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異世界転々  作者: 赤井天狐
異世界転々
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第四百九十話


 荷馬車の護衛は滞りなく完了しました。魔獣の発生、野盗の出現は無く、王都周辺もいたって平和な様子です。王様を前に僕は淡々と成果報告をあげる。

 お願いごとも大事だけど、こっちも大事。

 王様の命令だとか勇者の資質だとか以前に、人々の安全を確保するって意味で。

 何ごとも無かった、だけで終わらせるのも少々無責任……無責任ってのは変だな。僅かなことでも改善や補修の提案はした方がいい。

 形の上でやる気を見せるってのもひとつ。それと、これまでにマーリンさんが教えてくれたことをサボらないってのが大切。

 街の在り方、仕組み。人々の生活。僕らはそういったものをいちいち気にするように教わってきたし、きっとそれは誰かに認めて貰う上では大切だろうから。

「……報告は以上です。王様、それとは別に相談……お願いがあるのですが、お聞き頂けますでしょうか」

「願い、とな。よい、話せ」

 ミラと出した結論は、今日の一回でいきなり成果を上げるのは諦めるって方針だった。

 最優先事項は街の安全確保。

 僕らの勝手を押し通す為にいくらか嘘をついて、それが見過ごされて街の外へと捜査に行けたとする。

 けれど、その先で何かが解決する保証は無くて、人を借りるんだから引き換えに何かの仕事に遅れが出かねない。

 まあそれでも人手は足りてるだろうけどさ、こんだけ大勢の騎士やら衛兵なんかがいると。

 だけど、そうやって環境にあぐらをかいて、大丈夫だろうって慢心して。そんな気持ちでいたんでは、それは勇者とは呼べない。国中の人々を惹きつける魅力を持ち得ない。

 これもまあ……マーリンさんとの約束だから。

「先日街外れで確認された鎧……太陽の紋章を持った騎士の遺体の件、既に報告は受けていらっしゃいますでしょうか。その件について、どうか私達に街の外を捜査させて頂きたいのです」

「報告は上がっておる。そしてその件に対して、第一発見者である其方達が思い入れを持つのも理解出来る。だが、やはりそれはならぬ」

 分かってる。王様の立場を考えれば、これを受理するのはほぼ不可能だ。

 本人の感情は関係無くて、立場と周囲の納得の問題だ。

 僕らはこれでも一応来客扱いで王宮に住まわせて貰ってる。

 そんな客人を、それも巫女様の連れて来た勇者の候補ともされる重要な人間を危険に晒すわけにはいかない。

 実力を推し量ってるってことは、まだ僕らの能力は認められてないんだから。

 それと……結局、僕らは部外者だから。

 あんまり引っ掻き回されたくないと考える役人や議員も多いだろう。

 僕らの活躍は、同時にマーリンさんの立場を良くするものでもあるから。彼女が議会で良い目で見られてない以上、これもしょうがない。だから……

「どうかお願いします。その手法には覚えがあるのです。私達が旅の間に幾度と無くぶつかった、魔人の集いと名乗る集団のものと酷似しています。その危険性を良く知っているからこそ、やはり早く手を打たねばならぬと。僭越ながらそう進言させて頂く所存です」

 断られると理解しているって、諦め半分だって姿は見せられない。それもまた悪手になるからだ。

 僕らの怠慢や失態はマーリンさんの評価に繋がる、これはずっと気にしてきた。

 評価が悪くなるとあの人の軟禁が解かれるのが遅れてしまいかねなくて、そうなったら更に連中を追う手立てが無くなってしまう。

 一刻も早くマーリンさんとの合流を果たす。

 会いたいから、大好きだからじゃない。

 勇者として、偉大なる指導者の指揮を取り戻さないといけないんだ。

「捜査——と口にしたが、其方達にはその者達の足取りは掴めているのか。その危険を排する手立てが、街を守る算段があると」

「……それは……ありません。私達は旅の間も常に後手を引かされてきました。私達自身が、或いは近くの街が。襲われて初めてその存在を認知し、そして対処してきました。

 不透明な組織です、私達も一部の人間の顔しか知りません。その目的も、動機も。殆どが未だ不明ですが……やはりその危険性は無視出来ないと。

 これは道中、巫女様と出した結論でもあります」

 ちょっとだけの嘘を交えつつ、僕は全力で王様に頭を下げる。

 どうか街の外に出る許可を。人を貸して欲しい、とは今日は伝えない。

 具体的な案が纏まるまでは気軽に口にしない方がいいだろうって。

 何も決まってないけど人は貸してくれってのもまた図々しいかなって、これもミラとふたりで悩んだ末にそう決めた。

 先に伝えた方が良いんじゃないかってずっと迷ってたけどね……

「……其方達の熱意は伝わった。その組織の危険性も、街を想う気持ちも。

 しかし……やはり許可は出来ぬ。街は……王都は堅牢である。其方達ふたりの力を借りた程度で解決する問題ならば、もとよりこの街を傷付けるに至りはせぬ。

 其方達はこれまで同様、その資質を示すが良い。その暁にはまた、魔人の集いの対策を其方達に依頼しよう」

「…………承知しました。しかし、もうひとつだけ。

 連中には切り札が少なくとも三つあります。

 圧倒的な武力を誇る戦士と、馬ではなく機械に引かせる多用途な戦車。

 そしてそれらの指揮を取り、更には魔獣を従えているであろう術師がいます。

 確かに個の力でしかありませんが、街ひとつを攻め落としかねない危険な存在です。

 どうか外周の警備を更に強固なものにして下さい。

 本日目の当たりにして、その守りが如何に固いかはよく分かったつもりです。

 ですが……まだ。魔人の集いの底はまだ見えていないと、そう感じるのです」

 魔人の集いの、その実力の底は本当に未知数だ。

 少なくとも僕らは、その術師を目にしていない。白衣のゴートマンに契約術式を仕込んだ者と、魔獣を使役している者と、そして例の……魔法使いかも知れない者。

 それらが同一であるか否かも定かではなくて、そして他の引き出しを持っているのかどうかも分かってない。

 それに、契約術式の効果があれほど高いのであれば…………っ。

「街の外を知る其方達の進言だ、ありがたく受け取らせて頂く。必ず街の守りに更に手を加えることを約束しよう」

「っ。ありがとうございます。では、失礼します」

 少なくとも、ゴートマンという名前はあの男だけのものではない。

 魔竜使いを失って、それを引き継ぐ形で白衣の男が名乗っているわけではない。それはかつて立ち寄った村で目にしている。

 あの場にいた荒くれ者全てがゴートマンであると、白衣の男は口にしていた。

 ならばやはり……他にもあの化け物じみた戦士がいると考えて然るべきだろう。

 ミラですら正攻法では敵わないような相手を……契約術式で強化された狂戦士を、連中は増産しているかも知れないのだ。


 僕らはその後、また部屋へと戻っていた。

 王宮の外に……街に出て、昨日出来なかった観光の続きをしても良かったんだけど…………まあ、先にやらなきゃいけないことも多いしね。

 どうやって王様を説得しようか。マーリンさんとの面会を果たしたとして、それでもやはり街の外へ出る許可は簡単には降りないだろう。

 色々考えたけどさ、政治的な都合を。そういうの抜きに、そもそも僕らが勝手にどこかへ行ってしまいかねないって状況は作れないよね。

「……うぷっ……疲れて…………なんか余計に気持ち悪くなってきた……」

「本当に肝の小さい…………まあ、今日はよく頑張ったんじゃない? 満足して良いレベルにはなかったけど、でも普段を考えたら上出来よ。吐くなら早く吐いちゃって来なさい。考えるわよ、次の手を」

 なんて冷酷な……うう、お前ってなんか偶にめちゃめちゃ僕に厳しい時あるよな。

 いつもいつも甘えん坊でじゃれついてばかりだから…………尚更…………ひぐぅ……泣いちゃう……っ。

 ま、今回ばかりは泣き言言ってる暇も無いか。

 次回……明日か、それとも明後日か。ともかく早いうち二の矢は放つ。

 次はマーリンさんとの面会をお願いしなきゃな。

 となると……うーん、やっぱり対策を練る、今までの情報と今回の件を検討するって方向で行ってみようか。

 結局、連中のことは僕らとマーリンさんが一番知ってるから……唯一知ってるとも言うけど。

 だから、確実とまでは言わないけど、より良い対策を取ろうと思ったら、やはりマーリンさんの力は欠かせない。

 そこをうまいことプッシュして……

「……しょうがないし、実際頼りになるんだけどさ…………こう、マーリンさん頼み過ぎてちょっと情けないな……」

「そうね…………頼もしい方だけに、やっぱりこの場にいない事実が大きくのしかかってくるわ。あんまり良い傾向じゃないのは分かってるけど……」

 うん、何回も何回もおんなじ結論に至ってしまう。僕らはちょっとマーリンさんに頼り過ぎてるな。

 頼もしいからとか、僕らの経験不足がとかもさ、そりゃあるんだけど…………うん。

 あの人……頼らないとそれはそれで拗ねるからね…………っ。

 子供扱いするなと言いながら、子供みたいな性格と見た目してるし。

 かといって実際の年齢相応に扱おうとすると………………っ。

 お、思い出すな…………っ! ふぐっ…………ぐおぉ……ダメだ、あの時の恐怖映像が頭に焼きついちゃってて離れない。

 フリードさんのフリードさん、ちゃんとまだ使えるかな…………

「……うん、次はちょっと無しにしよう。俺達だけでもうちょっと悩んで、ある程度結論を出してから。会えるにしても会えないにしても、そっちの方が絶対に良い」

「……ちょっとだけ悠長にも感じるけど、でもしょうがないわね。あの鎧みたいのが街中に現れたりしたら、そりゃパニックにもなるでしょう。けど……現実的に考えて、それだけじゃ街は揺るがない。王様の仰った通り、この王都はとても堅牢だもの」

 良くも悪くも時間はある。これもまた、今までみたいな課題のひとつだと思って、僕らはとにかく頭を抱えながら歩くしかない。

 はあ……うん、分かってます。何も前には進んでないです。

 でも……一歩先に地面があるって確認出来たと思えば、明日はその一歩を踏み出せるから良いのだ。

 もう無理矢理にでも前向きに考えないとやってらんないよ…………はあ……


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