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異世界転々  作者: 赤井天狐
異世界転々
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第四百七十六話


 街の構造はなんとなく分かった。王宮を中心に広がる街並みは、どうやら役割ごとに区画分けされているようだ。

 王宮に近ければ近い程、それは施設……公的なものである。

 役所や警察、裁判所のような公的施設が、王宮を囲む壁に最も近く、そのすぐ外に繁華街が出来ている……んだと思う。

 四分の位置も見てないからさ……なんとなく同じような作りなんだろう、同じであればみんなが使いやすいだろう、管理しやすいだろうと、そういう憶測でしかない。

 そしてその繁華街を抜けると、今度は住宅街へと辿り着く。

 建物の多くはコンクリート造りで、そして何より目を引くのが、全ての家々が、まるで整理整頓されたように綺麗に門戸を並べていることだ。

「企画して建てられているんでしょうね。或いは建物自体を先に作って、そこに入居者を募集しているとか。黙っていても人が集まる街だもの、空き家になって困るなんてケースはそうそう無いんでしょう」

「それにしたって気味が悪いくらいだけどな……」

 気味が悪い。それを僕が口にするのもよく分からない話だ。

 どちらかと言えばこちらの方が馴染み深いのだ、僕は。僕の知ってる住宅街とは本来こういうものだ。

 景観を損ねないだとか、日照権だとか、それに土地の権利だとか。

 多分道路ありきで並べられてるんだろうけど、基本的に家……駐車場なんかも含めた敷地っていうのは、綺麗に並べられてるものだ。

 先に建物を作るって話も当然、アパートやビルに入居者募集やテナント募集が張り出されているのをよく見かける。

 もっとも、それはあっちの世界のお馴染みに限らない。別にアーヴィンだって家は割と綺麗に並んでいたし、他の街だって似たようなものだった。

 けれど……ミラが言いたいのはきっと、その管理を街がしているんだろうってこと。

 家はあくまでも個人資産、土地を前の所有者から買い取るか借りて建てるのは当然にしても、家を公的に貸し与えられるのはあまり多くないのだろう、他の街では。

 貸し宿みたいな制度は多いんだけどね。いつもお世話になってます。

「……家……か。アーヴィンに戻ったら、自分の家……とまでは言わないけど、せめて部屋が欲しい……」

「何よ、私達の家ならあるじゃない。不満なの」

 めちゃめちゃ不満だよ。とは口にしないでおいた。ミラもそれは分かっている、分かっているし…………本人も同じ考えな筈だ。

 あそこは本来役所だ、人が住むところじゃない。

 追いやられたミラが仕方なく住んでいたってだけで、本当は神殿で暮らしていて当然なのだから。

 そういう面でちゃんとした家が欲しいっていうのと…………もうひとつ、大切な理由があって。

「……そうよね、ちゃんとしなきゃね。私達が帰って、市長になったとして。あんなボロボロじゃ仕事にならないものね。綺麗にしたって結局雨漏りも隙間風も解決するわけじゃない。大切な書類も傷んじゃうわ」

「大切な場所だからな、ちゃんと仕事をする場所として生まれ変わらせてやりたいよな」

 本来の用途を取り戻してやりたい。大切な家だから、思い出の詰まった場所だからこそ、僕らはあの場所に住み続けるわけにはいかないのだ。

 相当年季も入っていたであろう上に、きっとレアさんの一件があってからはロクに使われてなかったんだろう。

 ミラも街に溶け込むのに必死だったから、あんまり管理に手が回らなかったんだ。

 もうあれじゃあ仕事にならない。僕らだけじゃない、ちゃんと人を集めて役所として機能させるには、きちんと整備し直さなくては。

「……と、建物自体は大工に頼むとして。内装をどうするかだよな。照明……欲しいよなぁ。最悪、建物一棟分ならお前の電力だけで賄えるだろうし、導入もありかな」

「アンタ、人をなんだと…………まあでもそうね。アーヴィンに発電所を、とは考えてるわ。でも……結局電気を作っても、今のあの街じゃ使えないのよね」

 まあ家にコンセントが無いからな。その為に工事をするとして、その便利さを知らない住民が進んでお金を払ってまでやるかという話で。

 あー……そういやマーリンさんとこんな話もしたな。

 そっか……便利だってみんなに証明しないと作っても売れないのか。

 そうだよ、売るんだよ。例え便利だと分かって貰えても、無しの生活で困ってない以上、導入までに時間が掛かるのは当然なのか。

 その間は電気作り損だもんな……そりゃ潰れるわ……

「……ならさ、宿を建てたら良いんじゃないか? 難民の受け入れも兼ねて、大勢が泊まれる宿。そこで電気を使ってみて、便利だぞーって普及していくんだ。いつか宿を出て自分の家を持つときに電気を引いてくれる人が出るかもしれないしさ」

「それはありだけど……問題は、アーヴィンですぐに使えそうな電気を使う家具があんまり無いことよね。照明球は筆頭として、あとは時計とか。ゼンマイを巻かなくて済むのは、ちょっとのことだけど大きなメリットよね。それと……」

 うむ……うーむ……確かに。冷蔵庫……は無い……無いのかな? あっても作るのにまた別の技術が必要になるし。

 洗濯機、テレビ、掃除機、エアコン。電気があれば使えるってものは、電気が無いから開発されていないのだ。

 電気を導入して……それから……ううむ。僕が向こうで作り方……簡便的な家電の仕組みを勉強してこっちに持ち込むか……?

 それ自体はありだけど……なんか、そんなイカサマで発明王みたいな扱いされても嬉しくないし、罪悪感で苦しくなりそう……

「照明球だけでも便利にはなるんだけどね。ランタンよりもずっと明るいし、部屋全体を明るく出来るし。でも……暗くなったら寝るってのが当たり前で、暗くなってからも何かをしたいって人がいなきゃ意味が無いのよね」

「技術は需要の元にってやつか。うーん……」

 それもマーリンさんが話してくれたな。

 アレコレと悩みながら歩き続け、僕らはいわゆる雑貨屋の前で足を止めた。

 ここに何かヒントが落ちていないものか、とかそういうんじゃない。

 これは一種の習性のようなもので、取り上げられてしまった魔具の代わりを、新しく作る為の材料を求めてふらふらと吸い寄せられたのだ。

「入ったはいいけど、今の……これからの私達に必要なものって何かしらね。ポーションは作りたいけど……」

「武器の類は必要無い……っていうか、バレたら困るから作っても使えないんだよな。そうなったら……あんまりここに来た意味も無いんじゃ……」

 別に武器に見えなければいいのよ。と、ミラはどこか悪巧みをする顔で言い放った。なんて悪い子だ。

 けれど……ううむ、そんなのあるの? というか武器じゃない……日用品とかは作れないんですか。

 それこそ照明球みたいなさ、使い捨てのライトとか…………あるじゃん、ライトなら。

「そうだよ、そーいやあったんだよな。前にガラガダで俺に持たせたあの……あのー……ピカーって光るやつ。あれってまた作れないのか?」

「ああ、そうね。うーん……作れないことはないけど……ちょっと材料がね……」

 手に入りにくいものなのか? と、問うと、ミラは苦い顔で目を逸らしながら、そんなところ。とだけ答えた。

 何かやましい理由があるのだろうか……? めちゃめちゃ高価なものだとか。

 よく考えたら、しばらくはまだアーヴィンで生活する必要があったのに、旅に出たときにはほとんど無一文みたいな状況だったんだ。

 どこかで……そう、ガラガダへ行く時の準備でお金を使い果たしたなんて可能性もあり得る。

 そっか……あれってそんなに良いものだったのか……それをまだ会って間もない僕の為に……っ。なんて話じゃないんだろうな。

 高いなら高いから無理ってハッキリ言うだろうし。となったら……

「…………まさかとは思うけど危ないものじゃないだろうな……?」

「ち、ちがうわよ! 危なくはないの! ちゃんと安全に配慮して作ったんだから! 一応錬金術なんて知らないど素人に持たせる為に作ったんだから、そこはちゃんと考えてるわよ」

 それについては心の底から感謝してるよ。感謝してるけど、それをお前、何も説明してくれなかったんだからな?

 言われるまで何を持ってるのかも知らなかったんだから。ってなったら……うーん、他に理由…………作った?

「…………もしかして、あれもお前のオリジナルか。そっか……認可がないと作っちゃいけないんだっけ」

「……そうよ、そういう話だったでしょ。この街じゃなきゃ構わないんだけど」

 いや、構え。この街限定で禁止されているって話じゃなかった筈だぞ? この国のルールだった筈なんだけど?

 安全性の為に認可されていない武器の類は作っちゃいけないって。薬品もしかり。

 魔力で動く魔具と違って、あれは薬品を混ぜた時の反応で光らせてたっぽいからなぁ。いや、その違いもよく分かんないんだけどね? よく分かんない…………

「……あーっと、もしかしてアレか? アレは錬金術か? 昔言ってたよな、魔術……天術は熱とか空気とか、形を留められないものを……とか。ポーションが錬金術の分野ならアレも……」

 あー、なるほど。なんとなく理解したかも。

 一応、魔術も錬金術も、この旅の間に腐る程目にして来たからな。

 いや、仕組みは知らないよ? でも……なんとなーく、錬金術に使うものや、錬金術で作ったものは形がある。大体液体だけど。

 でも、魔術で……魔術的な特性を付与した魔具は、基本的に形が無い……元の形のまま特性だけ付与される。

 ポーションとか、あとゴートマンが使ってた薬とか、マーリンさんの結界陣も、インク部分が特殊なんだろうな。

 ホラこれ、来たんじゃない? ここへ来て遂に理解しましたよ!

 どうだ、あってるだろう。と、尋ねようとミラの方をちらりと伺うと、何やら目をまん丸に見開いて驚いて固まってしまっていた。

 なんだよ。まさかアンタがそれに気付くなんて……ってか。

 ふふん、バカにすんなよ。これまでどれだけの数の術師を見て来たと思ってるんだ。いい加減そのくらいは気付くってもんだよ。

「………………あ……アンタがまさかそんなことにも気付いてなかったなんて……思わないから……」

「…………そっちかぁ……」

 あれだけの数の超が付くほど優秀な術師とその作品を目にしていて、今更そんなことに気付いたの? と、そう言わんばかりに、ミラは大きなため息をついた。そ、そんな露骨に呆れるなよ。

 アーヴィンで触りは説明したし、クリフィアでも説明したし。それ以降も何度も何度も話はしたと思ったんだけどね。と、なんだか嫌味ったらしい愚痴をこぼし出したのは、やっぱりそれだけ魔術が好きだからなんだろうな。

 モビル◯ーツを並べて、何が違うの? とか言って仕舞えば、界隈では最早戦争が発生する。それとよく似たようなもんか。

 不機嫌になってしまったミラの機嫌を取りながら、僕らはその後も雑貨屋をいくつか見て回るのだった。

 せっかく王都に来たのにやってること変わんねえ…………


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