〈睡眠時下ネタ連発症候群〉
夕食を食べ終わり、部屋に戻ってシャワーを浴びた後、ルークはベットに潜り込んだ。
なかなか良い寝心地だ。自宅のものよりずっと良い。
その寝心地の良さと疲れが相まって、ルークはすぐに眠ってしまった。
次の日の朝。
まだぼんやりしている目を擦りながら布団をめくると、短く整った赤い髪の男が隣で寝ていた。
目が痒く、ぼんやりとしか見えなかった。とりあえず水で洗おう。
転ばないように気を付けながらルークは洗面台に向かった。
「……ん? 短く整った赤い髪の男!?」
異変に気づいたルークは急いでベットに戻る。そこにはやはり見知らぬ男が寝ている。
「誰だよあんた!ここ俺の部屋だぞ!?」
「むにゃ……ふかふか……」
「そりゃあそうだろうな!ベットだもん!なんで俺の部屋のベットで寝てんだあんたは!」
「むにゃ……いいじゃんそんぐらいもう少し寝かせてちょーだいよ」
「どうやったら寝ながらそんな早口言えんだよ!? 絶対起きてんだろお前!」
「キノコが……穴に……ズッポズッポ……」
「急に変な譬え話すんな!」
「***が……***に……ズッポズッポ……」
「いやそのまま言えとは言ってねえよ!レーティング的にアウトだから!18禁コーナー行きになるぞ!」
「むにゃ……作者が隠すから大丈夫でしょ……試しに言ってみる……」
「言わなくて良いわ!」
「****」
「やめんか!」
「オナニー」
「ちゃんと隠せ作者!てかこんなキャラ作るな!」
《いや、そういう訳にもいかないんだな、これが》
「いやなにちゃっかり登場しちゃってんだよ作者!てか登場しちゃまずいだろ!」
《産みの親に向かって何を言うか、愚か者!》
「それを言ったら元も子もねぇよ!帰れ!」
《ふん、ひとまず帰ってやるとするか。後でクレアにお仕置きさせよっと》
どうせ脅しだろう。こういうのは反応すると逆効果だ。
そう判断したルークは、あえて何も言わなかった。
そして、天の声が去ったところで、ようやく男が目を覚ます。
「おはよ。良い朝だね。」
「やっと起きた……てか、ここ俺の部屋なんですけど」
「ああ、そういえばそうだったね。ちょっと寝かしてもらったよ」
「というか、誰?」
「ああ、僕はここの清掃員だよ。掃除してたら眠くなっちゃってねー。寝かしてもらったって訳さー」
その答えを聞いた瞬間、ルークの雰囲気が変わる。いつでも戦えるように体の準備を整えたのだ。
この状態のルークを見れば、常人なら恐怖で声が出なくなる。だが、男は慌てる様子もなく、余裕の表情で聞いてきた。
「どうしたって言うんだい? 何も怪しい動きはしてないんだけど」
「もう一度聞きます。あなたは誰ですか?返答によっては、それ相応の処置を取らせてもらいます」
数秒置いた後、その男が答える。
「なんで清掃員じゃないって言い切れるの?」
ふざけた男だ。誤魔化すならまだしも、開き直ってきた。すぐに学園に知らせる事もできたが、もう少し調査してみたい。問い詰めて、逃げられなくするのも悪くない手だろう。それに、なにかあってもあいつを召喚すればなんとかなる。
悩んだ末、ルークは問い詰める事に決めた。
「あなたの靴に付着している乾いた土です。この辺りで乾いた土がむき出しになっている場所は、この学園の闘技場しかありません。闘技場掃除は生徒への罰ゲームとして清掃員にはやらせないでおいてあるはずですから、まずあなたは清掃員ではなく、自由に闘技場に入れる学校関係者、または――勝手に入った侵入者のどちらかです」
「ふーん。それだけ?」
「もう一つ。あなた、結構……いえ、とても、強いですよね?」
そう言うと、その男は驚いた顔をした。
「いやー、力は隠したつもりだったのに、見破られるとは思わなかったよ!驚かせてごめんね、僕はジャック・サリヴァン。この学園の学園長をやってます。よろしく!」
「え……学園長!?」
こんな伝統ある学園の学園長がこんな変態?ありえん。
驚きつつも疑っていると、ドアがノックされたので、一旦会話を中断し、ドアを開ける。
そこにいたのは、ルークのクラスの担任、ミラだ。
ミラはルークの顔を見るなり、挨拶もせずに用件を告げてきた。
「この部屋にさ、短く整った赤い髪の男の人来てない?出張の予定があるのに『期待の一年生見てくる!』って言って出かけたっきり、まだ帰ってこないのよ」
「……居ますけど、その人って学園で一番偉い人だったりします?」
「ええ、学園長よ。こんな所でサボっているなんて……。ごめんなさいね。あと、あの人〈睡眠時下ネタ連発症候群〉なの。何か言われなかった?」
睡眠時下ネタ連発症候群。ルークはそんな病気を聞いた事が無かった。
というか可哀想過ぎる。だんだん哀れに思えてきたルークは、学園長を庇ってやる事にした。
「いえ、疲れてたみたいで、何も言わずに熟睡してましたよ。今中にいるんで、連れて行って下さい!」
「あ、そうなの。じゃあお邪魔します」
綺麗に整ったルークの部屋を無遠慮にずかずかと進んでいくミラ。おかげで、ベッドまですぐに着いた。
だが、そこには誰もいない。窓まできっちり閉まっていて、密室状態だ。どうやって脱出したのだろうか。
「あれ、さっきまでそこに……」
「逃げられた!」
ルークが言い切るより早く、鬼のような形相をしたミラが全速力で部屋を出ていった。