草創期 《魔界商人2》
本日二本目…さて、かわいいせいラムたん、どんな悪女ことセイラム姉さんに変貌するのやら…
レムリアを殺したエクソシストは、自らの職を辞した。その後、レムリアの足跡を追う旅に出る。彼女が、この町に訪れる前に寄った村に到着すると一人の老婆に出会った。話を聞くと
「あの子は優しかったねぇ。私が腰を痛めると喜んで手伝ってくれた。この村には多くの困った連中がいて、全部あの子が引き受けたんだよ。私は教会にいる聖女よりも、私らの事を真摯に受け止める彼女がよっぽど聖女に思えるよ」
この村に暫くいると、色んな話を聞くことが出来た。豚が病気になった時、まじないで治してくれた。旦那が病気の時、薬を調合してくれたばかりか。畑仕事を手伝ってくれた。子供の遊び相手となってくれた。
話を聞くときりがない…この村は彼女の優しさに包まれていた。
次の町に行くと、一人の奴隷商人と話を聞くことが出来た。
「あれは…彼女が人浚いに捕まった時、俺のところに売られたんた。彼女は何も文句言わずに過ごしていた。ある時、彼女が奴隷に勉強を教えていたんだ」
「俺は聴いたんだよ。何でそんなことをしてるんだよ?ってな、そしたら彼女はこういいやがったんだ」
「貴方のお手伝いよ。貴方は生きるために彼女らを売っている。彼女らも生きるために売られている。だから、その助けよ。今の奴隷に知識がある奴隷は少ないわ。言葉が書ける。計算が出来る。そんな奴隷は高く売れるし、売られた彼女らも良いご主人様と出会えれるでしょ?」
「俺はこの話を聞いたとたん、涙が止まらなくなっちまった。今までクソだった俺の人生が救われたんだ」
また別の村では元盗賊と話が聞けた
「あっしらは、そのお嬢ちゃんに救われたんだ。ある時、お嬢ちゃん一人で通りかかった時、あっしらはいつも通り、囲って脅したんだ。身ぐるみ全てを頂いたら、勿論嬢ちゃんと犯るきだった。だけどよ。その嬢ちゃんは」
「いつもご苦労ね。生きるためにそんな必死になるなんて。必要なら全てをあげるわ。勿論私の体もね」
「あっしはこれを聞いて彼女の顔を見た途端跪いたんだ。お嬢ちゃんの顔はあっしらを許して下さる顔だった。それからあっしらは足を洗い、今村人のために汗水垂らして働いている」
元エクソシストは何十年かけて世界を旅した。彼女が辿った足跡を追うだけの旅、出会いの数だけ彼女の優しさに出会える。そして彼はついに出会ったのだ。
アビスに…
「初めまして!やっと見つけましたわ!」
元エクソシストは振り返ると、大変美しい女性が憤怒の笑みを浮かべていた
「やぁ、魔女だね。復讐かい?なら、喜んで受け入れよう。君らと僕らは決して交わることが無いからね。遠慮なく受け入れようではないか」
その後、彼はアビスにより、この世で最もつらい痛みを永遠に受け入れる運命に陥る…だが、彼の顔には慈愛の満ちた笑みを浮かべていたのだ
おしまい
著:黒の聖女を殺した彷徨える罪人
セイラムは〈黒の聖女〉を閉じる
「いつ読んでもよく意味が分からない本だなぁ~。アビスは私のご先祖様だけど…レムリアという魔女なんて聞いたことが無いなぁ~」
セイラムは本を閉じ、すやすやと眠る
『レムリア…あぁ、かわいい、私のレムリア…眼を覚まして…』
なんかうるさい…セイラムは目を覚ますと
誰もいない…
なんだかトイレに行きたくなったので、壁に掛けてあるランタンに火をつけ、部屋を出る…
夜の魔女の宴本部はとても薄暗く静かだ…
フゥ…
前方に何か通った
セイラムは先程何か通った場所へ走る
何もない…誰かの使い魔かな?
そのまま、外が一望できる廊下までつくと、窓から淡い光が差し込んでいる
レムリアが覗き込むと、ローブを被った何かが、魔女の墓の前に立っていた。
レムリアが固まっていると…その何かがゆっくり、振り返り、
…消える
レムリアは大急ぎで先程何かがいた場所に直行すると…
やはり、何もいない…
墓石に彫られた名前は…
『我らが母であるアビスここに眠る』
魔女はとても長命にな種族である。基本殺されない限り、肉体は死ぬことはなく、老いも自在に操れるといわれている。だが、決して不死ではない。魔女は長く生き過ぎると魂が壊れるのだ。魂がなくなった魔女を屍虚と呼び、自分の魔力を使って暴れるため、封印する必要がある。
封印方法は、地中に地下牢を作り閉じ込めるだけである。そして、地上に続く階段に大きな石板で塞いでおしまいである。
ビキっ
突如石板が真っ二つに割れる…割れた石板の隙間から階段が見えるが…セイラムは深く息を吸って隙間をくぐる…突如、石板が砕け、地上に続く入り口をふさぐ…もう、退路はない…
コツコツ…
セイラムは進む…
進んだ先は…
大きな部屋だった…
辺り一面本がうずたかく積まれ、いろんな薬品の蒸留が行われ、いろんな生物の鳴き声が響く
部屋の奥にはいくつもの扉がある…
意外な光景に固まっているセイラムに、後ろから怪しい影が…
抱きつく
「いらっしゃい!可愛いお客さん!」
女性の声だ
後ろを振り向くと、先程アビスの墓の前にいたローブの何か…もとい、女性がいた。
女性がローブを脱ぐと…
「あっ!あの時の行商人さん!」
「んっ?」
メガネをかけた美しい女性は首を傾げる?
セイラムは何故か、たまたま持っていた本を見せる
「…ッ」
女性は黙る
その様子にセイラムは、自分はなにかやってはいけないことをしたんじゃないかと焦りはじめ、出そうになる涙をこらえる
女性は急にフッと笑い、セイラムの頭をなでる
「あの時の女の子か…お嬢ちゃん、名前は?」
「セイラム…」
「ふーん、セイラムか…いい名だ。君の話をしてくれないかな」
「うんっ!」
セイラムは自分が落ちこぼれであること、姉二人が大好きだということ、お母様が大好きだということ、自分は足手まといになりたくないこと…全てを話した
「なるほど…セイラム、君はアビスの子孫なのか…」
女性は慈しみ深く笑う
「うん、魔法は全然使えないし、魔導も理解できない落ちこぼれなの…私、いらない子なのかも…」
セイラムはしょんぼりする
女性はフッと笑う
「次は私の話を聞いてくれるかな?」
私には妹がいたんだ。妹は君と同じくとても出来が悪い子だったんだ。それでも彼女は私に近づくために見えないところで必死に努力をしていた。他人がなんと言おうとも彼女は続けた。自惚れではないつもりだが、彼女は私のことを尊敬していた。彼女は私に純粋な愛を送っていたんだ。私も満更ではなく、彼女の良い見本となろうとした。彼女の純粋な気持ちが欲しいだけに、自分を磨いた。彼女の願いは私が輝き続けることだったのだ
ある時を境に、だんだん彼女と会うことが出来なくなっていた。何かとすれ違うようになったのだ。私が会いに行くといつも補修か、お使いがあり、家庭内の食事でもいつも部屋で食べている状態となり、部屋を訪れるといつも寝るようになっていた。だんだん、彼女が私のことを嫌いになったのかと思い、私は更に磨きをかけた。私を見てほしいがために…それが一層距離を離すことに気付かない愚かな私…
そして、とうとう彼女は家出をしてしまったんだ。しかも、それに気づいたのは一週間後だ!家族や友は皆、このことを隠してたんだ。家族はこう言った
「アレは我らを憎んでいる。力なき者は力ある者を恐れ、憎しむ。お前は我らのために立派に育ってくれたのだが、あの出来損ないは我らを恐れ、逃げ出した臆病者だ!アレのことを忘れろ!」
私はその言葉を真に受けて呆然となり、自らを磨くことをやめようとしたんだ。あの言葉を聞くまでは…
あれは、公園を散歩していた時
「聞きました…アビス様の寄生虫がやっと消えましたのよ」
「それは本当なのですか?」
「ええ、何とも自分の立場をわきまえて、自ら家を去ってくれたそうよ」
「それは朗報ですわ。私たちがアビス様に近づくために、あの邪魔な小娘を排除するために努力したことが身を結びましたわ」
「ええ、良いことしましたわね。はじめは向こうの親からこんなこと頼まれて、やるかどうか迷ったんだけど…受け入れて正解でしたわ。これで、我が家はアビス様の家とお近づきになることが出来たんですもの!オホホホッ」
私は目の前が真っ暗になったよ。今まで妹は私を避けてたんではなくて!この豚どものせい!そしてそれを命令したのが…我が親…我が一族…
それから私は調べに調べた。妹は学校で同級生、後輩、先輩、教師全員からいじめを受けていた。私はそんなことを知らずに一緒に学校に行った…
妹は家では、気高かった父から暴力を振るわれ、美しく聡明だった母から罵倒され、優しかった祖母から無視され、使用人からは侮蔑の視線と冷笑を浴びていた…彼女はそんな地獄を一人で耐えていた…
私は知らない…何も知らない…彼女がいつもしていた尊敬の眼差しは…実は助けてのサインだったのか…
調べれば調べるほど、吐き気がする…彼女は孤独に生きていたんだ…彼女が家を出た理由は私だ…私が、彼女の願いを免罪符にして、自分を、自分だけを磨くことに没頭していたからだ…力が無いだけで強いられる世界…
私はどうやって彼女に償おう…今の私は彼女に触れる資格はない…この手を洗わないと…
ドウヤッテ?
そうだ…力のあるものを殺そう…力のなき者が暮らせる世界を
まず、こいつらを殺そう…
けど、今じゃない…
いずれ、もっと残酷な方法で…
全ての魔女を殺してやる