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第28話 即席漫画批評会

 メイドが冷たいお茶を出してくれて退室すると、愛里はどうしたものかとそわそわ困った。


 異性の私室にお邪魔するなんて何十年ぶりだ。

 私室っていうレベルじゃない広さだけど、それでも私室は私室だ。

 手持ち無沙汰に固まっていると、沈黙が痛い。

 ソファに向かい合って座ったまま、何を話せばいいというのか。

 

 すると尚貴が愛里から買った漫画を広げながら提案してきた。


「食卓の準備が整うまで、漫画の批評会しない?」


 最近、創作をさぼりすぎて自分で自分のことがむず痒いくらいだった愛里にとってそれは願ってもない提案だった。


「ああそれいいね! やろう!」


 こんなお城みたいなところに来て、漫画の切磋琢磨ができるなんて思ってもみなかった。

 ありがたい。


 異性と会っている間は仕事をしてはならないと決まっているわけではない。仕事というのは愛里にとって漫画を描くことだ。お金をもらっているわけではないけれど、夢を追う以上は仕事と思うべきだという矜持が自分の中にある。


 好きな人と一緒に好きな仕事をする。それって最高では?


「なおさんの漫画、借りてもいい?」

「もちろん」


 愛里は夏コミで買った尚貴の漫画をここに持ってきてはいないので借りることにした。在庫は大量にあるのを知っている。尚貴がメイドに言いつけて持ってきてもらう。


 愛里は受け取ると、よし、と仕事モードに切り替え、さっそくページを繰り始めた。


 一度は読んだ内容を再度辿る。


 なおの漫画――絵画とも言えそうな繊細優美な作画は素晴らしく文句のつけようがない。


(んー……)


 ただ、やはり何度読んでもストーリーがさっぱり頭に入ってこない。これは自分の読解力が低いせいなのか、それともなおの表現が誤っているのか。


 そもそもなおがどこを目指しているのかを確認してからでないと、愛里の自己満足でない「なおにとっての有益なコメント」を絞り出せない。


 他方、自分の漫画を熟読してくれている尚貴を遮りたくなくて、「それ一作読んだら教えてくれる?」と区切りを求める。尚貴が頷くと、それからしばらくそれぞれの作品世界に没頭した。


 それは心地よい沈黙だった。


 だが、尚貴が愛里の作品を読み終わるかどうかといったタイミングで、練習用の食器の準備が整ったという知らせが入った。


「続きは、また後だね」

 愛里が打ち切ろうとして声をかけると、尚貴は「うん」と顔を上げながらも視線がページに吸い付いたままで、そのまま黙る。

 

 作者として、こういう瞬間はとても嬉しい。

 自分の作品に夢中になってくれている顔は、たとえ相手が尚貴でなくとも、誰が相手だとしても愛しく思えるものだ。


 切り上げるのがもったいないけれど、食事の時に議論したっていいし、キャラカクテルの時にもたくさん話せるだろうからと、愛里は立ち上がって先に移動する。尚貴は行儀悪く立ち読みしながら移動を始める。


(めっちゃ読んでくれてる……)


 俄然楽しい気分が湧いてきた。

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