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異世界転々  作者: 赤井天狐
第二章【スロングス】
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第五十五話【出発前昼】


 へインスさんはお使いが終わると、すぐに自分の持ち場に戻ってしまったらしい。

 いや、そりゃ当たり前なことなんだけど……去り際に言ってたその内って言葉の意味を、僕だけちゃんと理解出来てなかった。

 てっきり帰ってくるもんだと思ってたから、すぐ会えるのになー……とか……ボケたことを……っ。

 そして、それとは別に……

「はい、いっぱい食べるんですよ。アギトさんも、おかわりまだありますからね」

「ありがとうございます、いただきます」

 明日の準備とやらが終わって、エルゥさんとモンドラ兄弟、それにベルベット少年は、そのまま夕食の買い出しに出掛けてたみたいだ。

 そしていっぱい食材を買い込んできたと思えば、今はもう目の前に絨毯の如く広がるご馳走へ早変わりときた。

 うんうん……相変わらずエルゥさんのご飯は美味しいなぁ……マーリンさんと言いエルゥさんと言い、ほんま天使やでぇ……

「ほらほら、ベルベットくん。いっぱい食べないと小さいままですよ」

「ぐっ……べ、別に小さくないし……」

 ちっちゃいですよ。と、なんだか小馬鹿にしたような言い方で少年を煽るエルゥさんだが………………な、なんだろう……ドキドキした。

 なんでかわかんないけどドキドキした、もう一回言って貰っても…………げふん。

 買い出しの間にすっかり打ち解けたみたいで、ベルベット少年は随分エルゥさんに懐いて見えた。うふふ……おねショタ……

「ところで巫女ちゃん、その子はいったいなんなの? ジューリクトン……って言ったら、まあそれなりに有名人だし、アナタの仕事柄を思えば納得出来るんだけど。アギトちゃんは……」

「ん、ああ。説明が難しいんだよね、色々あって。でも……そうだなぁ」

 巫女ちゃん。ふむ、随分可愛らしいあだ名を貰ってますね、マーリンさんも。

 ハーグさんはチビチビとお酒を飲みながら、何やら不思議そうな目で僕を…………ほぉおんっ⁈ だから尻を触るな!

 容赦無いんだよな……この人……っ。どうして初対面の相手の尻を鷲掴みに出来るんだ。

「……もしかして、私とこの子って会ったことあるかしら? うーん……でも、こんな可愛い坊やなんて忘れるわけないし。

 でも……手がね、言うのよ。このお尻には覚えがある……って」

「っ⁈ そ、それは気の所為じゃないですかー……? あは……あはは…………っ」

 ひえっ。文字通りお尻がゾワワっとしたよ。

 いやでも……覚えてるもんなのか……?

 僕についての思い出が全部取り除かれてるってのに、そんなお尻の具合なんて……この言い方すっげえ嫌だな。

 すっごく…………ううっ、鳥肌が……

「…………いいや、君は彼とは初対面だ。彼に似た誰か……という話なら、まあ僕の知り得る範囲を飛び出してしまうからね、それは分からないけど。でも、そこのアギトという少年とは初対面で間違いない」

「……ふぅん。随分含みのある言い方ね。巫女ちゃん、アナタ……何企んでるの?」

 ピリッとした空気が僅かに僕のお尻を…………どええっ⁉︎ だから尻を触んな!

 空気がピリッとしたのは背中! 背筋も凍る…………それもコイツの所為じゃい!

 だから尻を揉むな! 脚をさするな!

 くそう……こんなボケたことやってるクセに、妙に張り詰めた空気を出しやがって……っ。本当に何者なんだ…………

「企むだなんて大層な話じゃないよ。でも……そうだね。君には色々恩もあるし、関係の無い話じゃないからね。ちょっとだけなら教えてあげるよ。

 教えてあげるから…………悪いけど、その子にはあんまり手を出さないであげて。

 見ての通り拒めない子だから、流されるままになって困ってしまってるよ」

「んもう、意地悪言って。でもそうね……そういうことなら聞いてあげる。聞いた上で判断するわ、今晩この子を抱くかどうかは」

 えっ? 誰もそんな話して無かったよね⁇

 あれれー? おかしいなー、聞き間違いかなー?

 えっ…………えっ⁈ もしかして今、僕の貞操に危機が迫ってません⁈

 夢中でご飯を食べる少年と、それを見て和むエルゥさんとレイさん。

 そして……妙に勿体付けるいつものマーリンさんと、不穏な表情で僕の股間に手を………………どっっうぉおおおおああぁぁっ⁈

 やめろお前! ふざけんな! やって良いことと悪いことがあんだよ! 世の中には‼︎

「……その子の名前はアギト。よーく覚えておきたまえ。世界を救った勇者の名だ、世界を救う勇者の名だ。

 或いは無関係では済まないその男は、君達にとって大き過ぎる祝福となるだろう」

「世界を……ね。それは…………また、星見の話? それとも……」

 確信さ。と、マーリンさんは笑って、そして優雅にカップに口を付けた。

 まだ湯気の立つ紅茶をぐいっと…………ああっ、思いの外熱かったって顔でビックリしてる。

 湯気出てんだから分かるだろ、このポンコツ。

 どいつもこいつも緊張感のカケラもねえな…………っ。しかし…………

「分かったわ。何も分かってないし、納得もいかないけど。でも……うん、分かった。ワケありなのと、あんまり掘り返して欲しくないことは」

「ありがとう、ハーグ。君が優秀で助かるよ。まだ巫女の立場にいたなら連れて帰るところだ」

 良いけど、高いわよ。と、ハーグさんは僕のシャツの中に手を…………だからさぁ!

 やるなら僕じゃなくてマーリンさん………………だと、シャレになんないか。僕もシャレになってないよ!

 必死で逃げ惑う僕に、ごめんね。と、ハーグさんは悪戯っぽく笑って離れていった。

 いや、全然可愛くないが。ムキムキの坊主頭にウィンクされても可愛くないが⁈

 はあ……マジでこの人苦手だ……めっちゃ良い人なのは分かってるけどさ……

「そういう訳だからさ、今晩だけひと部屋丸々貸して欲しい。エルゥちゃんと一緒に寝られないのは寂しいけど…………寂しいな…………うーん…………どうしようかな……」

「揺れないで。マーリンさん? 何悩んでんの? この煩悩の化身!」

 冗談だよ。と、マーリンさんは…………凄くしょんぼりした顔で、エルゥさんを見ながらそう言った。

 冗談じゃねえ……どうしてこんなポンコツにみんなの記憶が懸かってるんだ……っ。

 くっ……どこ行ったんだよ……一緒に魔王と戦ってくれたあの頼もし過ぎる大魔導士は、どこに行っちまったんだよ…………っ!

「ひと部屋……それは大丈夫ですけど、その……アギトさんとふたりきりで……ですか?」

「うん。ああ、安心して欲しい。この子は奥手も奥手、超が付く程のヘタレだから。何も起きない、起きようがない。

 それとは別に、根っからのお人好しだから。エルゥちゃんやみんなに何か危害を加えるようなこともしないさ」

 なんで馬鹿にした? ねえ、なんでそんなに僕のこと馬鹿にしたの⁇

 くそぅ! グレてやる! こうなったら毎晩毎晩コンビニの前で無駄に居座ってやる。風邪引いたって知るもんか。

 え? やることがこすい……? 寧ろ手出しせずに逃げてるから尚のことヘタレ……っ⁈ そ、その発想は無かった……

「……マーリンちゃんがそう言うなら……良いですけど……うーん。マーリンちゃん、やっぱりどこか宿を取りましょうか? そっちの方が……」

「ああ、違う違う。うーん……君のことは随分分かったつもりになってたけど、僕の想像を簡単に越えていくね。ミラちゃんみたいだ」

 えへへ、そうですか? と、嬉しそうに笑うエルゥさんだが…………それ、褒められてます? いや、別に良いんだけど。

 マーリンさんの想像を軽々越えていく女、エルゥさん。

 彼女を前にしては、男と女がいるというだけでもうちょっとしたスクープになってしまうらしい。相変わらずのお花畑脳……

「…………マーリン。何か手伝うことはあるか?」

「ん? 珍しいことがあったもんだ、お前が自分から手伝いを名乗り出るなんて。

 でも……大丈夫、心配しないで。大地の魔女をあまり甘く見ないことだ」

 別に……っ。と、ベルベット少年はそっぽを向いて…………ツンデレだね、ツンデレショタだ。

 ふむ……いえね、おねショタはすごく好物と言うか……っ。

 で、でも……NTRは地雷…………それだけは許さない…………っ!

 揺れている……僕の中で、マーリン×ベルベットがアリかナシかで揺れている……っ。

 見たい……でも…………やっぱり他の男の物になるのは嫌なんだよぉぉおん‼︎

 はい。それは良くって。

「……良い顔だ。頼んだよ、勇者」

「っ。はい」

 ゆるゆるふわふわと和やかに話は進んだが、要点を掻い摘んだなら……何のことはない。

 今夜にはこの場所で、召喚術式を展開するってことだ。

 だったらもうふざけてられない、今からしっかり気合い入れていかないと。

「ごちそうさまでした! エルゥさん、美味しかったです。今日は早めに寝るんで、先にシャワー借りても良いですか?」

「はい、お粗末様でした。シャワーでしたらいつでも使ってください。外仕事も多く取り扱ってますから、皆さんが利用出来るようにしっかり準備してあります」

 あっ、そういう感じなんだ。

 なーんだ……じゃあ、うっかりエルゥさんと鉢合わせしてむふふなハプニングが! みたいなことは起きないのね…………気合い入れろって言ったばっかなのに……っ。

 と言うかそういうのは、大概筋肉(ハーグさん)オチってのが常識だ。

 ラッキースケベは望んだものには訪れないのだ。

「うん、じゃあ僕もさっさと準備しちゃおうかな。ご馳走さま、エルゥ。相変わらず元気になる味だったよ」

「えへへ。じゃあ、私も早めに準備しますね。えへへー、ブラシブラシーっ」

 ブラシ……? なんだか楽しそうにマーリンさんのことを眺めるエルゥさんだが…………ブラシ…………ああ、ブラッシング。

 何……マーリンさん、ひとりでこんなとこ来てると思ったら、ブラッシングプレイ(?)なんて業の深いことしてたの……貴女……

「…………? うん? アギト、どうかした…………?」

「いえ……別に……」

 そんな特殊プレイ……特殊…………み、見てえ……っ!

 エルゥさんに翼を優しく撫で撫でして貰って気持ち良さそうにしてるマーリンさん…………見てえ…………っ!

 めっちゃ早めにシャワー浴びよ、さっさと部屋に戻ろ。

 気合いを十分に入れて汗を流し、髪がビシャビシャなのも気にせず部屋に飛び込むと…………ベッドの上に仲良く並んで、ザック達にブラッシングをしているふたりの姿がそこにはあった。

 ぐっ…………ぐうぅぅ…………これはこれでッ‼︎ 尊‼︎


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