空間を裂いて
彼女はとても強かった。私は、人生で初めて本気をぶつける事ができた。
もし彼女の魔力量がもう少し多ければ、私は負けていただろう。
彼女はまだまだ強くなる。強くなって、私の前に現れた時には、もう一度――
と、まだ感動に浸っている場合ではなかった。
私はもう一人の相手の元に歩いて行く。
何故だか分からないが、彼の強さを測ることはできなかった。今まではこんな事、無かったのだが。
不思議に思いつつも、彼に挑戦状を叩きつける。
「ここまで残っているんですから、あなたも強いんでしょう? お手合わせ願います」
「良いけど。絶対負けないから」
「私こそ、負けませんから!」
そう言いはしたものの、さっきの戦いで魔力を予想以上に消耗したので残りが少ない。早めに勝負をつけなくては。
私は強めに一発、氷の塊を彼に向けて放った。彼には避ける気配もない。もしかしたら、案外あっさり勝てるかも知れない。
だが、結果は想像の真逆だった。
彼が氷を素手で打ち砕いたのだ。それも、なんの魔法も使わずに。
「……え?」
あまりの衝撃に、喉から間抜けな声が漏れる。あり得ない。どんなに強い剣士でも、強化無しではこんな事はできないはずだ。それなのに、彼からは全く魔力が感じられない。
なんて力。近くに来られてはひとたまりもない。私は彼と距離を取った。
「これで、終わらせる!」
魔力を限界まで絞り出し、先程の戦いの時と同程度の規模の氷を作り出し、放つ。
「これなら、破壊出来ないでしょう!」
そう確信した、その時だった。
「出てこい、ブルーアイ」
彼がそう言うと空間が裂け、そこから無理矢理に獅子のような獣が出てくる。
白色に輝く毛。青く澄んだ瞳。それは絵だけで見れば綺麗なのだろうが、その獣の持つ異様な雰囲気のせいで、私は恐怖しか感じられなかった。
その獣にとって、私の作った氷の塊なんて砕くにも値しなかったのだろう。いとも容易く息で吹き飛ばした。
今更になって、彼の強さが測れてきた。いや、測り切れてはいないだろう。私の細胞の全てが全力で警告を発しているのが分かる。
逃げなくては。逃げなくては――
そう思うほどに体は震え、涙は溢れ出す。
「降……参。助……け、て……」
遂に私が恐怖に負け、助けを求めたの同時に、その獣は裂目の中に帰って行った。