幸せの歌
私が人間の世界に来てから、七年が経とうとしてる。私達は二十五歳になった。
私と健吾君、小さな教会で結婚式をあげたの。
パパとママと奈美ちゃんはビックリしてたけど、きちんと説得したら、ちゃんとわかってくれたら承諾してくれたんだ。
結婚のことをパパ達に言う時、すごく緊張したけど、
「二人で決めたなんだからそんなに緊張することはない」
そう健吾君が言ってくれた。その言葉が私にとって何より心強い言葉だった。
「江海、おめでとう!」
渚と夏子が祝ってくれる。
「ありがとう。次はどっちが結婚するんだろうね?」
「う〜ん…私は当分結婚はないだろうから、渚なんじゃないの?」
「何言ってんのよ? 夏子が先じゃない?」
「そんなことはないって〜」
二人のやりとりを微笑みながら見てしまう私。
そして、田崎さんと水野さんも来てくれた。二人共、おめでとうって祝福してくれたんだ。
「二人共、結婚したんだ」
水野さんは悲しそうに言ったけど、すぐに笑顔になった。
「山岡さん、幸せになってね。健吾、ちゃんと山岡さんを幸せにしないとダメよ」って、田崎さんはイタズラな笑顔で言ってくれた。
きっと田崎さんと水野さんには辛い想いをたくさんしたんだ。健吾君を巡って私とライバルになった。私もわかる。辛くて悲しい想い。人を好きになるのは難しい。人に好きになってもらうのは難しい。私、実感した。
一週間だけ人間の世界に来た時、もう二度と健吾君と会うことはない。そう思っていたあの頃。あの時、シ―ナ女王が永遠に人間にしてくれなかったら、今の私はいなかった。きっと人魚のまま。健吾君と一生会えないままだったと思う。
私と健吾君、これから色んなストーリーがあると思う。健吾君を想って切ない涙を流さなくてもいい。切ない想いをしなくてもいい。一緒にそばにいられる。時には泣いたり笑ったり、苦しいハ―ドルを越えなきゃいけない日もある。そして、これから辛いことがある日もある。
祝福しているウェディング・ベル。大きく甘い音に聞こえる。みんなの笑顔が輝いて見える。私、健吾君がいるから辛くない。健吾君とだったらこれからの人生頑張れるよ。きっと健吾君も同じ気持ちでいてくれる。そう思っちゃっていいよね。
「健吾君、嬉しいね」
「うん。これから頑張ろうな」
「そうだね」
「辛いこともあるだろうけど、江海ちゃんとなら乗り越えられるよ」
「私もよ」
二人、見つめあって笑いあった。
「江海ちゃん、ウェディングドレス似合ってるよ」
「ありがとう、健吾君」
「二人、力合わせていこうな」
「うんっ!」
私の声が空高く響いた。
教会の中でみんなが幸せにかるために歌を歌ってくれている。私達のために、未来の子供のために歌ってくれているんだ。
その歌に私はついに涙を流してしまった。
もう泣かない。涙は流さない。そう思ってた。七年前にはたくさん涙を流した。もう泣かないって決めてたのに、それなのに涙を流してる。
「大丈夫か?」
健吾君がそっと耳打ちする。
「大丈夫よ」
私は涙をふきながら返事する。
大丈夫だよ。私ってばもう笑顔しちゃってるよ。
シ―ナ女王、ケイ、今、何していますか? 今日、私は健吾君と結婚しました。人魚でいた時よりも、ケイといた時よりも、ずっとずっと幸せになるね。何があっても健吾君と力を合わせて頑張っていくね。だから、海の底から見守っていてね。健吾君と出逢った海で見守っていてね。もし、辛くなったら二人のことを思い出すよ。
今日は私達にとって最高の日。今日からとっておきのラブストーリーが始まる。ねぇ、健吾君、ホントに頑張ろうね。みんなが見守ってくれてるから…。見守る中、ラブストーリーが始まって永遠に終わらない。
――絶対に何があっても…。
「あなたと私の物語2」は、「あなたと私の物語」の続編で書いてみましたが…どうでしたか? この物語はこれで終わりだけど、次回作も読んでくれたら嬉しいです。