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永遠にサヨナラ

それから四日後、健吾君や渚、夏子と永遠にサヨナラする日がやって来た。

もう、永遠に会えないんだ。あれから私、自分の気持ち伝えてない。何度も自分の気持ち伝えようとした。だけど、伝えられなかった。


人魚に戻る日、私は一人で部屋の窓の外を眺めていた。

この七ヶ月間、健吾君はいい夢見させてくれたね。楽しいことや嬉しいことは勿論、嫌なことや辛いことも色んな思いをしたけど、私にとっていい思い出だよ。この貴重な気持ち、絶対にどこに行っても忘れない。

健吾君の笑顔、健吾君のサッカーしてる姿。何もかもが眩しくて、目を瞑ってしまうくらい輝いてた。でも、もう二度と見ることも会うこともないんだよね。そして、一緒になることも―――。

健吾君と初めて出逢った海。永遠の場所。きっとあの海だけは私の中から消えない。

初めて人間の世界に来た時は、不安でどうしようもなくて仕方なかった。だけど、健吾君や渚や夏子、色んな人がいたから三ヶ月間、頑張れた。そして、今回も…。

青空の遥か向こう。失くした何かが見える。大きな大きな何か。人間が失くしてきた、忘れてきた何か。それは多分、きっと愛とか勇気だと思う。その何かは人魚にもあると思う。






「今日でサヨナラする日だな」

健吾君が悲しくて、少し辛そうな表情で言った。

「うん、そだね」

私はコクりとうなずく。

「江海ちゃんと一生会えないんだと思うと、オレ辛いよ」

「私も辛いよ」

「だけど、オレ頑張るな。江海ちゃんのこと、当分忘れられないと思うけど…。江海ちゃんも人魚の世界で頑張れよ」

「うん」

と、その時、

「江海ちゃん! 渚ちゃんと夏子ちゃんが来てくれたよ!」

ママが息を切らせてくる。

「ママ…」

「江海、健吾に聞いたから来たんだ」

「渚…夏子…」

ジワッ。

私の瞳から涙が溢れてくる。

「江海と別れるの、これで二回目だね」

「そうだね。二人共、元気でね」

私はわざと明るい声を出す。

でも…ダメなの…。

涙がもっともっと溢れる。

「江海、何泣いてんのよ」

「だって…」

言葉につまってしまう。

「ホントに元気でな」

そう言った健吾君の瞳からも涙が光るのが見えた。

そして、私は健吾君に抱きすくめられた。

「もう二度と会えないけど、オレのこと忘れんなよ!」

「絶対に忘れない。私のことも忘れないでよ」

「オゥ! 大丈夫!」

「ホントにホントだよ」

「わかってるって」

パァァァァ…

光が差し込んだ。

これで最後になるんだ。みんなと会えなくなるんだ。

そう思うと、私の瞳に涙が余計に溢れる。

「みんな、元気で…」

そう言うと、私は目を閉じて消えた。


健吾君と一緒に過ごせた日々。幸せだった。健吾君が私を呼ぶ時のニュアンス。切なくて甘い声。私にとって最高に幸せだった。夢を見てる気分だった。ホントに嬉しかった。

一度目の別れは、何も怖くなかった。だけど、二回目の別れは、みんなに会えないのがとても辛い。永遠にサヨナラしたんだもん。これで私の恋も終わる。バイバイ…私の初恋。バイバイ…健吾君。バイバイ…渚、夏子、田崎さん、水野さん。バイバイ…人間の姿だった私。ホントに…バイバイ…。






「江海、どうだった?」

ケイが笑顔で聞きながら寄ってくる。

「健吾君に私の気持ち伝えなかったの」

「え―っ、なんで―? どうして―?」

予想してたケイのセリフ。

「健吾君のこと好きだってコが現れたから諦めたの」

「なんで?」

「だってもう永遠に健吾君に会えないんだもん。告白してOKの返事もらっても付き合えないもん」

「そうだけど…ちゃんと自分の気持ち伝えたほうが良かったんじゃないの?」

「うん…」

これで…これで…いいの。もうふっきれたから…。私がいなくなれば、健吾君は水野さんと付き合うことになる。

江海、これで良かったんだよね。私の想いは無駄にならなかった。そう解釈していいよね。

「ケイ、行こっ!」

「そだね。グチグチ言ってても仕方ない。じゃっ、行こうか」

と、私とケイが行きかけようとした時、

「江海!」

振り向くとシ―ナ女王がいた。

「あ、シ―ナ女王」

「どうしたんですか?」

私が質問すると、シ―ナ女王は驚くことを告げた。

「江海、あなたを永遠に人間にします」

――え? 今なんて言った…? 確か、永遠に人間にするって…聞こえたけど…。

「人間にするってホントですか…?」

「えぇ、ホントよ」

「ヤッタね! 江海」

「うん!!」

健吾君とずっと会える。ホントにずっと会えるんだ。

そう思ったら涙が溢れてくる。

「なんで泣くのよ?」

「だって…嬉しいんだもん」

健吾君のことで色々悩んだ日。なんだか今となってはいい思い出。私が人魚で生まれてきたけと自体、憎んだこともあった。だけど、そんなことなかったんだね。人魚だから出来ることもあるんだね。今、気付いたよ。

「江海、私とケイには会えないけど、人間の世界で頑張るのよ」

「はい、わかりました」

しっかりと返事する。

この世界と別れるのは三度目。三ヶ月間、人間になった時。一週間、人間になった時。そして、三度目はこの世界には戻って来ない。次からは人魚の住人ではない。人間の世界の住人になるの。

「江海、しなくちゃいけないことがあるの」

「しなくちゃいけないこと…?」

「それはね、人魚の世界の人間を忘れなくちゃいけないの」

「そんな…」

「いいわね?」

「…はい」

不安でいっぱいの私。

「大丈夫よ、江海」

「うん…。よしっ! 頑張る!」

私は不安になりながらも強く決意する。

「じゃあ、いいわね? あの海にみんなが出迎えてくれるわ。目をつぶって…」

「はい」

私は静かに目をつぶった。

三度目の人間の世界。それは永遠に人間になるために行くの。シ―ナ女王やケイには会えないけど、私は大丈夫。頑張るから。一人じゃない。みんながいる。




「江海ちゃん」

優しく包み込むような声の健吾君。いつもの笑顔でいる。渚も夏子も田崎さんも水野さんもいる。

「オレんち、来るだろ?」

「うん、もちろん」

「山岡さん、これから仲良くしよう」

田崎さん、なんだか違う表情。変わったよね。

「江海、今度、一緒に出掛けようよ」

「カラオケに遊園地にコンサートに…」

「オッケー!!」

ガッツポ―ズを作る私。

「江海さん、やっぱり私のほうが健吾君のこと諦めるよ。どう頑張ったって人の気持ちを動かせることは出来ないってわかったから…」

「いいの…?」

「いいの、いいの。気にしてないから、ねっ?」

「水野さん、ありがとう」

こんなやりとりをしてると、人間なんだと実感する。

私、これで人間なんだね。初めて人間の世界に来た時みたい。健吾君と出逢った時のことが蘇ってくる。あの日、ここから健吾君が家まで運んでくれたんだよね。初めて出来た友達も渚と夏子だった。恋のライバルは田崎さんだった。二度目は水野さんだった。今までのことが私の脳裏に浮かんでくる思い出。

これからはここでの新しい生活が始まろうとしてる。頑張らなきゃ。強くならなきゃ。大丈夫。私は頑張ってみせるから――。


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