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異世界転々  作者: 赤井天狐
最終章【在りし日の】
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第三百七十四話【迅速】


 バスに乗って、電車に乗って、そしてもう一度バスに乗って。

 知らない景色に戸惑って降りるバス停ひとつ間違えたけど、僕達は無事に——まだ何とも接触することなく、目的地の近くに到着した。


「ここら辺を……って言ってたけど、ここはなんなんだ? 見たところ……」


 未来が案内を要求したのは二箇所。


 それなりに広い範囲、地図で見た時には建物なんてあんまり書き込まれてない場所。


 そしてもうひとつ。

 こっちはかなり限定的な範囲で、大きな道路……の、すぐ側の、特に何も無さそうな地点だった。


 えーっと……結局のところ、何も無い場所……の、筈だった。


「学校だね、前に見せて貰ったのとよく似ている。それ以外だと……」


「畑……と、うん。畑。川と畑と……」


 今いる地点は、地図にあった通りというイメージ。


 ただひとつだけ見落としがあって、数少ない建物のひとつが中学校だった。

 だった……けどさ。


「……まさかとは思うけどさ、中学校に魔獣が出るかも……なんて話じゃないよな……? もし……そんなの……っ」


「安心しなさい……とは言えないわね。ただ、現状ではここに魔獣が出る気配は無い」

「ここに寄ったのは別の理由。魔獣が出る場所はもう一方よ」


 確認は終わった、さっさと次に行くわよ。と、未来はポツンと建ってる校舎に背を向けて、僕達が納得するのなんて待たずにせかせかと歩き出した。


 こらこら、道分かんない……こともないか。

 でも、置いてくなって。みんなで一緒にだろ。


「魔獣が出る時間はなんとなく分かってるわ。それに間に合いさえすればあとはなんでもいい……って、そう雑な仕事をするつもりはない」

「さっさと到着して、人がいるなら追い払う」

「被害は出さない、出させない。たとえそれで、何かしらの問題が起こってもね」


「も、問題は起こさないで……? でも、そうだな。被害は絶対に出したくない……出さない。そこは完全に同意だ」


 未来は僕の言葉にふんと鼻を鳴らし、それが当たり前だと言わんばかりにこっちを睨んできた。

 多分、分かってるなら急げと言いたいんだろう。


 ごめんって。だけど許して。

 みんながみんなお前みたいに体力おばけじゃないし、真鈴も僕もどうやったってこれ以上のスピードは出ない。走るとすぐバテちゃうし。


 どうしてもゆっくりになってしまう歩みでも、僕達は目的地に先着することが出来た。


 まだ何も起こってない……らしい。

 騒ぎも無ければ嫌な音、臭いも無い。ただ……


「……な、何も無い……っ。未来……また何も無いんだけど……?」


 魔獣が出そうなポイント……と連れて来られたのだけど、そこには大きな国道が通ってて……遠くにはファミレスとかガソリンスタンドとか、色々見えるんだけど……


「そうね、ここに建物の類は無かったみたい」

「でも、だからって魔獣が出ない理由にはなんないでしょ」


「っ。そっか……えっ、待って、ちょい怖い話になってきてる? もしかして、こんなひらけた場所に堂々と現れるってのか⁈」


 ちょっと⁉︎ それ一番困るやつ!


 やっぱり目撃者は減らしたい。

 もう世間にはある程度バレちゃってるけど、それでも実際に目にするまでは半信半疑でいられる。


 なのに、こんな遮蔽物の無い道路のど真ん中に出られたら……それも、交通量の多いこんなとこで戦う羽目になったら……


「……いや、違う。ミライちゃん、ここじゃない」

「ここだけど……見えた景色が全然違う。もっと暗くて、建物の中だった筈だ」


「見えた景色……? えっと……真鈴? お前は何か知って…………知ってんのか! そっか、星見!」


 気付くのが遅いよ。と、真鈴はげんなりした顔で僕の背中を叩いたけど、しかしガッカリされたショック以上に安心が大きい。


 そうか、この場所に魔獣が現れるって特定出来たのは、未来の探知術式もだけど、真鈴の星見による未来視も関わってたんだな。


 となると……あれ? なんで僕は安心したんだ?

 99%現れるだろう。から、100%現れる。に、変わっただけなんだけど。


「建物の中……でも、そんな籠った気配じゃなかったわよ?」

「もっと外と通じてて、この場所からでも感じ取れるくらいの……」


 いや、籠った気配ってなんだよ。と、つっこみたいのは一回退けて、と。


 建物の中……屋根の下、壁の内側。

 それで、外と繋がってる……風の場所。


 えーっと……ベランダ……とか。それとも……うーん。


「縁側……庭……軒下……いや、そもそも家屋が遠いしな」

「ここらにある建物ってなると……か、看板……? 標識……歩道橋……歩道橋?」


 あれ、何かが引っ掛かった。


 歩道橋……が、確かにある、ちょっと行ったところに。

 だけど……えっと。


 交差点になってて、信号があって。

 国道を横切る為の——歩行者が進む為の道が、歩道橋と横断歩道とふたつあって……


「……でも、あっちの方には……無い……から、ここまで来て渡るしかない? そんなこと……っ!」

「そうだ! 地下通路! 屋根があって、壁もあって、でも外! 地下に通路があるかも!」


 うちの近所には無いけど、ちょっと行って大きい道渡ろうとすると出てくるやつ! って、また地下かい!

 いや、その方が都合が良いんだろうけどさ、魔獣的に。


 幸いと言うか偶然と言うか奇遇と言うか、僕達的にも地下はありがたい。

 だって、人目に付きにくいし。


「地下……なるほど、そういうのがあったんだね」

「しかし、この町は地下に色々作り過ぎじゃないかな……?」

「車を置いたり、建物を置いたり、駅を置いたり。ご飯だっていっぱい売ってたし……」


「そ、それは今はいいだろ」

「それより、地下通路……を、探そう。地図にはちょっと載ってないって言うか……うん、そこまで細かく書いてない」

「未来、その……魔力の気配? ってので探せるか?」


 そこまでは無理。まだ出現してないもの。と、未来は首を振ったが、しかし目をキューッと細めて遠くを見ていた。

 お、おお……お前でも目を細めるのな。


 でもこれ、多分見えてる距離が段違いんだろうな。

 ぎゅーっと背伸びをして、出来るだけ遠く遠くを見つめて……そして遂に……


「……あれ? あれかしら? アキト、あれそう?」


「いや、あれって言われても……あれか⁉︎ た、多分そう!」


 で、結局未来が指差したのは、僕でもギリギリ見えるくらいの場所のコンクリートの屋根だった。

 そうだそうだ、あんな感じのだ。


 屋根が付いてて、階段とスロープがあって、自転車は降りて渡りましょうの看板があるんだけど……子供の頃はシャーって降ったなぁ。

 楽しかったんだよ、ああいうのが……


「ふたりとも、先行ってるわよ。早いとこ追い付きなさい」


「お、おう! って……先に行かないといけない……くらい、もう出てくる時間が迫ってるってことか⁈」


 お願い、ミライちゃん! と、真鈴もそう言って見送った以上、まず間違いないんだろう。

 うぐっ……も、もう胃が痛い……っ。


 ひとつだけ幸運なのは、今日が平日で、今が午前中なこと。

 それも、学校も会社もほとんど始まってる十一時前であること。


 あんなとこ通る人いないだろうと、自信を持って言える。

 数人はいるかもだけど、偶然鉢合わせる可能性はかなり低い筈だ。


「……って、そうだ。星見の時点でそれは分かってたのか? その場所に人がいるかどうか、とか」


「うん、ある程度は。だけど、細かな差は出るよ」

「その出来事がその人の将来に影響を与えないとなれば、全然知らない、視えてもなかった人が通りかかることもある」

「そんな鈍感な人物がいるかどうかは知らないけどね」


 じゃあ、基本的には目撃者——巻き込まれてしまう人はいなさそうってことでいいんだな。


 でも、僅かでも可能性があるなら取り除いておきたい。

 安心はするけど、弛んじゃいけない。


 僕達はまだ半分も進んでないのに、未来の背中は小さくなって……そして地下へと消えていった。

 は、速い……相変わらず……


「真鈴、こうなったらまたおぶって……」


「いらないよ! って言うか、君は自分の体力を考えたまえ」

「今消耗するべきは君じゃない。今回が直接の解決にならない以上、君はまだ走り回る必要が出てくる。そこは履き違えないで」


 うっ……お、怒られた。ごめんなさい。


 真鈴の言う通り、正直ちびっ子だろうと背負って走る余裕は無い。


 身体に慣れたのか、ちょっとだけ走るのが速くなってた真鈴と一緒にゴールへ——地下通路の入り口へ飛び込むと、中から甲高い風切り音が聞こえてきた。

 もう戦ってるのか——っ!


「——未来! ごめん、今追い付い……た……」


「ん、やっと来たわね。こっちも終わったところよ」


 明るいところから暗いところへ一気に降りたから、まだ視界の真ん中が若干暗い。


 けど……そんなあやふやな映像でも、僕は事情をしっかりと理解出来た。


 まだほんのり青白く光ってる未来と、そしてその前に転がってる一頭の魔獣。

 即時解決とはこのことだろう。


 僕達が動いている姿を見ることなく、現れた脅威はあっさりと片付けられてしまっていた。


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