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stage13 大切なモノ

「なんだよ。急に改まって。その光る粒子フィールがどうかしたのか?」


 エイヤの視線の先には丸いペンダントが転がっている。

 無数の傷と汚れのせいで中の光る粒子フィールは薄っすらとしか見えない。


「私が君たち2人を感情牧場フィール・ファームから助け出した時、君は私に言っていたな。全ての感情牧場フィール・ファームを破壊して、子供たちを助けたいと」


「……ああ、言ったよ」


「私はあの時の君の瞳が好きだ。どこまでも純粋でただ目の前のことしか見ていない、あの透き通った瞳がな」


 思い出すようにエイヤの瞳を見つめるフレア。

 その表情は優しい笑みを浮かべている。


「悪かったな、今の瞳が濁ってて」


 そんなフレアの瞳と表情に一瞬ドキリとしたエイヤ。

 熱くなった顔を見られたくないのかそっぽを向いてしまった。


「あの時言ったことは今も変わらないか?」


「……当たり前だろ」


「なら、これを君に渡しておく」


 そう言ってフレアはエイヤにペンダントを手渡した。

 それを手のひらで転がすエイヤ。

 傷と汚れで見えずらいが、ペンダントの中は溢れんばかりの輝きで満たされていた。

 エイヤが汚れの隙間から中を覗くと黄色い光る粒子フィールが渦巻きながら強い輝きを放っているのが見える。

 その輝きは先程のアイリスの光る粒子フィールとは比べものにならない。


「それは私にとって命の次に大事なものだ。大切にしてくれ」


 フレアの言葉にエイヤは驚くいた。

 何より驚いたのは、フレアのその言葉が冗談で言っていないことだった。


「そ、そんな大事なもの受け取れるわけないだろ!?」


 慌てて返そうとするがフレアは無視して話を続ける。


「私は君に持っていてほしいんだ。君の言う通り、パラディンのいる学園へ行くのは危険も伴う。だがそれでも君にはあの学園へ通ってもらいたい。それはそのお守りとして持っておいてくれたらいい」


「そこまでして行かなきゃいけないのか?」


「私が君に教えてやれることにも限度がある。それに時間が無い。数の少ない私たちがパラディンよりも優位に立つには個人の力で上回るしかない。技術も知識もあの学園なら今より数倍早く身につくだろう。それに、私は牧場荒らしの中でも特に君には期待しているからね」


「さすがにそれは言い過ぎだろ。アイリスの方が俺よりも断然上だと思うし」


拡張クライメント使いとしてなら確かにアイリスが上だろう。だが、君の時折見せるあの頃の瞳は誰にも負けてない。君ならいずれ本当に今の牧場社会を変えられる。そんな気がするんだ」


 またエイヤの瞳をじっと見つめるフレア。

 目を合わせるのが恥ずかしいのかまたしてもエイヤは視線を逸らす。


「時折しか見せれずに悪かったな」


「ただ、もう少し捻くれなければ可愛いんだか」


「ほっとけ……。わかったよ、行けばいいんだろ? そこまで言われて、行かないわけにもいかないしな」


「ふふ、なんだかんだ言いながらも最後にはやってくれる、そんな君が私は好きだぞ」


 フレアが優しい笑みを作る。

 その表情にエイヤは照れ隠しのように溜め息交じりにぼやいてみせる。


「からかうのはアイリスだけにしてくれよ」


「これは私の本音だ。たまには素直に受け取れ。それと、学園では友達をちゃんと作るように」


 友達というワードにエイヤの顔が苦虫を食べたような表情になる。


「……善処するよ」


「コミュニーケーション能力が低いものは、真に光る粒子フィールを扱うことは出来んぞ」


「コミュ力と光る粒子フィールにそんな関係があるのか?」


「大いにな。ま、それもおいおいわかってくる。まずは兎にも角にも学園を楽しめ、なんだかんだ言っても君は学生だ」


「ぼちぼち楽しむよ。それでいつから転校なんだ?」


「明日だ」


「早っ!? まだ心の準備が出来てないんだけど!」


「用意は全てしてある。君の家に届けておいたから確認してくれ」


「はあ、わかったよ。じゃあ今日はもう帰るよ。さすがに眠くなってきたし」


 エイヤは残ったコーヒーを一気に飲むと、欠伸をしながら重い腰を持ち上げた。


「何を言ってる。君は学生だろ? なら行くべきとこがあるだろう?」


 エイヤはまさかのフレアの発言に信じられないといった表情を浮かべた。


「嘘だろ!? 帰ってきたばっかで疲れてるんだけど。それに転校するなら今日ぐらいいいだろ!?」


「駄目だ。学生の本分は学校へ行くことだ。牧場荒らしと学校の両立。仮に出来ないというのなら仮面はもう渡せないな。もちろん活動報酬も無しだ。この時期、夜の公園はまだ寒いだろうが大丈夫か?」


 外堀を埋めてエイヤを追い詰めるフレア。

 元よりエイヤに拒否権なんて存在しないに等しかった。


「くそっ。わかったよ。行けばいいんだろ!」


「ちなみに遅刻は許さんからな」


「話があるって引き止めといてそれかよ!」


「走れば間に合うだろう?」


 フレアはにこやかに答える。

 この時エイヤにはフレアが人の皮を被った悪魔に見えた。

 エイヤは心の中で思う。


「あの仮面ってフレアをモチーフにしたんじゃないのか?」


 それは決して口に出せないモノだったが。


「くそったれ! じゃあ行ってくるよ!」


「ああ、エイヤ少し前待て」


 エイヤがやけくそ気味に店を出ようとするのをフレアが呼び止める。


「何だよ?」


 こっちにこいとフレアが手招きしている。


「早くしてくれよ、じゃないと学校に……」


 エイヤがカウンターの前に立つと、フレアが身を乗り出してエイヤの額を指先でトンと叩いた。

 すると弾けるように光の粒子が一瞬煌きそして消えた。


「顔の傷を縮小リダクションで消しておいた。男前が台無しだからな」


 それはエイヤがパラディンの少女から仮面を斬られた時に出来た傷。

 傷痕は薄いがそれでも近くで見れば目立っていた。

 もしこのまま学園であの少女に会っていればばれていてもおかしくはなかっただろう。

 おかげで傷痕は欠片も無くなっていた。


「……ありがとう」


 アイリスの時と同じでまたしても小声のエイヤ。

 どうやら彼は感謝の言葉を口にするのが苦手なようだ。


「じゃあ今度こそ行ってくるよ!」


「ああ、気をつけてな」


 足早に店を出るエイヤとそれを見届けるフレア。

 その表情はどこか嬉しそうでもあり寂しそうな、そんな優しい母親の表情だった。


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