昼食の終わりと夕食の誘い
「卑怯だぞ!」
「反則じゃねーのかよ!」
生徒達は、足をかけた生徒に罵声を浴びせていた。そうしている内にも、その生徒はゴールに近づいていく。
生徒の1人が、ミラに尋ねた。
「足をかけるなんて、反則だと思います。失格にするべきじゃないんですか?」
「いいえ。足をかけてはいけないなんて、一言も言ってないわよ。最悪、死人が出ることも考えていたし。この学園で競争をするという事は、そういう事なのよ。戦うっていう事は、そういう事。どんな小さな戦いでも、手を抜くのは間違っているの。そういう意味では、足をかけたのは正しいわ」
「そんな……」
「でも、転んだ方はそれで諦めるとは思えないけど」
ミラはそう思ったし、願ってもいた。
だがそれも、負けてしまってからでは遅い。
一位の子は、今にもゴールしそうだ。
急げ……
その時だった。
後数十センチでゴールする体が、不意に倒れる。
その原因は、ルークを見れば明らかだった。
ルークの体を中心として、地面が凍っていく。
それはゴール前を凍らせただけでは止まらず、闘技場全体を覆っていった。
ミラは急いで防御魔法を使ったが、生徒達は間に合わなかったようだ。全員、足が凍って地面に張り付く。
そして、生徒の中で唯一凍っていないルークはゴールに向かって余裕で歩いていき、ゴール。ルーク達のチームは一位だ。
「先生、闘技場掃除はしませんよ?」
ミラはふふっと笑った。つまり、自分の勝利を認めろ、と言っているのだ。
「ええ。あなたの勝ちよ、ルーク君。でも、さすがにもうこの氷、邪魔だと思わない?」
「いや、そうしたいのは山々なんですけど……」
ミラの脳裏に最悪の事態が浮かんだ。
もしかして……いや、それは無いだろう。だって、自分で出現させたんだから。
もちろん自分で溶かすぐらい、出来るよね?
「すいません、溶かし方、分かんないです」
「え……嘘でしょ!?」
「いや、割とガチで。爆破なら出来るんですけど……」
「その魔法、私一番苦手なのよ!どうするのよこれ!」
どうするのよとは言ったが、魔法が使えないこの状況で、出来ることが一つしかないのは分かっていた。
自由に動けるルークとミラは、固い氷を日が暮れるまで割るはめになった。
氷をやっと割り終わり、ルークが寮に戻った時には、もう外は真っ暗だった。
おかげで、昼食もまともに食べれていない。思春期の男子にとっては、とても辛い仕打ちだ。
ルークはあまりの空腹に、ベッドに倒れこむ。
「腹へった……」
今度闘技場掃除をさせられる皆も辛そうだが、これはこれでかなりキツかった。
「どうしたもんかな……」
売店にでも行ってお菓子で誤魔化すのもいいが、このままいっそ寝過ごすというのも手だ。
『コンコン』
迷っている所で、そんな音がドアの方から聞こえてきた。
出ない訳にも行かない。重い足を引きずって、ドアを開ける。
そこに居たのは、グレイスだった。
「あれ? グレイスに部屋教えたっけ?」
「いや、隣だよ?」
「え!? マジで!? 最高!入学してから初めての良い知らせだわ!」
思わぬ朗報にルークが喜んでいると、隣の部屋のドアが開き、クレアが出てきた。
「……私とパートナーだった時よりも嬉しいの?」
「いや、あんたとパートナーだったのは少し悪い方の出来事だったんだけど」
そう言った瞬間、ルークに炎が襲いかかってきた。油断していたルークはそれをギリギリで避ける。
「危ねぇ!燃やす気かよ!?」
「いっそ寮ごとあなたを灰にしてしまおうかしら。見てるだけで吐き気が止まらないわ」
「あー分かった分かった。俺が悪ぅござんした。だからちょっと黙ってて」
そこでルークはグレイスに質問をする。
「それで、どうしたの?」
聞かれると、グレイスは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら答えた。
「いや、そ、その……ゆ、夕食の時間だし、い、一緒に?ご飯なんてどうかなーなんて……」
夕食。お腹が減りすぎてそれがある事を忘れていたルークにとって、その提案は救いだった。
「天使だ……」
ルークがそう呟くと、グレイスの頬はさらに赤みを増す。
「ほ、褒めたって何も出ないからね!早く食堂行くよ!」
「だな!もう行くか!」
二人はクレアを置いて食堂に行ってしまった。