第26話 恋をしていると忙しい。
アラームが鳴るより早くぱちりと目が覚めた。
まだ朝の九時前。8:55、よし、起きよう。行動開始だ。
本日の仕事は休み。丸井社長から臨時休暇をもらったのを活かして、尚貴の仕事が終わって迎えに来る夕方までにやるべきことがたくさんあるのだった。
まず、尚貴の家に着ていく服を選ぶ作業。
安っぽくないもので、スカートが短すぎないもので、でもとびっきり可愛いものを引き出しの奥から発掘する。普段はやらないアイロン掛けを丁寧に行い、ハンガーを通して汚さないように高い位置に掛けておく。
はい、次!
ご実家にお邪魔する前に、やはりどうしても基本的なマナーを知っておきたかった。尚貴は気にしなくていいと言ってくれるだろうことは想像できたけど、愛里自身が落ち着くために。もちろん、付け焼き刃で、本物のご令嬢には遠く及ばないだろう。でも、最大限やってから行こうと思い本屋へレッツゴー。
行きつけの漫画本コーナーをスルーし、冠婚葬祭のコーナーや女性向けエッセイというコーナーに生まれて初めて立ち寄る。
気品ある歩き方とか淑女の心構えとかは今からは間に合わないし抽象的すぎるので飛ばし(また今度やろう)、「テーブルマナー」と「結婚ご報告時の挨拶マナー」の本を中心に手に取っていく。立ち読みをしまくる姿はレディには程遠いが、とにかく読みまくった。
う~ん、やっぱりどの本にも「レディは一日にしてならず」って書いてある。
一日どころか半日もない現在。
高校時代のテスト週間のノー勉の朝を思い出しながら、でも意外とそういう朝に読んだことがテストに出たりもするからと、できる限り読み込んだ。
隣に座った男性にナプキンを膝の上にかけてもらいましょうとか、自然にこなすにはちょっと気恥ずかしいものもあったけど、すぐにはこんなに頑張れないやという諦めも含め、一通り把握したことで落ち着いてきた。
よし次!
自宅に戻り、キャラカクテルを作ってもらいたい自作漫画を選別する。
いろいろあるけどどれにしよう?
思い入れのある作品ももちろんいいけど、イメージカラーがはっきりしている漫画の方がいいかもしれない。twitterにアップして仲間にも見せたいし、その時にわかりやすくなるよね。
ベッドの上に広げた自作漫画を眺めているうちに、はたと気が付く。
最近、創作をおさぼり気味だ。
(だめじゃん私、夢追い人なのになー……)
デスクについてペンを握ろうとして、でも脳裏には尚貴が浮かんできてしまう。
今頃仕事を片付けているであろうなおさん。
仕事が終わり次第、きっとすぐに来てしまう。
そう思うと、おちおち漫画を描いていられない。
(いいのかな私……)
だけど少女漫画、恋は大事だ。
恋に全力投球する日々が少しくらいあったっていいのではないだろうか。
無理してただただページ数を描いて独りよがりに安心するより、きっと創作にプラスに働くと感じる。
(うん。今は、この恋を頑張ろう)
十六時になるとなおさんからLINEが入った。
なお:仕事はもうすぐ終わりそう! 五時にはエリンギちゃんちに着くと思います。
あと一時間でなおさんが来る。
愛里は用意していた白黒チェック柄の丸ネックワンピースに着替えると、メイクを直し、髪を整え、鞄の中を整理整頓して、ついでに財布の中のレシートを捨て、それから靴を磨いた。
やることが後から後からでてきて追いつかないほどで、すぐに五時になってしまった。
(まあ、やれる限りやったよね)




