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異世界転々  作者: 赤井天狐
第一章【無垢な世界、少女の記憶】
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第十八話【誘引】


 謎の棒を手に入れて、それを解析して……という話だったのだが、僕はどういうわけか小雨の降る中を、何度も村や川へと使いっ走りに出されていた。

 やれ土器を借りて来てくれだの、水を汲んで来てくれだの。

 そしてお湯を沸かしている間に、今度は海の水を汲んで来てくれだのと……ひ、人使いが荒い……っ。

 だけど……このくらいしか役に立てないんだから……

「お、おまたせ……汲んで来たよ……海水……」

「お疲れ様です。それも同じように火に掛けておいて下さい」

 う、ういっす……ひぃん、塩対応。

 ミラは何やら真剣な表情で…………何してるのかは分からない。

 あれが魔術なのか錬金術なのか、それとも僕の知ってる理科の範囲の実験なのか。

 分からないけど……すごく真剣で、楽しそうな顔をしていた。

 何するものかも分からないような汚らしい枝に、ミラは宝物でも見る目で向かっている。

「アギトさん、火に当たって暖まったら小屋に入っていて下さい。もう少し時間が掛かりますから、外にいては風邪をひいてしまいます」

「その気遣いをもうちょっと早く……………………ごほん。ありがとう、ミラちゃんも無理はしないでね」

 返事は無かった。凄く……すっごく集中している。よほど神経を使う作業なんだろうか。

 沸騰させた川の水……えっと、真水? 淡水? に、例の木の枝を突っ込んで、そうしている間にもアレコレといつの間にやら拾い集めていたらしい枝やら石やらを…………なんか、おままごとしてるみたいだな。可愛い。

「……それがままごとなら手伝えるのに」

 ミラがやってるのは多分……と言うか十中八九、僕には手の出せない分野、錬金術なんだろう。

 石や木の枝で遊んでる子供にしか見えないのに、その手伝いが僕にはひとつとして出来ない。

 歯痒くもあるけど……それより、流石だなあって感情の方が大きかった。

 うちの妹は国でもトップクラスに優秀な術師なんだから。

「…………よし。じゃあ……邪魔しないようにな…………」

 なんと情けない兄なのだろう……ぐすん。

 体も十分に暖まったから、僕はミラの集中を阻害しないようにこっそりと小屋へ戻った。

 僕がうろちょろしたくらいじゃなんともないのは分かってるけど、邪魔はしたくないからね。

 うう……小屋の中寒いなぁ、暗いなぁ。寂しいなぁ……っ。


 ドアから外の様子をしばらく見守り続け、そしてちょっとだけ眠たくなって来た頃にミラは動いた。

 分かりました! と、凄く嬉しそうな顔で僕を探して……でへへ、お前は本当に可愛いなぁ。

「結局なんだったの、その……斧? に使われてた石って……」

「信じがたい話と言いますか……いえ、この場合は隠れていた事実が浮き彫りになったと言うべきでしょう。付着していた組織からは、微弱ながら磁性を確認出来ました。それに加えて……」

 なるほどなるほど。と、僕は何度も何度も相槌を打つ。

 それしか出来ることが無いからではない、決して。ぐすん……何言ってるかわかんねえ……っ。

 ミラは僕がマーリンさんの一番弟子だと信じているから、当然このくらいは分かるものとして語ってるのかな……ごめんな……ポンコツな兄弟子で……

「……結論としては、非常に硬度の高い火山岩で作られていた……ということが判明しました」

「火山岩…………ってことは……この島ってもしかして」

 まず間違いないでしょう。と、ミラは力強く頷いた。

 火山岩って……あれだよね? その……………………あのー…………火山の……岩……っ。

 うるせえ……多分習ってないんじゃい……小学校では習ってないんじゃい…………っ。

「それも噴出した溶岩か、或いは火口付近で採取されたものかのどちらかである可能性が高いです。しかし…………」

「……溶岩って言っても……火山なんて見当たらないと言うか……」

 僕達がこうして拠点を構えているこの山が一番高くて、あとはゆるゆると低くなって海まで平野が広がっている。

 となると……この山が火山ということになるのだろうけど、火口なんて見当たらないし、よしんばこれが火山だとしたら……

「既に火口は埋まってしまっている……ということなのか。それともまた別の島から持ち込んだものなのか。

 後者は……中々考えづらいです。目と鼻の先にある島からの移住ならばともかく、私の目からではそうすぐに辿り着けるような島は見当たりません。

 石器を使っていた……となれば、まださして文明も発達していないでしょうから。

 それに相応しい造船技術となると……不可能と言わざるを得ません」

「じゃあ……ええっと」

 あの切り株はやっぱりかなり昔に切られた……ってことなのかな? と、僕が尋ねると、そう考えるのが妥当でしょう。と、ミラは渋い顔で頷いた。

 まさか本当に、この世界の樹木は腐らない……なんて話じゃ……

「……勿論、現在火山活動が休止しているからと言って、かつて流れ出た溶岩を採取することは不可能ではありませんから。

 何十年……何百年も前に麓まで流れ出た溶岩が冷えて固まって、今の村の人達が採取したというのは十分にあり得る話です。ですが……その場合はやはり……」

「村の位置と木を切った場所とが離れ過ぎている……と。うーん……結局振り出しかぁ……」

 前に進んだことも勿論ありますよ。と、ミラはちょっとだけ明るい声色でそう言った。

 そうなの? なんて言うか…………話を聞く分には、苦労して解析したけど、それが当たり障りのない石器だった……って、そう聞こえたけど……

「少なくとも、ここが火山だということが分かったんですから。となれば……対策を立てるべき危険について、候補を挙げることが出来たとも言えるでしょう」

「……噴火した溶岩に村が飲み込まれて……ってこと? いやでも……その場合ってさ……」

 この小屋に寝泊まりしてる僕達の方が危なくない? 塞がっちゃってるらしい火口に一番近いの僕達でしょ?

 と言うか……結局この結論に戻るのだが、ここの村が噴火で全滅してしまったとしても、それがイコール世界の滅びとはならないんじゃないかな……?

「他に人類がいないとかなら分かんないけどさ、この小さな村がひとつ無くなったくらいじゃ…………あれ?」

「どうかしましたか?」

 あ、いや……えっと。なんだろう、なんか嫌なこと言った気がする。

 自分でも良く分からないけど……なんだか絶望的な言葉を…………

「…………もしかして……だけどさ。僕達が守るべきものってあの村……なのかな? この島の外では実はとんでもない病気が流行ってて、もう人類がこの島にしか残ってなくて…………なんてことは……」

「…………ふーむ、どうでしょうか。見に行けないので、それを否定することも出来ませんが……」

 その場合は、私達が何をしても絶滅は避けられません。と、ミラは諦めた口ぶりで首を振った。

 ま、まあ……そうだよな。僕達が何したって、ここにしか残ってない……それも少数しかいない生き物なんて、何かの拍子に絶えてしまってもおかしくないもんな。

 なんだろう……えらい上から目線になってる気がした。

 うう……世界を救ってこいなんて言われてる所為で微妙に感覚が変だよぅ。

「……でも、もしその場合は厄介ですね。その……これっきりじゃないんですよね、この召喚って。この先にも救いようのない終焉を前にしている世界へ行く可能性があるとすると……その、とても手に負えるものとは……」

「ぐっ……そ、それも確かに。そもそもふたりだけで世界救ってこいってのも変な話なんだけど……」

 いかん、愚痴が始まる。

 切り替えよう。と、手を叩いて、僕は実験の片付けをするようにとミラを促した。

 土器を返してくるから、その間に火とかの始末をよろしく……って、また山道……

「っと、そうだ。これ、もうちょっとだけ借りてても良いか聞いてくるね。

 いや……思い知った、土器必要。少なくとも何らかの容器を手に入れるまでは借りたい所だよ……」

「そうですね……粘土の採れる場所を聞いて、晴れた日に作ってみましょうか。釜は無いですけど、火力調整なら得意ですし」

 本当に便利、人間火炎放射器。火炎放射どころの騒ぎじゃねえな、文字通りの人間火力発電所だ。焼肉食べたい……っ。

 じきに日も落ちて暗くなりますから、気を付けて行ってきてください。と、ミラに見送られて、僕は土器を両脇に抱えて小屋を離れた。


 村へ向かい事情を話すと、ひとつだけならと土器の貸し出しを快諾して貰えた。有難い話だ……っ。

 そうだ、ついでに粘土の採れる場所を聞きつつ……

「……あー……っと。それから、石器に使うような石って……」

「石? そんなのどこにでも落ちてるだろう」

 どこにでも……か。

 あの石器とこの人達の使っている石器とが同じ物なのかどうか、なんとかして確かめたいものだ。

 えっと……同じ種類の石で出来てるのか、じゃなくって。

 同じ場所で採れた石を使っているのかどうか。あの石器は——あの切り株は、この村と関係があるのか……という話。

 ありがたくお借りしますと頭を下げて、僕はかめを持って小屋への道を急ぐ。

 雨もちょっと強くなってきたし、暗くなってきたし。危ないからと急いでいたのだ。

 急いでいた……のだが…………

「————?」

 不意に嫌な予感がした。

 僕の直感なんてさしてアテにはならないけど、してしまったからには足を止めざるを得ない。

 この土器が何か……? と、飾り気の無い日用品としての瓶を睨んでも何も無い。

 てか流石に疲れてるしちょっと重い。早く持って帰って置いてしまいたい。

 これじゃない……じゃあなんだろう。

 違和感と言うか……引っ掛かるような……

「…………アレか……? せっかく瓶を借りたんだから、水を汲んで帰れよこの馬鹿野郎……的な……?」

 うん……それは……今気付いたけど、間違いない。何の為に借りたんだってなっちゃうし。

 うん……だから川へ…………ああ、そうか。

 雨で増水してるから危ないんだ……って、さっき実験用の水を汲んだ時に気を付けようって……

「——違う。なんか見落としたぞ。しっかりしろバカアギト。お前何見つけたんだよ……っ!」

 胸につっかえていた違和感が大きくなる。

 頭の中にさっき見た川の映像が流れてから、一気にもやもやが大きくなった。

 何かあった、何かがあった筈だ。そう本能が訴え掛ける。

 でも……いったい何が…………

「……っ!」

 分からない。分からないなら……確かめるしかない。

 現地に着いた頃には、何に違和感を覚えたか忘れてた……なんて痴呆の始まりみたいなオチはやめろよ……?

 大事な大事な瓶をぎゅっと抱えて、僕は雨の降る中帰り道を逸れた。

 はっ⁈ 雨が強くなってるな……川の様子を見てくるぜ! って……これまさか死亡フラ————っ⁈


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