伝説の獣
ブルーアイ。それは、この世界の伝説に出てくる獣の名。
まだ人が魔法を知らなかった頃、人はとても貧しい暮らしをしていた。
他国と戦争を繰り返し、その度に市民を戦場に狩りだす。各地で反乱が起こり、次第に国は乱れていく。
それが続き、先に崩壊した国の負け。負けた国は征服される。
勝っても、手に入るのは荒れ果てた土地と、死にかけの市民達。
勝った国ですら、数年で滅びて行く――
このままでは、人間は滅びてしまう。誰もがそう思った時、ブルーアイが現れた。
その獣は、残った人々達にもう争わないと誓わせると、土を耕す魔法を教えた。
その魔法を使って、人間は再び栄えた。ブルーアイともうまく共存し、素晴らしい時間を過ごした。
だが、人間とは愚かな物だ。その力を研究し、防御魔法や回復魔法、さらには攻撃魔法まで作り出した。
力を握った人間達は争いを起こそうとしたが、ブルーアイが邪魔になった。
そこで人間は、最悪の行動に出る。
世界中の国々で同盟を結び、ブルーアイを殺そうとしたのだ。
何度失敗しても、繰り返し、繰り返し。
それに反対する者は、一人もいなかった。
そして、もう自分にはどうしようもないと悟ったブルーアイは、予言を残して去っていった。
『争いを続けるのはお前達人間の自由だ。だが、このまま争いを続ければ、前と同じことが起こるだろう』
その予言を聞いて目を覚ました人間達は、なるべく争いを避けて生活し、現状に至る。
その伝説の獣が出現した。そんな物を相手に戦おうとする者がいるわけがない。いるとしたら、そいつは完全に頭がどうかしている。皆、ルークと戦う番になると降参していき、チーム8は優勝。ルークの合格は確定した。
その数週間後。
学園の入学式が行われた。同じチームの少女はもちろんだが、ルークが戦った少女も合格だったようだ。
あの子には申し訳ない事をした。後で謝りに行こう。ルークはそう決意した。
入学式が終わった直後に、その少女に話しかける。
「あの、ちょっと話があるんだけど、来てもらっても良い?」
そう言うと、彼女は素直についてきた。
「話って、何ですか?」
「この前は、驚かせてごめん。ていうか、大丈夫?」
暫しの沈黙の後、彼女が口を開く。
「大丈夫ですけど、一つ質問させて下さい。私くらいなら、あなたは素手で倒せたはず。それどころか、優勝も狙えた。なのに、何故獣の召喚なんて面倒なことをしたんですか?」
ここで嘘をついてはいけない。そう思ったルークは、その答えを真剣に話始めた。
「確かにあの時、素手でもいけるとは思った。でも、十二位以内に入れるっていう確証は無かったし、負ければ仲間にも迷惑がかかる。だから、君には申し訳ないけど、使わせてもらった。あれを使えば、絶対に優勝できると思ったから」
ルークが言い終わると、その少女は――微笑んでいた。
「この学園は全寮制ですから、近くに住む事になりますし、名前、教えてもらっても良いですか?」
「ああ。俺はルーク。ルーク・カルヴィン。君は?」
「私はグレイス。グレイス・ウォーカー。よろしく! それじゃ、寮まで一緒に行こ!」
そしてルークはその少女、グレイスと一緒に寮に向かって歩いていく。
影から黒髪の少女が覗いているのには気づかずに。
その少女の心臓は、グレイスが敬語を使わなくなった時、急に激しく動き出した。
「……何故私が焦っている?」
その答えは、いくら考えても見つからなかった。だが、それも仕方がない。
彼女がその気持ちを経験したのは、初めてなのだから。
その気持ちの名は、恋という。