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「おはよう、蒼太。うまかったな、唐揚げ」
お父さんは風呂上がりで暑そうな顔が唐揚げで膨らんでいた。クーラーの風を一身に受けている。
今日、土曜日は学校が半日で終わる。ということは。
「今日、どっか行ける?」
「ああ、いいよ。昼飯食いに行こう。蒼太が帰ってくるまで、ぐっすり眠っておくよ」
夜勤明けで疲れているはずのお父さん。朝ごはんはいつも前の日の残り物だ。お母さんは遅番だったから、まだ夢の中。自分でご飯を盛って唐揚げをチンする。
「あ、スープもらったんだ。作ってやるよ」
玉ねぎスープ。あっさりしていて、インスタントだけど、いい香り。
「お父さん、お昼、なに食べたいの?」
「そうだな、寿司は?」
「いいね」
授業が終わったら、さっさと帰らないとならない。パクパクとご飯を平らげて立ち上がる。お父さんが洗っておくからいいと言った。
「ありがと」
「ほら、歯を磨いて」
「はあい」
半日なんて一瞬だ。お昼はお寿司か。マグロ、ハマチ、エビに、ネギトロ。ワクワクしながら、家を出た。
「ああ、おはようございます、沢田さん。唐揚げ、すいませんでした」
お父さんが挨拶したのは沢田さん。沢田さんはニコニコして近づいてきた。僕は逃げた。
「行ってきます」
「え、ああ、気をつけてな」
「あら、蒼太君、行ってらっしゃい」
気づかない振り。バレバレ。
駅まで十五分。ちょっと遠いけど、さすがに慣れた。見上げた空は抜けたように高くて青い。土曜日、みんなは休みなのに、僕だけ学校に行くことをバレたくはなかった。これも慣れた。慣れたけど見つかりたくない。早足、むしろ猛ダッシュで町を抜ける。
荒い息で改札を抜け、電車に乗り込む。空いている車内はクーラーが効いていて気持ちよかった。
別に学校が嫌いなわけじゃない。ただ、いきなり、四月から別の学校に行くということを自分で決めたわけじゃなかったから。みんなとも仲良く過ごしていたし、先生も面白かった。いきなりの線引きが思ったより太くて、かなり開いてしまった。沢田さんにすごいだの、優秀だの言われる度に嫌な気持ちになってしまう。