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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わたしとかわいい妹のキスと16年間

作者: 坂本一輝

 昔から、妹が欲しかった。

 理由なんて深くは分からない。ただ、家族というものすごく近い関係性の中で、歳が近い同性の存在を欲することは決して珍しいことじゃないと思う。

 わたしの下には1つ下、2つ下の弟が1人ずつ。弟は居るのに妹は居ないというウチの家族構成が、そういう思いを加速させていたような気がする。


 結局、わたしに妹は出来ないんだ。

 大きくなるにつれ、そんな諦め・・・と言ったら大袈裟か。現状を受け入れるということを、無意識にし始めていたんだろう。そのうち、妹が欲しいと言う気持ちも薄くなっていった。


 そんな、頃。

 わたしに歳の十離れた妹ができました。


 嬉しかった。

 本当に嬉しかった。

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて、夜中、誰も見てないところで小躍りなんかしたりもした。


 ちっちゃい赤ちゃんはかわいて、わたしはお母さん以上に妹を可愛がった。

 お世話も手伝ったし、率先して面倒を見るのを買って出たりもした。

 うんと可愛がって、今ままで我慢してたぶん、思いっきり愛情を注ぎ込んだ。


 そして―――妹、幼稚園入園。


「やだあー!! おねえちゃんと一緒がいいー!!」


 しかし、妹はものすごくぐずった。

 入園式なのに大泣きして、母はどうしたもんかとものすごく困っている。


 だからわたしは良かれと思い、母の目を盗んで。


「よし、じゃあお姉ちゃんと"いってきます"のちゅーしよう」


 聞いた妹は、しゃくりを上げながら目を擦り。


「ちゅー?」

「うん。そんで帰ってきたら"おかりなさい"のちゅーしてあげる」


 涙目でこちらを見上げる妹は、まだ赤ちゃんの頃の面影もあって本当にかわいい。

 ぽかんとだらしなく開いてしまっている口も愛らしく、それでも入園式用のおめかしをしている妹の姿はここまで成長したんだなあと感慨深くもあった。


「それで、いい?」

「うん・・・」


 妹はそれでも渋々、こくんと一度、首を縦に降ろした。


「それじゃ」


 わたしは妹の前髪をすっと梳いて、おでこにちゅーをしようと顔を近づける。

 しかし妹の額に口を近づけた瞬間。


「!?」


 妹はわたしのほっぺたに手を当て、ぐいっと顔を手繰り寄せると、わたしの唇を自分の唇に押し当て。


「ちゅー」


 ぎゅーっとこすり付けるように強く、顔を引っ張って。


「んぱっ」


 と言った具合に、開放させる。

 目の前に、わたしと妹の唇から引いた唾が浮かんで消えたのが、頭の中に強く印象づけられていた。


「な、な、な・・・!」


 突然のことで頭が真っ白になり、それとは逆に顔が真っ赤になっていくのが分かった。

 顔が熱くなるなんて言葉じゃ表せないくらい熱いし、どうかしたんじゃないかと思うほど動悸も激しい。


「ファ、ファーストキス、だったのに・・・」

「ふぁー?」


 口元を手の甲で押さえるのが精いっぱいで、それ以上のことが何も入ってこない。

 妹の間の抜けた声が、すーっと耳から耳へと通り抜けていくだけ―――





 リビングのテレビで妹の卒園式の動画を見て、いつものように号泣する。


「何回見ても良いねぇ・・・」


 あんなにちっちゃくて、何も出来なかった妹が幼稚園を卒業したのかと思うと、胸がいっぱいになるのだ。

 姉として、こんなに誇らしいことは無い。こんなに嬉しいことはない。


「おねえちゃん、またゆーのビデオ見てるー」


 鈴の音を鳴らしたようなかわいい声と共に、とたとたと廊下を駆け足でやってきた妹が、ぴょんとわたしの膝の上に座る。


「ゆー、もう小学生なんだよー?」

「うん。それは分かってるけど・・・何度見ても良いんだよねえ」


 ティッシュを何度も取って、目がしらに当てて涙の雫をふき取った。

 ついでに鼻もかんで、妹の前ではだらしない様子を見せないようにする。


 こんなでもお姉ちゃん。憧れのお姉ちゃんで、居続けたい。

 年々、その想いは強くなっていった。

 妹の目標であり続けられるような、尊敬される姉になりたいと。


(妹は小学生になったけど、わたしだって高校生になったんだから!)


 これからは大人の女性としての余裕とかも見せて・・・。


「おねえちゃん」


 ふと、妹がこちらを振り向くと。


「ちゅー」


 何の気も無く。

 さもそれが当然かのように。

 唐突に、唇を重ねられて、奪われる。


 長いキスの間に、妹がちろちろと唇を舐めてくる。

 そんな最近覚えたキスの技術を披露されながら、名残惜しそうに唇から唇を離した。


「ふ、ふへぇ・・・」


 頭がふやけて、何も考えられなくなる。

 ぼーっとして熱い。そして靄がかかったように何も見えない。


 口からよだれが出そうになったところで、ようやく自分を取り戻してすぐにそれを拭う。


「もうっ、甘えん坊なんだから」

「おねえちゃんとのキス、楽しいもん!」


 前まではいってきますとか、ただいまとかに限定していたのに、最近妹が甘えん坊になって、誰も見ていないところならいつでもどこでもキスをするようになっていた。

 本当はダメだって分かってるのに、それでも妹のかわいさとキスの刺激に、身体がどうしても抵抗できなくなっていたのだ。力の弱い、それこそ小学生の妹なんて、無理矢理引きはがすことだって出来るはずなのに。


「おねえちゃんは、ゆーとのキス、いや・・・?」


 だからと言って、こう首を傾けながら上目遣いでこの質問をしてくるのは、反則だ。


「イヤなわけないじゃん」


 ぎゅっと、愛しの妹を抱きしめる。

 ちっちゃな妹。まだまだわたしより全然小さな愛しさを、腕の中で確かに感じるのだ。


「おねえちゃんは、ずっと大好きだからね」


 たとえ妹が大きくなっても、きっとこの気持ちは変わらない、変わるわけがない。





 あたしには、歳の離れた姉が居る。

 赤ん坊の頃からよくしてくれていて、昔は大好きだった姉だ。


 だけど。


「ゆーちゃーん、お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうよ~」


 最近、ウチの姉がウザすぎてたまらない―――


「は? 入らないし。あたしもう中学生だよ? 1人で入る」

「ッ!!・・・!、・・・!!!」


 姉が言葉にならないような言葉を発しながら、がくりとその場に崩れ落ちた。


「う、うそ・・・あのゆーちゃんが、お姉ちゃん大好き大好きだったゆーちゃんが、反抗期・・・」

「反抗期とかじゃねぇし!」


 宿題のノートに数式を書き込んでいきながら、そう叫ぶ。

 中学に上がったばかりで、勉強は難しくなる一方。本当ならお風呂の中でも勉強していたい。

 それが姉と一緒にお風呂なんて入ったら・・・うう、考えたくもない。


「お、お姉ちゃんが何か悪いことしたなら謝るから、ね?」

「じゃあ早く母さんに私の一人部屋くれるよう言って」

「ウチはもう空き部屋が無いの・・・。それに」


 弱弱しく言った姉は。


「お姉ちゃん、ゆーと離れ離れなんかになったら、生きていけなゆ・・・」


 半分泣き声で、そんな事を言い始めた。


「あー、もう!」


 こんなんじゃ勉強なんか手に着くはずがない。


「生きていけなゆ、じゃない! いい加減妹離れしなよ」

「キス、してくれたら考える」


 ぐ・・・。


「わ、分かった分かった。するから! したら出てってよね!」


 言った瞬間、姉の顔がぱあっと明るくなった。


「うん、うん!」


 子犬のように尻尾を振って、露骨に喜ぶ姉。

 これでももう大学生なのに・・・。成人してるのに・・・。

 姉がこんなにも妹大好き人間になってしまった責任の一端は、あたしにもある。だから、あまり強く出られないのだ。


 幼少期の頃、母より甘えまくった姉だから―――


「んちゅ」


 キスするのだって、普通だし、今更恥ずかしいとかもない。


「ちゅぺろ」


 姉が、あたしの唇をちろちろと舐めてくる。

 長いキス―――あたしから離れるようにそれを終えると、姉の顔をぼやっと見つめた。


(美人だなぁ)


 こんなこと、血の繋がった妹が言うのはおかしいだろうか。

 昔からずっとそうだ。姉はかわいくて、美人で、あたしが居ないと生きていけないような性格で・・・。

 だから、放っておけない。中学生にもなって、姉とのキスをやめられない。


(友達はファーストキスとかで盛り上がってるけど)


 あたしにその概念、無いんだもん。

 物心ついた頃からずっと姉とキスしてたから。

 そのキスが、世界で1番気持ちいいって、知ってたから。





「おねえちゃん、なに見てるの?」


 足と足の間に座っている妹が首だけ捻ってわたしの顔を覗き込んでくる。


「んー。ゆーにもこんな時期があったなぁって」


 幼稚園の入学式のアルバムを見て、懐かしくなる。

 この頃の妹は毎日わたしと離れるのがイヤだってぐずってたっけ。


「おねえちゃん!」


 すると、妹が突然大きな声を出して。


「アルバムより、今のあたしを見て欲しい・・・」


 そんな事を言うものだから。


「それじゃあ・・・うりゃあ!」


 アルバムを小脇に置き、堪らず両手で妹のお腹をまさぐった。


「ひゃっ。おねえちゃん、まだ早いよぉ」


 瞬間、妹の顔がぱっと真っ赤にになる。

 正直な子だなあ。こういうところは、幼稚園の頃から結局何も変わってなかったりする。


「明日の宿題は?」

「もう終わりました。おねえちゃんこそ、明日もお仕事でしょ? いいの?」

「いいよ。ゆーのお願い、断れないよ」


 そして妹は大勢を変え、膝で立ちながらわたしと向かい合わせになった。

 妹はわたしの両手首をそれぞれ両手で掴んで、何も抵抗できないような体勢にさせる。


 今はもう、たぶん妹の方が力が強い。

 背丈だって、最近抜かれたくらいなのだ。

 二人暮らしなので毎日妹と玄関で並ぶことになるのだけれど、妹の頭頂部を少しだけ見上げるようになった時、何とも言えない、感慨のようなものを覚えたことが忘れられない。


「それに・・・高校生って、1番旺盛な時期だろうから。お姉ちゃんが相手してあげる」

「なにそれ。そんな事言って、おねえちゃんがしたいだけでしょ」

「うん」


 正直に、妹の言葉に頷いた。


「・・・そういうとこ、おねえちゃんも変わらないね」

「そうかな」


 そして、会話がなくなったところで。

 妹の唇に、むしゃぶりつく。


「んちゅう・・・」

「むにゅちゅ」


 舌を入れて、舌を入れられて・・・。

 お互いを貪り尽すような激しいキス。


「んぱっ・・・ちゅ」


 何も考えられない。

 考える必要もない。

 ただ、相手を求めるキス。


「ちゅぅぅ・・・」


 そしてやりたいだけやると、どちらかともなく唇を離していく。


「はあ、はあ・・・」


 キスしただけなのに、かなり息が荒くなる。


「お姉ちゃん、体力落ちたんじゃないの?」

「ゆーのキスが若すぎるんだよ」

「あたし以外のキスなんて知らないくせに」


 よく言うよ、と妹は呆れ顔で、口元を拭った。


 世界で1番かわいい妹は、世界で1番かわいい恋人でもある。

 妹が生まれてから16年間。誰よりも、何よりも近くに居たわたしと、かわいいかわいい妹の関係。

 それはこれからも何一つ変わることなく、続いていくのだろう。


「大好きだよ」

「うん」


 大好きだから。

 愛しているから。

 それ以外の理由なんて、必要ないんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ尊いです…。素敵な作品を読ませて頂いてありがとうございます……!!
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