第八十八話 残酷な奴め!
心の中の木霊って何だよ...てかセリがいないせいで1人でボケ1人で突っ込む。1人って寂しいんですな...
何となく惨めさを感じ、さっさとよくわからない奴を輪廻の輪に戻してあげよう。一度蘇った俺が言う事では無い気がするがそこはまぁ、うん。
なんか考えるのが面倒くさくなってきたのと勇者君が凄くごちゃごちゃ言ってうるさいので早速...
「ふぅ...『龍化』」
アクはそう言うと体内から溢れ出るようにして魔力が漏れだし、それが円を書くようにぐるぐる回る。その光景はさながら台風の様だった。
ある程度魔力の風がアクを中心にして回ると突然魔力で生じた風は炎を帯びる。周囲にその炎がロケットの様に飛ばされどんどん火が燃え広がっていく。
それを見た勇者は「クッ、なんて残酷な奴め...!」グッ、と血が滲む程に手を強く握った。そして跳ね飛ばされたように燃え広がる炎の方に飛んでいき、空中で停止し燃え広がる木造の家に剣を一閃。スー、と空気を撫でるように振るわれた剣の先から触らなくとも目で分かる、そんな冷気が漏れ出ていた。
「『空気斬』」
剣を肩に置きもう一度剣を振るう。次はドッ、と言う空気を振動させ剣に纏った冷気を飛ばす。そうすると直ぐに火は凍り、まるでベールの様に火に包まれた家を包んだ。
包むのと同時にアクも『龍化』が終わり、振るい立たせるように尻尾を大きく振りどこかの家を潰した。これは不可抗力だ。
『グオオオオオオオ!!!』
「おおおおおお!」
2人は目で通じ合い一斉に攻撃を仕掛けた。勇者の剣はアクの喉元に、アクの口は勇者を消し炭にしようと大きく開けた。
キンッ
勇者の剣は龍化したアクの皮膚を貫けなかったようで甲高い音をたてて後ろに弾き飛ばされた。
一方アクはいきなり剣を突き立ててきた勇者に驚き一瞬発動に遅れたが無事弾き返された様子を見て安堵し『龍の咆哮』を放った。
『龍の咆哮』は防御不可能な攻撃、まぁゲームで言うところの固定ダメージって奴だ。ダメージは固定では無いが。
勇者は剣の腹でダメージを減らそうと試みたようだが無理なモノだと一瞬で悟り、姿を消した。...え?
『龍の咆哮』は勇者のいた場所をすり抜け、後方にある大きな時計塔にあたった。いや、消し飛ばした。
先程の攻撃は結構本気の攻撃だったらしくアクは肩で息をしプシュー、とそんな音をたて『龍化』を解いた。
元に戻ったのを確認した勇者はいきなりアクの背後に現れ首を切ろうと剣先を突き立ててきた。流石に『龍の鱗』と言うスキルがあるので大丈夫だと思うが安全を期して上半身を反るようにして剣を回避した。




