹は天使なんだ!

「うーん……鳥はいるんだけどね。本当に綺麗に哺乳類だけが…………なんか、カモノハシとかそういう……特殊な奴はどうなんだろう……」

「特殊……ですか。いえ……本来のその動物の大きさに関わらず、哺乳類という括りで統合されている時点で、既に特殊性は内包して見えます。

 私は猫……ですし、アギトさんは犬です。エヴァンスさんは私達よりも一回り大きな狼ですし、街にはリスのような小動物を混ぜた人もいましたから。

 リスと狼が同じ大きさに纏められているというのが、もう既におかしな話かと……」

 言われてみれば……そうだね、大きさについてバラバラ過ぎるね。

 エヴァンスさんは狼が混じってるから大きめ……とは思ったけど、でも…………よくよく考えたらさ、その比率で言ったら、ミラはもっともっと小さくないとおかしい筈だもんね。

 いえ、既に十分ちんまいですが。

 でもさ、そうじゃなくて…………あ、いや。そうかそうか。

「ああ、うん。大きさの話じゃなくて。カモノハシ……って、生き物がいてね」

 知らないんだ、ミラは。知りようがないと言うか、そもそもあの国にはいないんだろう。

 アレがどこらへんに分布してて、いつ頃世界的に認知されたかは知らないけど。取り敢えず、あの国ではロクに情報が得られないとしてもおかしくない。

「……くちばしがあって……水かきがあって……卵から生まれる…………っ⁉︎ そ、そんな生き物がいるんですか⁉︎ 水鳥や魚……両生類ではなく、哺乳類に⁈」

「ああ、うん。えーっとね……どこだったかな……えっと……」

 オーストラリア……だっけ……たしか……?

 変な動物なんて大体オーストラリアって言っとけば良いだろ感、ありません?

 多分……うん、オーストラリア。

 オーストラリアだけど…………ねえよ……っ。オーストラリア……ねえよ……っ!

「……ええっと…………ね、南の方の……大陸で…………いろんな珍しい動物がいて……名前がちょっと出てこなくってね、ごめん」

「かものはし……ですか……他には! 他にはそんな……変な生き物いないんですか⁉︎」

 食いつき方が凄い。

 でもね……ごめんね……っ。コアラとかカンガルーは分かるけど……オーストラリア、あんまり詳しくないんだ……っ。

 カモノハシだってポケ◯ンがキッカケで知っただけだし……ごめんね……っ。

「と、取り敢えず、そういう不思議な哺乳類もいるんだよ……って。だから……うん。そいつは……その、いるのかな……って。

 いるとしたら、まあ……その大陸に相当する場所にしかいないのかもしれないけど」

「…………っ! そういえば……犬、猫、狼。それに羊や山羊、リス、牛……豚。広く分布している動物ばかりです。

 もしかして……人間として生きていくだけでなく、動物として……本来のその動物の生息域に沿って、この世界の人々も生活しているんでしょうか。となれば……」

 寒い地域に行けばシロクマとかいるんかね……?

 ふむふむ……じゃあ、逆に……ええっと、例えばシロクマの特性を持った人がアフリカに相当する環境に移住したら…………っ!

「……もしかして、適応出来ずに死んじゃう人が出てきたりとか……っ! こ、これも……結構大ごとになりそうじゃない……?」

「そうですね……動物は本能的にそれを避けますが、知性が発達すればする程、それを克服しようと……いえ、克服出来てしまいますから。

 それが原因で、本来は交わることのなかった種の動物達が……」

 ま、交わるって……一応この世界では人間なんだから、もうちょっと恥じらいを持って欲しい。いやん、ミラちゃんのえっち。じゃなくて。

 そうだよな……アフリカゾウとホッキョクグマの両親からは、いったいどんな人が産まれ————

「……そもそもとしてさ。その……両親が別の生き物だった場合は……」

「…………どちらかの特性を強く持って生まれるのか、それともそれとは関係無く環境に適性を持った動物を合わせて生まれるのか。

 いえ……そもそも、近縁種同士でしかつがいを作らないようになって…………?」

 つ、つがいって……だから! 恥じらいを持って!

 だが……うん、またひとつの疑問が生まれてしまった。

 あくまでも彼らはみんな人間だ。人間だが……同時に、獣でもある。

 となれば……その特性を完全に無視した行動は取れない。

 人間としての理性や知識、それと野生動物の本能。

 もしかして、それらが反作用を起こすことがこの世界の終焉を……?


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