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◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。  作者: 友浦
「よかったら打ち上げ参加します?」
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第8話 夢追い仲間達

 掘りごたつ式のテーブルに案内された。


 コミケ閉場前に売り切って早々に片付けて来たというはなやん以外さすがにまだ来ておらず、しばらく待つことになった。


 郡山はいつの間にか一人分の席を予約していたらしく、少し離れたところに着席し席代代わりのウーロン茶をテーブルに置いてこちらに気を配っている。


 そしてはなやんも違う意味で郡山に非常に気を配っている。


 ……これたぶん、「付き人」をここでネタにしていいのかを図っている顔だ。

 うん、正直愛里にもわからない。


 だが、少なくともはなやんよりは長く尚貴と時間を共にした以上、この状況をなんとかするのは自分しかいないのだという使命感から愛里は口を開いた。


「いや~、まさか、お隣さんと仲良くなっちゃってね!」


 とりあえずそんなノリと勢いで一旦普通に受け入れてもらう作戦に出てみる。

 

「なおさん、少女漫画描くんだよね!」


 そう言って愛里は話題を振ってみる。


「そうなの~?」


 よしよし。はなやんも乗ってくれた。愛里とはなやんの視線を受け尚貴は、


「あっ、はい……あ、えっと」


 その時、入り口ドアが開き、もう一人スーツの男が入ってきた。そして郡山の傍に近寄っていくと、何やら話しかけると郡山が腕時計を確認し、立ち上がって出て行く。交替の時間なのだろうか。


「やっぱ、気になります?」


「「えっ」」


 尚貴に指摘され、はなやんとハモった。


 いつの間にかスーツの彼らを凝視してしまっていた。

 尚貴が何かをしゃべっていたのに、ろくに聞いていなかったことに気付いて焦る。


 尚貴は、


「正直、ちょっと気まずいですよね、はは」


 そう言って自分から切り出した。「今しかない」とはなやんと目配せをし、


「いや~、そうですね! でもさ、めっちゃすごくない!?」

「すごいすごい! えっ、何、そういうアレなの!?」


 覚悟を決めたものの、いったいどう触れていいのかはまるでわからない。

 そんな二人に対し尚貴が照れたように呻く。


「うう……、オカマとかじゃないんですっ」


「「は!?」」


「男だけど少女漫画が好きなだけです~」


 もじもじと髪の毛をいじる尚貴。


「そっちじゃねえよ!」


「えっ」


「ああっ、すみません、つい」


 思わず吠えてしまったはなやんが平身低頭して謝る。愛里はもう我慢できず吹き出した。


「あはははっ、なおさん、違うんです。そっちじゃなくて」


 クエスチョンマークを浮かべる尚貴に、説明する。


「いや、男の人が少女漫画を描いているのもたしかに珍しいかもしれないですけど、でもお付きの人がいるってのが、気になったんです」

「そうそう!」

 はなやんも激しく頷く。


 尚貴はようやく思い至ったようで、ああ、とスーツ男二人を振り返る。郡山は一礼して入れ替わるように静かに店を出て行った。


 尚貴は「すみません、過保護なんですよねウチ」なんて小さなため息をつく。


 過保護がどうとかいう話ではないのだが、彼にとってはそれだけの認識らしく、出かけるときは帰宅時間を言いなさいだなんて言うしこの歳にもなって恥ずかしいです~とか過保護トークを盛り上げようとし始めるし、少しは近づいたけどまだまだ程遠いズレっぷりをどうしたらよいものかと愛里が悩んでいると、また扉が開いて「お待たせ~」とコミケ仲間達が入ってきた。ああこれもう無理だ。完全にタイミングを逃したので諦めがついた。


 各自席についていく。全員女性で、愛里とはなやんを入れて六人。尚貴を入れて七人。郡山と交代した付き人は含めていない。


「エリンギです。こちらは今日コミケで知り合ったなおさん」


 久方ぶりに会って顔を忘れている人もいるだろうと愛里は自ら名乗ってから、尚貴を紹介した。


「なおです。よろしくお願いします」


 尚貴が頭を下げると、髪がはらはらと垂れ下がる。その場の全員がその美しさにうっとりと見惚れていた。男にしては少しばかり長い程度の髪だが、真夏なのに装飾過多なひらひら衣装なのも手伝って、床につくほど長いのが普通の平安時代にさかのぼるかのような錯覚を覚える。


「とりあえず、全員揃ったし、まず乾杯しよう乾杯!」


 はなやんがそう取り仕切り、付き人の件は完全に無かったこととして葬り去られた。


 乾杯の後は今日の本の売れ行きや、最近の創作状況や近況報告を互いにし合った。そして話題は、将来の展望など濃くなっていくのだ。


「エリンギはプロになりたいんだよね?」


「うん。私は、漫画で生きていくつもりだから」


 愛里ははっきりとそう言って頷く。はなやんはビールを喉にかっと流し込むと、


「私は完全に趣味だな。その代わり、好きなものを好きなように描いて、好きに発表するって決めてる!」

「それもいいよね」


 はなやんのスタンスは、愛里にもごく自然にわかるし否定もしない。

 新人賞をとってデビューすることだけが創作ではない。

 Twitterを見ていれば、はなやんは仕事やプライベートがとても充実しているのだということがすぐにわかる。

 はなやんが長年描き続けている漫画は、はなやんが生活している中で日々思ったことを描いていく日記のようなエッセイ漫画で、新人賞を本気で狙おうと思ったら賞に合わせて描き直しが必要になる。見せ方にももっと工夫が求められるだろう。はなやんはそういうことは考えずただただ楽しく描きたいといつも言っていた。


「なおさんは?」


 愛里はふと気になって、隣に座る尚貴にも尋ねてみた。お金持ちの人って、どうなんだろう。


 

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