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私のライバル

渚と夏子が帰って、私は健吾君の部屋の前でウロウロと行ったり来たりしてる。健吾君の部屋の中に入りたいような入りたくないような…。でも、迷ってたらダメだよ、江海。早くしなきゃ。

と、思ってたらガチャッとドアが開いた。

「あ、江海ちゃん。どうしたんだよ?」

部屋の前に立ってた私に健吾君が声をかける。

「う、うん…」

私が頼りなく返事した時、ヒョッコリと昨日、健吾君の家に遊びに来てた水野さんが顔を出した。

「江海…さん…?」

私に声をかける。

「は、はい…」

「私、水野沙絵。よろしくね」

ニコッと私に笑顔を向ける。

「山岡江海。よ、よろしく…」

私の声、震えてる。

「江海ちゃん、中に入れよ」

「うん…」

やっとの思いで返事した私。


健吾君の部屋に入ったんだけど、二人は仲良く話してる。

この二人を見てると辛いな。健吾君の優しい声。七ヶ月前は私に向けた声だった。だけど、今は違う。水野さんに向けてる。

七ヶ月という時間は私にとってすごく長かった。七ヶ月間、健吾君も同じ気持ちでいてくれている。そう思ってた。だけど、今、健吾君の心の中には水野さんという女性が入り込む隙間が出来たんだね。

こうやって私が悩んでることなんて二人にとって関係ないことなんだよね。健吾君の中には私じゃなくて…水野さんなんだね…。

昨日、私のことまだ好きだって言ってくれた時、嬉しくて涙が出てきそうだった。もしかしたら、告白すれば成功するかもしれない。そう思った。でも、そんなけとなかったんだね。私の勇気はムダになったんだね。このままだと失恋しちゃう。人魚の私を相手してても仕方ない。今になって気付いたこの気持ち。淋しいよね。

そう思うと、胸が激しく痛んで不意に泣きたくなる。

健吾君のバカ…。私がいるんだよ? 少しは気を使ってよ。私が人間の世界にいられるのは、あと五日なんだよ? 私、もっともっと健吾君の側にいたいのに…。健吾君が他の女の子といると不安になるよ。切なくなるよ。

私にとっては特別な一週間で、やっと健吾君や渚や夏子に再会出来たチャンスで、自分の勇気を振り絞って、健吾君に気持ちをぶつけようと思ってたのに…。

私は何がなんだかわからなくなってうつむいてしまう。

「江海ちゃん、どうした?」

私の様子がおかしいことに気付いた健吾君。

「……」

黙ったままの私。

「江海さん…?」

水野さんも心配そうにしてる。

「……」

「オイ、どうしたんだよ?」

「江海さん…」

「…健吾君の…バカ…」

「え…?」

「健吾君なんて、大ッキライ!!!」

自分でもビックリするくらいの声で叫んでた。

そして、私は立ち上がって、健吾君の部屋を出ていった。

「江海ちゃん!!」

健吾君が呼ぶ声を無視して、自分の部屋に戻って、ベッドに倒れ込んで泣いた。

涙が次から次へとポロポロ頬に伝う。


聞きたくない。あの二人の笑い声なんて。見たくない。あの二人の笑い顔なんて。あの二人と一緒にいるのは辛い。私にとって辛いよ…。

どうして? どうしてなの? なんで、私は人魚なの? 叶うはずのない恋をしてるの? もうわからなくなってきた。健吾君は私が他の男の子と一緒にいてもいい。そう思ってるの?

私ってば、自分の思い通りにならないからってあの二人に八つ当たりしてる。水野さんに嫉妬してるだけ。健吾君と一緒にいられるだけでも良かった。それなのに、八つ当たりしてる。私って最低だ。健吾君と一緒にいられるだけでもいいじゃない。明日、水野さんに会おう。会って、「私、健吾君のこと諦める」って言おう。私は永久に人魚になんてなれないんだから…。だから、ちゃんと水野さんに会って言わなくちゃ。今、告白しても失恋するだけ。健吾君と水野さん、とても似合ってる。

そう思う私がいた。






それから二時間、私はウトウトし始めてたその時、私の部屋のドアのノック音が聞こえた。私は顔を上げて、ほんの少し腫れた目をドアに向けた。

「江海ちゃん」

健吾君が優しく声をかけてきてくれる。

「健吾君…」

「大丈夫?」

「うん…」

気のない返事をする私がいるベットまで健吾君は来てくれる。

気のない返事なんかしてたら、大丈夫なわけないって言ってるようなもんだよね。

「さっきはごめんな」

「……?」

「水野と二人で話してたから、江海ちゃんヤキモチ妬いただろ?」

「うん、まぁ…」

私は改めて健吾君の部屋で大きな声を出したことが恥ずかしくなってきた。

「さっきの江海ちゃんの言葉、結構傷付いたな」

「ご、ごめん…」

「謝らなくてもいいんだって。オレも悪かったんだし…」

「え…?」

「オレだって同じことされたらヤキモチ妬いてた。江海ちゃんのこと好きなのに、何やってんだろう、って思ったよ」

すまなそうな健吾君の表情。

私のハ―トにズキンと突き刺さる。

「ううん、いいの。私、気にしてないから…」

無理に笑顔を作る私。

「ホントは気にしてるんだろ?」

「あ、え…?」

「顔でわかるよ。江海ちゃんて思ってることすぐ顔に出るからな」

「アハハハハ…」

笑ってごまかす私に対して、健吾君はいつもと変わらぬ笑顔をしてる。

健吾君のこと、諦められなくて当然だね。健吾君の笑顔は優しいもん。笑顔が好き。健吾君のこと、見つめる度に気付く。ずっと側にいたいんだ。ずっと隣にいたいんだ。早く言葉に出さないとウソになりそうで、言葉にしなくちゃ不安になる。当たり前だけどそう思う。

「江海ちゃん、明日、水野が会いたいんだって」

「明日…?」

「うん。駅前のファーストフ―ド店があっただろ? そこで四時半に会おうってことになってるんだ。いいよな?」

「うん」


急な展開だよ。健吾君のこと諦めるって言うチャンスだ。でも、水野さんから会いたいってなんだろう? 何か用かな? 用があるから会いたいって言ってるんだけど…。

健吾君の口から水野さんの名前が出るのは、ちょっと辛いけど、同じクラスメ―ト、同級生なんだから仕方ないよね。

江海、水野さんという恋のライバルには負けてはダメだよ。例え、諦めることになっても…。二分の一の確率。私のカ―ドと水野さんのカ―ド、どちらを引くかは健吾君次第。出来れば、私のカ―ドを引いて欲しいっていう気持ちが強い。だけど、明日は水野さんに言うよ。

「私、健吾君を諦める」って…。自分の気持ちを伝えに人間の世界に来たけど、私が健吾君のことを好きなように水野さんも健吾君が好きなんだもん。もう健吾君のことで悩むことはしたくない。だから、ちゃんと水野さんに言おう――。


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